ボーリング
ショッピングセンターの駐車場に車を止めた。
「こんな所にショッピングセンターがあるんだ。」マコトは建物を見上げて意外そうな声を出した。
「ああ、ここは『スクイズモール』と言うんだ。建物の中の店はほとんど潰れているけどね。」幸弘が答える。スクイズモールには、大型電気店、大手のハンバーグレストラン、大型ゲームセンター、コンビニ、その他に服屋がある。しかし、中に入るとほとんどの店は潰れていて中がスカスカのショッピングセンターである。
「へぇ~」マコトは演技なのかはわからないが「やっぱり、すごいね。いろんなところ知っているんだね。」と感心したように言う。そして、「野球のスクイズと同じ名前だ。」と笑った。幸弘は少し嬉しくて「ほら、あっちを見て、あっちにもスーパーとホームセンターまであるんだ。」とスクイズモールの便利さを教えてしまった。
「うわぁぁ、便利そう。」マコトは笑顔を見せる。
「おい、早く行こうぜ。」哲郎はそう言うと、ずかずかと1人で歩き始めた。おそらく、久しぶりのボーリングで良い結果を残せるか緊張しているのだろうと幸弘は察した。幸弘はマコトにボーリングのアベレージを訊ねながらボーリング場のあるゲームセンターへと足を向けた。
ボーリングが始まるとマコトの独壇場だった。始まって初っ端からターキーを叩きだし、その後も順調にストライクを重ね幸弘と哲郎に大きく差をつけて断トツのトップだった。
「・・・マコトちゃん、ボーリング対してやらないってさっき言ってなかったっけ?」幸弘は前に座るマコトに低い声で訊ねる。
「はい。あんまりやりませんけど。」相変わらずの笑顔でマコトは答える。
「・・・それにしは上手すぎだよ。ほら、哲郎なんて、あんなにしょぼくれちゃっているじゃないか。」 自販機に向かう哲郎の背中を指差して言う。その背中には、はっきりと『哀愁』と書いてある。
哲郎は自分の不甲斐なさを嘆くように「おい、またストライクだよ。」とマコトがストライクを出すたびに泣きそうな顔で幸弘に言い寄って来た。どうやら、哲郎の美学には男は女に負けてはいけない、というものがあるらしい。
「手加減した方がいいですかね。」マコトは妖艶な笑顔を見せて言う。
「いや、そうゆうことじゃないんだけど。・・・」幸弘はまじまじとマコトを見る。
「・・・どうかしました?」マコトは首を傾げる。
「・・・君は本当に中学生なの?」マコトの妖しさに惑わされて、もう少し婉曲に訊ねようとしたが、自分でも馬鹿だと思うぐらいにストレートに訊いてしまった。
「・・・どうして?」マコトは不思議そうにまた首を傾げた。
「いや、ただ、中学生にしては、大人すぎるような気がして。」幸弘は率直に言う。
「ふっふふ、じゃあ、いくつぐらいに見えますか?」マコトは顔に手を当てて訊ねる。
「・・・見た目は二十二歳ぐらいで、精神年齢は少なくてもおれらより上に見えるよ。」幸弘は言い終えた後、なんだか、からかわれているようで少し悔しかった。マコトには余裕がありすぎる。
「ふっふふ、二十二歳かぁ、・・・幸弘さん。」マコトは幸弘の名を呼ぶ。
「なに?」幸弘が返事をする。「中学三年生はいくつか知っていますか?」
「・・・十四か十五だろ。」幸弘が答える。
「はい、その通りです。それがわたしの年齢です。」マコトはそう言うとまた妖艶な笑顔を見せた。幸弘は声を失って見惚れてしまった。「ジュース買って来たぜ。」哲郎が元気のない声で、ハッと意識を取り戻した。
「おお、ありが・・・」幸弘が哲郎にお礼を言おうとしたら哲郎の後ろに三人の男が立っていた。
「おい、おまえら面を貸せ。」体格の良い長身の男がドスの効いた声を出した。
幸弘達は絡まれた。