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作戦会議


 深夜のスーパーのバイトを終え、携帯を開くと哲郎から一通のメールが届いていた。『バイトが終わったら電話をくれ』絵文字も顔文字もない、シンプルで愛想のないメールだった。幸弘はその指示に従い、電話をした。すると、哲郎は「けやだい公園に来てくれ。重大な発表がある」と高揚した声で言った。幸弘は仕方なくバイト先のスーパーから原付でけやだい公園に向かうと哲郎は木の上に登って待っていた。

「よぉ、来たな。待っていたぞ。」ニキビの付いた顔で木の上から幸弘を見下して哲郎が言った。

「なんだよ。重大な発表って。」幸弘は原付のエンジンを切ってヘルメットを脱ぐ。二人がいつも集まる場所はこの『けやだい公園』だった。哲郎の家からは自転車で十分ほどの距離にあり、幸弘の家からは原付で十五分程の距離である。哲郎は高校からの友達であり、同じ部活の仲間だった。だが、クラスは同じになったこともなく、趣味やゲーム、好きな音楽などの好みは全然合わなかった。幸弘の好きな野球を哲郎はルールすら曖昧であるし、哲郎の好きな芸人のギャグは幸弘には理解不能だった。おまけに、好きな女性のタイプも違う。幸弘が好きな女優を語れば、哲郎は首を傾げ、哲郎が語れば、幸弘が美化し過ぎだと一刀両断に切り捨てる。二人が唯一分かり合えることといえば、微乳派より断然巨乳派ということだった。

 しかし、どういうわけか不思議と馬が合った。友達が少ないということもあるが、二人は高校を卒業してからもよく遊ぶ仲であった。

「いい作戦が思いついたんだよ。」木から飛び降り、高校生の頃と変わらず顔で得意げな顔になっていた。

「ふーん。どうせくだらないことだろ。」幸弘達は高校を卒業してからくだらないことをやり続けて気が付いたら十一月になっていた。趣味を作ろうと釣りやスケボーなどを買い、自分らに合わないと気付いて辞めて、何か思い出を作りたいと自転車を漕ぎ続けて、隣の県まで行って、迷子になって交番に帰り道を尋ね、おまけに足を攣る、とくだらないことをやっていた。いわゆる、友達もあまりいなくて、何に青春を費やしていいのかわからなかったのだ。そして、最近の二人の口癖は『クリスマスまでには彼女がほしい』であった。それを心の中で懇願した数はもう数えきれなかった。

「くだらないことなんかじゃない、彼女を作るいい方法が思いついたんだよ。」哲郎が指を鳴らして反論する。

「あっそう。じゃあ、聞くだけ聞いてやるよ。」幸弘はどうせくだらないことだと思いつつも、藁にでもすがる気持ちなので、少しだけ期待をしてしまう。しかし、哲郎の提案はとんでもないものだった。

「ナンパだ。」哲郎は煙草のヤニで黄ばんだ歯を見せて言う。

 幸弘はそれを聞き、すぐに「無理だ」と首を横に振る。だが、哲郎はそれを予想していたように「まぁ、普通じゃ無理だよな。」と自信に満ち溢れた表情で言った。

「ああ、おれ達じゃ相手にされない。笑って馬鹿にされる。きっと、おれ達がナンパしたところで『わたしキモ男からナンパされたんだ』ってその嫌みな女のステータスを上げる敗残兵となるだけだよ。」幸弘と哲郎は身長も百七十に満たない上に、顔も決して恵まれているとはいえなかった。また、女と気楽に会話を楽しめるほど、女に免疫があるわけでもないし、人付き合いは上手ではない。さらにいえば二人とも人見知りであった。

「でも、中学生相手ならどうだ?」

「中学生?」幸弘は眉を顰めて聞き返す。

「ああ、おれだって馬鹿じゃない。」哲郎はいつになく真剣な顔で言った。「東京まで行くわけじゃないし、この辺にいる可愛い女をナンパするわけじゃない。ターゲットを中学生の女の子にするんだ。」

「・・・お前正気か?」幸弘は高校生からの友人をまじまじと見る。しかし、哲郎は「何か問題でもあるか?」と呑気なことを言った。

「問題も何もそれって・・・犯罪にならないか?」大学生が中学生に手を出すのは犯罪のレベルであると幸弘は思った。法律で裁かれなくても道徳的に問題があるだろう。

「別に犯罪ではないだろ。それに、おれの親だってオヤジとおふくろは十離れているし。」哲郎は平然な顔で言う。

「でも、それは出会い方の問題だろ。」

「出会い方ってなんだよ。別に中学生だっておれらと最低で四つしか変わらないぞ。おれの両親は十だぞ。」哲郎は手を四にして言った。

「でも、そうゆうのは質の問題みたいなものだろ。綿飴十グラム多いのとステーキ十グラム多いのじゃ全然違う。」

「ステーキと綿飴?」

「ステーキが隣のテーブルの方が多かったら、隣の方が少し多そうだな、と思うだけだろ。でも、綿飴は十グラムだけでもあからさまに見た目が違う。店員を呼びだして訴えても良いレベルの違いだ。」

「まだ、中学生は綿飴のように軽いと言いたいのか?」

「ああ、年齢がな。」

「でも、お前の好きなこの間結婚した女優は相手と十四歳から付き合っていたってニュースでやっていたぞ。確か相手とは五つ違う。だから大丈夫だ。」

「本当か?」幸弘は心底驚く。「そうすると、十九歳と十四歳か?」丁度、中学生と大学生と同じ年齢だと計算する。そこに関しては本心からの驚きだった。

「ああ、だから大丈夫だ。」哲郎はやたら『大丈夫』という言葉を念入りに押してくる。

「う~ん。でも、中学生ってのはなぁ~」幸弘は自分のお気に入りの女優が十四から十九歳の彼氏がいた、という前例があってもイエスとは言えなかった。そもそも、芸能界と一般の世界では外国と同じぐらい文化が違う気がした。それに、自分にはロリコンという性癖はないと思っている。どちらかと言えば自分が付き合うのは年上だと思っていた。しかし、ナンパというものもやってはみたい気持ちもあった。

「大丈夫だ。犯罪ではない。」哲郎が強い瞳で主張をする。

「そこまでいうなら、考えるけど、中学生を甘く見過ぎてないか。いくら、中学生でもおれ達ぐらいのレベルでは相手にされないと思うし、数打てば当るっていう考えも甘いんじゃないか。」

「・・・どうゆう意味だ?」今度は哲郎がまじまじと幸弘を見た。

「例えば服装だ。最近の女の子小学生ですらお洒落が好きらしいし、おれ達みたいなダサい格好した男に魅力を感じないんじゃないのか?」二人とも決してお洒落とはいえなかった。幸弘は一応考えて服を購入しているが、お洒落とは程遠いし、哲郎に至ってはいつもジャージで済ましている。

 幸弘が疑問を口にすると哲郎は考え込むように黙り込んだ。そして、ゆっくりと「おれ達にはナンパが無理だというのか」と残念そうに嘆いた。

「違う。そうじゃなくて、もっと計画してやる必要があるんじゃないかと思ったんだ。」

「計画って具体的にどうするんだよ?」哲郎が口を尖らせる。

「そうだな。まずは、お洒落な服を買った方がいいと思う。それで、どうナンパするか・・・シミュレーションとか? ・・・そうゆうのが必要なんじゃないか?」幸弘は適当に思い付きで言う。

「そうか・・・計画性か・・・それも一理あるな。」哲郎は必要以上に頷く。

「でも・・・失敗したら・・・おれ達は変質者だ。」幸弘は真顔で言った。

「それはないだろう。」すぐに哲郎は笑って冗談にしようとする。「それは大袈裟だよ」と。

「馬鹿。まだ、中学生だぞ。親だって敏感な時期だし、子供なのか大人なのか判断しづらい時期だ。」

「そうか~?」哲郎は首を捻る。

「そうだよ。この発想すら犯罪かもしれないぞ。」

「それはないだろ。」哲郎は少しむきなって言い返す。

「でも、相手は子供だっていう奴だっている。義務教育中だぞ。」

「でも、お前だって賛成したじゃないか。」

「ああ、だから、おれは相手を必ずしも中学生でなくてもいいんじゃないかと思う。」

「普通の女をナンパするのかよ。」哲郎は鼻で笑い飛ばし「そっちの方が現実的ではない」と言った。お前は普通の女を何だと思ってんだと聞いてみたくもなる。だが、哲郎の言うことも理解できないわけでもないので「例えばだよ」と誤魔化す。

「例えばってどうゆう意味だよ?」哲郎がすかさず聞き返してくる。

「例えば・・・中学生が予想以上に幼かったり・・・自分が犯罪をしている気分に苛まれたりした場合は・・・方向性を変えて普通の女性をナンパするのも悪くないんじゃないかと思っただけだよ。」幸弘はしどろもどろに言う。自分で言ってからナンパをするというのが恥ずかしくなってきた。

「う~ん。そうだなぁ。わかった。でも、まずは中学生を様子みてからな。」哲郎は念入りに中学生を押す。

「わかった。でも・・・・哲郎ってロリコンなのか?」そこは聞いておかなければならないような気がした。もし、こいつがロリコンなら計画は中止だ。

「別にちげーよ。ただ、中学生ならおれ達でもいけるんじゃないかと思っただけだ。」

「それだけの理由か?」

「ああ、そうだ。」哲郎は堂々と答える。潔いのか根が腐っているのか、狡賢い判断すべきなのかわからず「ああ、なるほどね。」と悩みながら幸弘は必要以上に頷いた。



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