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手当の包帯  作者: 彩霞


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第12話 効力の弱まり

*****


 さらに一週間ほど経ったときのことである。

 薬屋から魔法具の包帯を貰ってから二か月が過ぎていた。季節は春から夏へと変わりつつあり、日差しもじりじりと強くなってきている。だが、怪我人の数は一向に減らない。


 その日、レネアは額に魔法具の包帯を巻いた若い女性を診ていた。

 傷は比較的浅かったものの幅があり、もしかすると傷跡が残る可能性があったので、施設長の判断を仰ぎ魔法具の包帯を使ったのである。一時間ほど付けたので、もう治っているだろうと思い、レネアは包帯を外しに来たのだ。


(あれ……?)


 だが、包帯を外してみると傷口はふさがってはいるものの、完治には程遠い状態だった。はっきりいって、魔法を使わない治療と何ら変わらない状態である。しかも、縫っている糸も抜かれていない。こんなことは今までにありえないことだ。


「レネアさん? どうかしたんですか?」


 レネアが黙って患者の額を見ていたため、見られている方は不思議そうな表情を浮かべていた。


「あ、いいえ……。傷、少し深かったみたいなので、もう少し安静にしていましょうね」

「そうなんですか?……でも、治りますよね?」


 楽観的に笑う女性に、レネアも笑みを返した。


「ええ、大丈夫です。包帯を変えて時間が経ったら、また施設長に診てもらいますので、それまで安静にしていてくださいね」


「分かりました」


 素直に頷く患者に安堵する一方で、レネアは内心焦っていた。もし、魔法具の効力が弱まっているのだとしたらどうしたらいいのだろう、と思っていたからだ。


 彼女は患者に対していつも通りの対応をしたのち、患者服などを洗うついでに包帯を洗いに行く。最近では、魔法具の包帯を使うことが「通常」になっているので、使い終わったらすぐに洗うことが鉄則になっているのだ。


(いたんできてる……。このせい……なのかな?)


 レネアは包帯を煮沸消毒をしたあと、魔法で「乾燥」を施しそんなことを思う。

 何十人も救って来たのだ。魔法具にも救える限度というものがあるのかもしれない。


(限度があるなら、いつか怪我人を治せなくなる日が来るってことだよね……。効力が落ちているとして、元に戻るのかな?)


 今は「アシュリーが治療魔法が使える」ということで通しているが、もし魔法具が使えなくなったら、患者に嘘をついていたことがバレる。レネアは気温が暑くなっているというのに、急に体が寒くなるのを感じた。


「これって、まずいんじゃ……」


 レネアはまだほんの少し湿り気がある包帯を手に取ると、早足で休憩室へ向かった。そこであれば、誰かしらがいると思ったからである。

 すると案の定、休憩をしているフレイがいた。レネアは、調理師が作ったお菓子をほおばる彼女を見て、少しほっとする。


「どうしたの、レネア?」


「フレイさん、少しいいですか?」


「どうしたの?」


「治療魔法の効き目が悪くなっているみたいなんです」


 フレイは「まさか」といって笑う。


「気のせいじゃない? どんな患者の怪我だって状態が違うんだから。思ったよりも傷が深くて治らなかっただけでしょう。もう少し時間をかけてみたら? 一昨日おととい私が使ったときも、ちょっと治りが遅いかもと思ったけど、もう一度巻いて二時間ぐらいした後に取ってみたらきれいに治っていたわよ」


「そうですか……」


「そもそも効き目が悪くなっているって、どうして思ったの?」


「今日、額に怪我をされた若い方の治療をしたんです。でも、幅はあっても浅い傷です。それなのに、一時間で治らなくて……」


 するとフレイの表情から笑みが消える。


「本当に……?」


「はい。あの、魔法具って使えなくなるときってあるんですか?」


 レネアの問いに、彼女は戸惑いつつも横に振った。


「分からないわ。私も魔法具を使ったことがないもの」


「そうですか……」


「これは施設長に相談してきた方がいいと思う。私たちにはどうにもできないわ」


「分かりました。そうします」


 レネアは頷くと、部屋を出て施設長を探す。

 すると、ちょうど廊下を歩くエラの姿が見えたので、アシュリーの居場所を聞いてみると、「一号室で治療をしているわよ」と教えてくれる。レネアは短くお礼を言うと、急いでその部屋へ向かった。


「失礼します。施設長、少しお話があるのですが、いらっしゃいますか?」


 エントランスの一番近くにある、大部屋の扉を開けて尋ねる。すると、ドアに近いベッドを仕切るカーテンが、シャーっと開き、補佐をしていたリルが出てきた。


「今、取り込み中よ」


 きつい口調で言われ、レネアはすぐに謝った。


「すみません。でも、急ぎの用事で――」


 すると、カーテンからアシュリーも出てきた。


「リル、対応ありがとう。でも、来てくれてちょうど良かった。レネア、包帯を持っている? 薬の包帯」


「薬の包帯」とは、魔法具の包帯のことである。施設側の人間だけに分かる合言葉だ。


「あ、はい。でも……」


「貸して。今使いたいの。洗ってあるわよね?」


 アシュリーが手を差し出す。しかし、レネアはすぐには出せないでいた。


「はい、それはもちろん……でも」

「洗ってあるから問題ないでしょう? 貸して、レネア」


 部下の報告よりも、患者の状況を優先させようとするアシュリーに負け、レネアは頷いた。


「……はい」


 渋々と包帯を出すと、アシュリーは「少し湿っぽいわね」と言って、「乾燥」と魔法を唱える。するとほんの少しあった水気が飛んだようで、包帯はカラカラに乾いたようだった。


「これですぐに治りますからね」


 アシュリーが、おじいさんのふくらはぎに包帯を巻きながら、優しく声を掛ける。それを見ていたら、「早く持ち場に戻ったら」とリルに言われてしまう。


「……分かりました」


 レネアは仕方がなく、この処置が終わってからアシュリーに事情を説明しようと思ったときだった。


「はい、これで大丈——」


 アシュリーのその声が聞こえたかと思うと、突然、包帯から周りが全く見えなくなるほどの眩い光がレネアたちの視界を覆った。

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