まさかの魔王
趣味なし、特技なし。世間に流されるままに生きてきた俺23才、フリーター。無事大学に現役合格し、順風満帆な人生を遅れるかと思えば就活に失敗しバイトをかけ持ちするだけの生活だ。
早速だが…そんな俺は、不慮の事故で死んだ。
「可哀想に…貴方は本来ならば米寿で余生を堪能し、子孫に見守られながら幸福の元死にゆく運命だったのに…そんな貴方に、特別サービスをして差し上げましょう!」
目の前には、天使がいた。煌びやかな装飾を纏い、頭上には光輪が輝いている。
「特別サービス…って、俺死んだんですよね?もしかして天国に行けるんすか?」
「いえ!貴方にはなんと…異世界に行き、新たな人生を歩むチャンスを差し上げます!貴方が元いた世界とは異なり、魔法があり、色んな種族がおり…きっと、とてもクレイジーで楽しい人生になりますよ!それに、特別大サービス…世界で最も強大な力を差し上げます!どうです?行きたくありません?」
「おぉ!行きます!行かせてください!」
そんなこんなで、俺は異世界に転生することになった。
△△△
「魔王ノクス…最後に言い残すことはあるか?」
意識が朦朧としている。手足が拘束され、首元に冷たい感覚が伝わってきた。
若い女性の声がするが…俺に話しかけているのだろうか?
「はっ…最後の最後まで目を覚まさぬとは、とんだ腑抜けた野郎だな。……魔王ノクス。お前の…死刑を執行する。」
目を開くと、赤髪の女性が俺に剣を振り上げていた。
「う、うわぁぁぁ?!殺さないで───!!!」
…とても情けない声で命乞いをしてしまった。
「う、うわっ?!びっくりした…急に目が覚めたのか…?!」
声を張り上げたおかげか、声量に驚き俺に振り落とされるはずだった剣はあらぬ方向へと落とされた。
ついでに周りを見渡してみると、戦闘の後なのかボロボロになった黒い王宮?のような所にいた。
「あ、あれ、なんで俺こんな所に……うわっ、てかめっちゃ拘束されてるし…」
「…呆れたぞ、この期に及んで命乞い…それに、それは記憶喪失の不利なのか?」
剣を喉元に突きつけられた。
「ひぇ…と、とりあえずその剣下ろしてくれません?」
「…なんだ、この違和感は……お前は…本当に魔王なのか?」
「魔王?なんの話っすか、俺違いますけど…」
「とぼけるな!魔王ノクス!貴様の悪行、忘れたとは言わせないぞ!」
「い、いや…そう言われても……俺も何が何だか…」
「うーん、アヤちゃん、ちょっと落ち着いた方がいいかも…私もなんか…違和感があるというか…」
近くにいた少女が話しかけてきた。
修道女のような服装の少女は俺に手をかざすと、何か呪文を唱えた。
「こ…これは…!た、魂が……入れ替わってる…?!」
「なっ…?!……クソッ、魔力は全部消費させたハズだったのに、最後の最後で逃げられたか…昏倒しているうちに殺しておくべきだった……」
「あ、あの……」
「貴様はしばらく黙ってろ!」
何故か怒られた。それから二人でその場から離れ、仲間と合流したのか五人ほど遠くで話し合いをするような声が微かに聞こえた。
数十分放置された後、赤髪の女性が戻ってきた。
「貴様、名は?」
「お、俺は九条傑…です」
「スグルか、少し目を閉じろ」
言われた通りに目を閉じると、額に冷たい感触がした。その感触の後…一瞬身体が燃えるように熱くなったが、すぐに元に戻った。
「う、うわっ──?!な、何を……?!」
「これから私の言うことを復唱しろ。…永遠の女神に誓って、勇者アヤメと…元魔王スグルは、不戦の契りを交わす。」
言われた通りに復唱した。何も起こらなかったが、目を開けていいとのお許しと手枷を外された。
「よし、私に着いてこい。あぁ、言い忘れていた。私の名はアヤメだ。2度は言わない…ちゃんとその小さな脳に刻んでおけ」
「はぁ…」
なんかやけに高圧的だな……そんなふうに思いながら俺はアヤメの後を着いて言った。
少し歩くと、4人の男女が見えた。
「アヤちゃ〜ん、ご飯の準備できてるよ〜!」
先程の修道女のような少女が食器を持ちながら手を振ってきた。
「あぁ…その前に、こいつの紹介をしよう。エリに一通り聞いていると思うが…見た目は魔王だが…中身は違う。スグルと言うそうだ。」
「え、えっと…状況が飲めないんですけど?」
「貴様は黙っていろといったはずだが?」
また怒られた。理不尽…
四人は修道女の少女を筆頭に、自己紹介を始めた。
「あはは…ごめんね、後でちゃんと説明するから、今はアヤちゃんに合わせてあげて?あ、私はエリナ、回復術師だよ」
「双剣のカナメです。どうぞよろしく」
「…少し納得いかないけど……僕は魔術師、フレグナだ。」
「…………精霊術師、ルナ。…あんまり話すの得意じゃないから、それだけよろしく…」
「よし、これで全員紹介は終わったな。一応言っておくが…妙な行動は取るなよ。もしも敵対するような仕草を見つけたら…次の瞬間には首の皮一枚繋がっていないと思え」
「は、はい…」
何がなんだかわからないが…ひとつだけ理解した。
……どうやら俺は、魔王に転生したらしい。




