1.幼き日の姫の罪
霜を含んだ朝靄が庭園の石畳にうっすらと白い幕を張っていた。
冬の朝の冷たい空気が頬を刺す。
私の吐息は白く、震える指先は冷え切っていたが、それでも体の芯は熱かった。
私はまた少年のアシュレイを打ち倒していた。
胸ぐらを掴み上げ、勢い任せのアッパーを鳩尾へ捻じ込む。
少年の頭が後ろに跳ね、その拍子に体が浮いた。
倒れ込んだ細い躯に、間髪入れず踵を振り下ろす。
鈍い音。少年の呻き声。それらが私の耳に心地よく響いた。
再び襟首を握って地面から引き剥がし、全身の力で放り投げる。
濃藍の外套がふわりと翻り、少年の壊れた人形のように軽々と宙を舞い、芝と霜を巻き上げながら転がった。
私は荒い鼻息を整えながら、倒れた少年を見下ろしていた。
胸の中に、言葉にできない感情が渦巻いていた。
征服感――まるで何かを手に入れたような、満たされた気持ち。
清々しささえ覚えていた。
それは間違っているとどこかで分かっていた。でも止められなかった
うつ伏せのまま震えていた肩が、不意にしゃくり上げるように揺れた。
ゆっくりと、少年は顔を上げる。
浅葱色のくりくりとした瞳が大きく見開かれる。
次の瞬間、少年の顔がくしゃりと歪んだ。
「うっ――ぐすっ、うぅ……」
わんわんと、泣き声が庭園に響く。
少年は地面に手をついたまま、肩を上下させ嗚咽を漏らしていた。
泣きじゃくる声を聞きながら胸の奥から湧き上がる得体の知れない満足感に酔いしれた。
胸の奥で何かが激しく脈打っている。
これが何なのか当時の私には分からなかった。
少年はいつもやり返さなかった。
どれほど酷いことをしても強く拒絶はしなかった。
殴られても蹴られても彼は決して私に手を上げることはなかった。
彼は蹲り、涙で濡れた頬を袖口でぬぐいながらも、憎悪とは違う光を湛えた瞳で私を見上げていた。
その瞳は、悲しそうで。でも、どこか温かくて。
私はその眼差しが苦手だった。その瞳が自分に向けられると体の奥が疼く。
まるで何か大切なものを傷つけているような、罪悪感にも似た感覚。
でもその痛みすらも甘美だった。
彼のひ弱な魔力では私の腕力に叶うべくもない。
それを熟知していた私はお構いなしだった。
「ねえ、リリアちゃん、もう少し優しくして……」
彼のか細く遠慮がちな言葉や泣き声を聞くたびにむしろ苛立ちが増した。
この感情を、どう処理すればいいのか分からない。
ただ彼を傷つけることでしか、この胸の内の嵐を鎮めることができなかった。
あとから知ったことだが、それは私の母方の血、エルフには珍しいオークの血が、そうさせていたのだ。
オークの血により、”番”を弱らせ占有しようとする獰猛な本能に突き動かされていたのだったと。




