EP.5 父さん登場?
する事がない。とりあえずベッドに寝ころがる。
ふかふかしてる。柔らかすぎて眠れるかあやしい。
さすがに寝てるのは印象悪いな。じいやさんを探して
何らかの指示をもらった方が良さそうだ。
ベッドから起き上がるとやっぱり身体が痛い。
「先が思いやられるな」
廊下に出たはいいものの、「どこにじいやさんがいるんだ?」侯爵と用事があると言っていたが...
とりあえず客室の近くに戻った方が良さそうだ。
と、思ったのだが...「どこだここ?」
慣れない広い場所で無事に戻れるはずもなく、
え、どうする?気づくとそこは...
おそらく厨房だった。酒場のじいさんが使ってたグラスらしいものがあるし、牛や卵が置いてある。
今日の昼食か。
...!!
殺す気で俺の首に当てたであろうソレを握りしめる。俺の右手からは血がダラダラ流れた。ナイフ、いやあくまで調理器具かな。「何者だ?クレスウェル家に仇なす者は容赦しない!」侵入者、いや使用人。なら何で俺にナイフを...
待て、俺の顔を知ってるのは侯爵とじいやさんとソフィアだけ!!
「誤解だ!俺は新しく雇われたソフィア様の護衛だ!
ルカという。聞いていないか?」
「じゃあなぜ厨房にいる?」
「それは...屋敷が広くて迷った」恥ずかし。
「オマエのことをフォスター執事長の元へ連れて行く。もし、違えば...分かっているな?」
ソフィアサマ。もう少し説明長くて良かったんじゃないか?
「はい、彼はソフィア様の護衛になるルカ・キャンベルで間違いありません。あなたには特に説明しておくべきでしたね。彼は今日から貴方の息子になるので。」「ルカ。この屋敷の料理長のリアン・キャンベルです。貴方の父親でもあります。」
『え』お互い顔を見合わせる。この料理人が俺の義父?多分コイツも同じ事を思ったのだろう。顔が終わっている。
「フォスター執事長!僕は聞いてません!」
「侯爵様がお決めになった事です。拒否するのなら
この屋敷から去りなさい。」
いや、彼の言っていることは正論だ。急に義理とはいえ息子なんて。同情するが俺も引けない。
「よろしくお願いします!お義父さん。」
どうだ。満面の笑みだろ?猫被りは数え切れないほど
してきたからな。ご機嫌取りは大事だからな。
「.........よろしく」
「そういえばルカ。あなたはお嬢様から説明を受けているのでは?何故厨房にいたのですか?」
「えっと...説明が早く終わってすることが無かったのでじいやさんを探してた、です」
「おい、口の聞き方が悪いぞ!」
「構いませんよキャンベル。そのあたりは後程矯正いたしますので。先に手当しましょう。このままでは床が汚れます。ルカ、手当は自分で出来ますか?」
「道具さえあれば」つばつければ大丈夫とはさすがにいえない。
「怪我をした状態で主人に会うというのはあまり良くありません。護衛なら構いませんが、今日のあなたはまだ客人なので。ただでさえ繊細な方ですから」
繊細?具体的にどのあたりか聞きたいな。
「今日は帰っても大丈夫です。急だったので荷物もありませんし、泊まるのは難しいでしょう。明日使いをよこすのでそこからはここに住んでもらいます。」
「分かりました。」
「では、すみませんがキャンベル。ぬり薬と包帯を」
「...わかりました。」
「では、私はこれで。仕事が溜まっているので。」
「あ、ちょっと!」
「父親と仲良くしてくださいね。」
満面の笑みモードは疲れるんだ。できればしたくないのに!
「おい、包帯と塗り薬だ。ボウズ。 ...悪かったな」
やっぱりこの人は普通だ。あの3人から感じる何かを
この人からは感じない。
「いや、こっちが動き回ったのも悪い」
義父はそう言うと、俺の右手をとって薬を塗り込み始めた。「い、イテッ!」塗りすぎだ!!料理人は怪我しないのか!?しないから下手なのか!!!
「悪い、力加減忘れてちまってた。」
今度は優しく、むしろ緩すぎる巻き方で包帯を巻いた。俺も知らないが、多分この巻き方は正しくない。
「先に言っておくが、僕とお前は親子じゃない。侯爵様達の前でだけそう振る舞うからな」
なんか、このタイプ...からかいたくなるやつだ!
よし、猫被りとはおさらばだ。
「あぁ、そんな年齢いってなさそうだし。構わない。30後半か?」「僕は31だ!」
「お嬢様、ランチの時間です。」
「ありがとう、アン」あっというまにランチの時間みたいだ。あ、彼を呼ばなければ。おそらく時計も読めないと思うしね。
「アン、あなたに掃除を頼んだ部屋に護衛の男がいると思うから呼んできてくれるかしら?」
「フォスター執事長からお聞きになりませんでしたか?彼はキャンベル料理長と一悶着あって貧民街に帰ったそうです」
え、じゃあ彼はもう...
「じいやを呼んで。」
「じいや!何があったの?」
「迷って厨房に入り込んだようで侵入者と勘違いしたキャンベルに右の手を切られたようです。
食事の場に呼ぶのもどうかと思ったので今日は帰って
いただきました。急に泊まるのは難し」
「分かったわ。ありがとうじいや。」
護衛を辞めた訳じゃなくてよかった。
アレス将軍の剣について聞けていないもの。
(本当にそれだけ?)
今日の昼食はいつもと変わらない。変わらないのに。少し寂しかった。
「本当に初日で解雇されたのか?敬語が下手だったからか?あれほど教えたのに...」「違う、怪我したからだ。」オマエに馬鹿にされるのにはまだ早いぞ。
「そっか、そこまでして最後にオレに会いたい...」
よし、帰ろう「聞けよ!!」「聞かない。」
「でもまぁ、お別れを言いたかったのは事実だ」
「ルカ...オレ、「酒場のじいさんにな」
「オレ帰るからな!!!!!」
「一度しか言わない。バイバイ、ディエゴ」
「ルカ、元気でな。護衛がんばれよ!」
お前には一応感謝してる。俺は認めて無いけど友達だから。まぁ数秒後にはそう思ったことも後悔してると思うけど。