EP.4 帝国の盾
ドンドン。「ルカさんのお家で間違いないでしょうか」うるせぇ。こんな朝に誰だよ。もう少し寝かせてくれ。いや、侯爵家の使いだと後が面倒だな。解雇は困るので上着に手を通す。
「2日ぶりですね。私はオリバー・フォスターと言います。今お時間大丈夫ですか?」
この人、じいやって呼ばれてた...苦手なんだよな。
気配が分からないとどうも...
「大丈夫だ、ですよ」「それでは、馬車に乗って下さい」
「は?話ならこの廃墟でも別にできますが」
「ルカさんの話をしたところ我が主人が是非とも直接会いたいと」「まってじいやさん、主人って」
「ジェイデン・ラ・クレスウェル侯爵様です。お嬢様からお聞きになりませんでしたか?」
聞いてない。あのお、主人は本当に何も説明していない。よく名前も知らない奴を雇おうと思ったな。
「聞いてない、です」
侯爵が常識人な事を祈っておくか...
「到着しました。こちらが公爵邸です。」
それは俺にとっては夢のような景色だった。
建物は俺の住む廃墟の30倍は広く綺麗だった。木の葉は瑞々しく、水が噴き出す、噴水だったか?
水が観賞用。金持ちの道楽だな。
「少し急ぎましょう。到着予定時刻より少々押していますので」
頼むからそういう事は早く言ってくれ。
「遅れて申し訳ありません。ルカさんをお連れしました。侯爵様。」
おそらく客人用であろう部屋に入るといかにも気品のある30代ぐらいの男が高そうな椅子に座っていた。
その横にはご主人になるソフィア、様がいた。
じいやさんが侯爵の横に立つ。キレてないよな?
待て、主人より目線が上って...
急いで腰を下ろし跪く。マズイまずい。これで解雇にでもなってみろ。ディエゴの笑いものだ!
「かしこまらなくていい。顔をあげなさい。」
その声は少し低く、広い客室によく響いた。
ディエゴに2日で教え込まれた敬語の出番か。
「お初にお目にかかります。ルカと申します。」
えっと、次なんだっけ?
「貧民街の出だと聞いていたが...礼儀正しいね。
安心したまえ。ソフィアが君を選んだ時点で君はここの人間だ。今日は詳しい説明をしようと思ってね。ソフィアはしなかっただろう?」
俺、お父さん派になりそう。俺は別に貴族嫌いじゃない。態度がしっかりしていない人間は平等に嫌いだ。
もちろん、俺自身も。
「お父様、一言余計です。私はお父様かオリバーが説明した方が詳しくて良いと思っただけです」
「ひどいじゃないかソフィア。パパと呼んでくれと言ったじゃないか!うんって言ったよね?お父さんは寂しいよ...」
「お父様、じいやとルカの前でやめて!私は16よ!
パパなんて呼んでいる令嬢なんていないわ!」
前言撤回。この親子はどっちもどっちだ。
じいやさんは、笑ってる。これが日常なのか...
「えっと...話が逸れたね。ルカ。君名字は?」
「ありません」母さんにはあったかもしれないが、教えてもらってない。
「そうか。じゃあ名前を君に。私からのプレゼント、いや護衛就任祝いかな。オリバー紙とペンを」
「こちらに」侯爵はペンを素早く動かし、4枚の紙に何かを書いた。
「今子供がいない使用人は4人いてね。好きに選んでくれ」「あ、俺は」
「お父様。ルカは字が読めないから私が読みあげるわ。えっとロドリゲス、ターナー、キャンベル、ジェラルド。この中から選んでね」
選べ、と言われても意味も分からない。それに、
「選んだ人が俺の義両親になるってことですか?」
「まぁ、家系図上だけだし、あまり気にすることはないよ」
「なら、この4人で未婚で男性の使用人は何人ですか?」
「キャンベルだけかな。彼は色々あってね」
「では、キャンベルがいいです」
「分かった。よろしくルカ・キャンベル。」
「あ、ルカはルヴァナ人?一応同じじゃないと後が面倒で」この国は戦争に勝利してから移民が急増し様々な
人種の人間がいる。だから、確認しないと分からないことを多い。
「おそらくそうだと思います。」
父親は知らないが。
「それじゃあ、後は若い者同士で。ソフィア、説明は
頼んだよーオリバーは私と用事があるからね」
「あ、お父様!」
『...』
どうしよう。意外と気まずい。
「えっと...じいやが何か余計な事言ってなかった?」
「じいやさんは特に...知られたく無いことあるんですか?」今敬語できてた!
「いや、別に。それじゃあ案内するわ」
「分かった、ました!お嬢様」
「2人の時は敬語じゃなくていいわ。気を使われるのは好きじゃないし」
「分かった」「ついて来て」
俺とソフィア、様は少し屋敷の中を歩いて、自室へと
向かった。
「こういう仕事は使用人がするものだと思ってた」
「この屋敷はちょっと特殊だから、昔からいる人間が説明した方が早いのよ...着いたわ。ここがあなたの自室」扉が開くと、
そこには楽園があった。広。え、広い。思わず部屋の隅々まで見て回る。埃すらない。ベッドは枕ふわふわだ!「ありがとうソフィア様!」俺は人生で睡眠が1番好きなんだ。邪魔した奴は誰であろうと殴る。
(犠牲の9割はディエゴ)
「中途半端というか...様だけつけなくても」
「いや、つけないと人前で忘れるから」
「そう...じゃあ適当に座って。ある程度の説明はしないとお父様が面ど、怒られるから」
あのお父さんは説教とかしないタイプだと思うぞ。
「あなたはクレスウェル家についてどれくらい知ってる?」「いや何も。貴族で変わり者が多いってことぐらい...すみません。黙ります。」無言の圧はやめてくれ。「クレスウェル家は10年前の戦争が終わってからはこう呼ばれている。 帝国の盾、と。だから命を狙う人が大勢いるのよ。この屋敷も5日前反社会的勢力に襲撃された」
「強い人間がクレスウェル家には必要なの。だから騎士の入団試験の受付をしてたのよ。私には護衛と呼べる人材が見つからなかったから」
「...思っていたより反応が薄いわね。」
「いや、黙りますって言ったし。普通に驚いてる。」
そんな大事な護衛を名前すら怪しかった人間に任せた
ソフィアサマに。
「利点を挙げるとしたら給料が良いことぐらいね。
死ぬかもしれない。お父様は意外と簡単に承諾してくださったけど...本当に良かったの?入団試験1年後に受け直すこともできるけど」
「いいんだ。騎士団でも護衛でも死の確率は変わらない。」金払いはこっちの方が良さそうだし。あと、知らないと思うが俺がイーさんを殺すのを止めた時点で最低限の信頼はしていたから。
「それじゃあ一応誓いをしなきゃいけないんだけど...やり方は わからないのね。」伝わったか。顔芸は大事だな。
「別に誓いの儀なんて形式だけのものだからしなくてもいいわ。」
(そんなもので裏切らない保証はできない。)とでも言いたげだな。
舐められては困る。貧民街では生きる為に表情を読み取ることは必要だった。無いよりかはいいだろう。
「ルカ・キャンベルはソフィア様にこの心臓と身体の全てを託します。」
沈黙。いや、何か言ってくれ。間違ったのか?作法なんか知らねぇし。これで解雇はないよな?
「正しくは捧げますです。それにフルネームでないと、」
「いいでしょう?大事なのは気持ちなんだから」押し切れ!給料のために!!
「あなたは、変わってますね」
「それでは。ランチの時間に私の部屋に来てください。分からないことがあればじいやに。」
「あ、言うのを忘れていました」「?」
「クレスウェル家の騎士として1人称俺は良くないので、変えてください」ドタッバタン!!
えぇ、ドアそんな音なんの...というか、
「俺から変えろと言われても...」
「アレス将軍の剣について聞けなかったな...」
やっぱり私は、臆病なままだ。