EP.1 英雄 2つ目の出会い
この剣を手にしてから6年。
あの男は本当にこの貧民街を変えた。
死体が捨てられることもない。暴行を働いたものは騎士団に捕まった。飯だって週に1度あの男の会社が配給を渡しにくる。
今は少々治安が悪い街で済んでいる。
だから、出ていく必要などないのかもしれない。
なのに、
俺は素振りしている。
遺言なんて、守らなくても...
練習の後はいつもここだ。
「ルカ!お前もう来んなっていったろ昨日!」
「そんな真面目なのじいさんぐらいだろ。
ビールでいい」
「ったく…早死にするぞお前」
じいさんの方が先だと思うけど。そういうことじゃないのか。
「気を付けろよルカ。待遇が良くなったせいで、
色んなところから悪い輩が集まってる。」
「それはどこの貧民街もそうだろ?ここは首都に近いだけの場所だ。じいさんお代。」
いつも通り酒場を出ればそこには...
「よう、ルカ待ってたぜ」
「正解だな。中入ったらじいさん泣いてたぞ。
あと、名前呼ぶなディエゴ。」
お前のような顔からガラが悪い人間は入らない方がいい。
「後で覚えてろよ...じゃあ行くか!お前も来るだろ?暴力団の男が待ってるぞ」
「あぁ」
「やめろ」
誰だコイツ。ディエゴとか見てみろ。強面のくせして、体格の良さと謎のオーラで泣きそうだ。これじゃあさっきまでの強気な態度も台無しだ。
「悪事を働くのは勝手だが、その少年を巻き込むのはやめろ」
「いやいやいや、このガキは俺の仲間だ許可もとってる、だよな?」
その目を止めろ、ビビりすぎてるだろ。
「そうなのか?」
「あーはい。というか、俺と同い年ですよそいつ。」
「それはすまない!ここは最近治安が良くないからな
巡回に来ていたんだ」
「安し...困りますよ〜ここにもまともな人間ぐらいいます」
おい、敬語になってるぞ
「僕はアレス・アンダーソン、騎士団の団員をしている」
『!!』
俺の記憶が正しければアレス・アンダーソンという名は、
戦争を終わらせた英雄と同じ名だ。
にしては若すぎないか?まだ20代でもおかしくない。
「すみません、英雄に失礼を!!」
お前にはもうつっこまないからな。
「いいんだ。よく貫禄のない顔だと言われる。
ところで、君は巷で有名なヘラレスという男を知っているか?犯罪者を騎士団に送りつけてきているんだ。巡回も名目でね。」
え?
「へ、ヘラレスですか?き、聞いたことないです!!
女かも知れませんし、俺は会ったことないですもしかしたらもうこの街にはいないかと!」
もうお前は一旦黙れ!!!!
「そうか...協力ありがとう。それから少年、名は?」
「...ルカ」
「そうか、いい名だ。君騎士団の試験を受けないか?」
「え?なんでオレが?」
「受験は誰でもできる。8ヶ月後平民以下の人間は駐屯地に行く。待ってるよ」
「あ、ちょっと!」
「またね」
「 はあの子に剣を託したのか」
君なら、もしかしたら...
「オイ、どうすんだよ!?ヘラレスの正体がバレたらお前は...!」
「あの感じバレてないだろ。じゃなきゃ、俺に騎士団の勧誘なんてしない」
「どうするのか?」
「はぁ?暴力団の男が待ってるんだぞ。行くに決まってるだろ?」
「違う。騎士団の勧誘だ。お前オレを舐めすぎだ」
チッ、
「お前英雄の時と態度違いすぎるだろ。」
急に落ち着きやがって。俺の貫禄の問題か?
「当たり前だろ。友達の将来のことなんだ、真面目にもなる。オレはお前に騎士になって欲しい。正義感も強さもお前なら持ってる。だからお前は、」
「...お前よくここで生き残ってきたな。
今日はいい。引き渡しは適当にやっててくれ」
「あっ、オイ!!」
調子が狂う。ディエゴも、英雄も。
「ただいまー」
返事が返ってくるわけもない。
ここは数年前に見つけた廃墟。少々雨漏りが激しいが、裏路地よりはよっぽどマシだ。
ここを後数年早く見つけていれば、オレたちは...
「無駄な考えだな」
ディエゴだってあんな奴じゃなかった。
友達とか甘いことを言う奴じゃなかった。
母さんが死んで、金持ちの男と会って、剣を渡されてからずっとおかしいんだ。
前の俺ならヘラレスなんて名前で偽善者になんてならなかった。
勧誘だって、その場で「飼い犬なんてごめんだね」で
終わりだった。
『幸せになりなさい』
母さん、俺はこの感情を放っておけない。
放っておいたら、幸せになんてなれない!
だから、探しに行くよ。
外を眺める。
今日は月が見えない。
けれど、星は散らばっている綺麗な空だ。
昔は空なんて見なかった。けど...
「眠れない?そうねぇ... 空を見てみて!星と星を結べば...ほら、パンの形になったでしょう?」
「おかあさん、あれ!」
「ん、どうしたの?」
「こことここで...リボンになったよ!」
「あら、綺麗ね!おかあさんの髪に飾って欲しいなー」
「ほんものをおかあさんにあげるまでダメ!!」
「おかあさんはルカの気持ちが欲しいの」
「それでも...ダメ!!!」
「そっか...じゃあ大人になったら、プレゼントしてね?」
母さん、オレ16になったよ。
何を描くか決めないまま、星をなぞる。
その時流れたのは、
8ヶ月後...
「これより、入団試験を開始する!」