EP.0 ひとりきりの
ユスタリア大陸で最も影響力を持つ国を聞けば、
全員口を揃えてこう答える。「ルヴァナ帝国」だと。
しかしその称号を手にしたのは今から10年程前のこと。ある英雄が戦争で勝利したからだ。その名は...
アレス・アンダーソン。しかし、この物語は彼のものではない。始まりは戦争から4年後のことである。
この足音、母さんだ!
やっと帰ってきてくれた。オレと母さんは2人きり。
でも、さみしくなんて無いんだ!いつか、2人で旅ができるなら。
「おかえり、かあさ」
綺麗な顔は歪んで、たくさんの汗を流している。
その原因はすぐに分かった。
お腹にナイフが刺さってるんだ。
こころもとない服は血を吸って重くなっている。
「母さん!なんで?痛いよね?すぐに抜くから!」
ナイフを抜いても出血は止まらない。
それどころか、オレの手まで汚しだした。
嫌だ、いやだ!!
「そうだ、母さん。街に行こう!きっと水が貰えるよ!パンもあるんだ!オレ頑張って盗んで」
「ルカ」
「あなたは普通に生きなさい。幸せになりなさい。
あなたにいつもそう言えなかった。ごめんねこんなお母さんで。」
「違うよ母さん。オレは幸せだよ?母さんがいれば
幸せなんだよ!」
母さんの手がオレの頬を撫でる。でも、その手は、
地面に落ちた。
路地を抜けて道にでる。
「街に金持ちいるといいな」
さすがに食べないと死ぬ。
思わず足が止まるところだった。ビビってんのかよ。
オレが。
『普通に生きなさい。』
「ムリだよ...母さん」
よし行くぞ、金持ちが死んだってオレの知ったことじゃ無い。
いた、服装は普通だが腰に差した剣。間違いなく
高いものだ。貧民街に金持ちがいるのは珍しいな。
「僕に恵んで下さい。もう5日も食べてないんです」
「イヤだけど?私は利益のない投資などしたくないからね あぁ怖い急にナイフ出さないでくれるかなこれから仕事なんだよ。服が破れたら失敗しそうじゃないかイヤだよ私は。」
「君、嘘ヘタだねぇ。実際は2日ぐらい前になにかは食べたでしょ?見ればわかる。でも、君の観察力は中々。平民の変装をしていたのだけれど。それから、もう少し粘るべきだよチップが欲しいならね。まぁ私相手だと意味はないけれど。」
「説教すんじゃねえよ、金持ちに何がわかる!」
おまえらはオレ達に何も与えない。母さんは10日前死んだ。酒場に来ていた荒くれ男に刺されたらしい。
そして、周りの客は誰1人母さんを助けなかった。
「分からないよ。だから知りに来たんだ、助けるために。君が教えてくれるかい?礼はするよ」
「殺した方が速い」
「護衛が僕を置いて道に迷っていてね。私の死体を見れば、どうなるか分かるだろう?道の案内だけでもいい。」
怪しすぎる。このまま騎士団に引き渡そうとしているのか?いや、この街のことはオレの方が知っているはず。なら...
「分かった。人が多いガイラ通りでいいか?」
「感謝するよ。」
戦争から4年、この国は発展した。貧民を見捨てて。
貧民救済事業が成功すれば人手が増え、土地問題の解決が見えてくる。政府に借りをつくるのも悪くない。
そのための視察に首都から近い貧民街に来たのだが...
「これは...ひどいな。」
予想以上だ。若い女を路地に連れ込もうとする連中に
大した金持ちもいないであろうこの通りで物乞いをする親子連れ。
そして、私の足元。兄弟だったであろう物が抱き合って転がっている。死んですぐには見えない。放置されたままか。政府は何をしている。このままでは...
この男、道中ではかなり喋っていたが通りに着いてからはほぼ無言。金持ちには目に毒か。
「ここはいつからこの状態なんだ?」
「オレが知ってるガイラ通りは最初からコレだ。
なんなら、戦争が終わってすぐよりかなりマシになった。ここは見捨てられたんだよ」
あの時の母さんは疲れていた。理由を考えるのは途中でやめた。
「そうか。すぐに事業を立ち上げる。今より良く
産まれ変わるだろう。」
それからは、本当に何も話さなかった。
「あとは、ここを真っ直ぐ進めば出られる」
「ありがとう。これがお礼。街の質屋に売れば半年は暖かいパンが食べられるだろうね。」
そう言って男は刀を差し出したオレの両手に乗せた。
「ただ、よく考えて使うといいよ。これからこの場所は産まれ変わる。君はここでも幸せになれるだろう。でも、君はここを出たくないのか?」
そんなの、
「無理に決まってる。だって、奪う以外のことができない」
ここを出れば騎士団に捕まって終わりだ。
オレは奪う以外の生き方が分からない。
「だから―「刀を使ったら?」
「君ナイフ使うの速かったからね。騎士になれば
奪わなくても生きていけるよ。だから、君に託したんだ。私は」
「それじゃあ私はこれで。新聞買えるようになったらぜひ見てくれ。私そこそこの確率で乗ってると思うよ。あぁそれと、 私に護衛はいないよ」
どうすればいい?
オレにはこの剣は重すぎる。嫌いだ騎士なんて。
貴族も平民も嫌いだ。
でも、
「帰ろう」
オレは、
幸せになりたい。外に、
出たい