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第7話 メスガキ彼女の誘惑バトル(2)

 雌伊子がホームパーティーに出かけて二日目。


 柔道場を出た俺は、火照った体を冷ますために自動販売機へ向かった。

練習で流れた汗が背中を伝う。スポーツドリンクを取り出し、キャップを開けて一気に口へと流し込む。喉を潤す冷たい感覚が心地いい。


 学生たちの話し声が耳に入ってきた。


 「あの子、めちゃくちゃ可愛くね?」


 「どれ? おお、胸でか!」


 「お前、すぐそっち行くよな」


 何気ない学生たちの会話だったが、なぜか気になり、俺は辺りを見回した。


 視線の先に、ひときわ目立つ少女の姿が映る。


 淡いパープルのニットは胸元が大胆に開き、ショートパンツから伸びる脚はすらりと白い。足元はカジュアルなブーツ。髪はいつもよりツヤツヤしていて、メイクも完璧だった。


 雌伊子だ。


 俺の視線に気づいたのか、彼女は軽く手を振る。その仕草は、どこか気だるげで、それでいて愛らしい。


 しかし、その瞬間、背後から現れた男が雌伊子に声をかけた。


 早瀬……。


 雌伊子はそのまま早瀬に連れられ、駐車場の方へと歩いていく。俺の視界から、ゆっくりと姿を消していった。


 手にしていたスポーツドリンクを握りしめたまま、俺はしばらく動けなかった。


 なんだ、この感覚は。


 胸の奥に、鈍い違和感が広がる。


 やがて、顔を上げ、とぼとぼと歩き出す。靴音が妙に響く気がした。



 

――翌日。


 


 今日はやけに体が重く感じる。こんなことで怪我もしたくないので、その日は結局、サークルを休む事にした。


 別に風邪をひいたわけじゃない。ただ、なんとなく気分が晴れない。


 それでも、雌伊子に会いという気持ちはあった。だが、待っていると悟られるのはなんとなく癪だった。


 エントランスでスマホを弄るふりをしながら、さりげなく辺りを見回す。


 すると、いつものように男たちに囲まれた雌伊子が、階段を降りてくるのが目に入った。


 今日も抜群の着こなしだ。胸元が程よく開いたロンTに、動きやすそうなミニスカート。髪は二つ結びでまとめられ、大胆なコーデながらも、どこか無邪気な雰囲気を残している。


 一瞬、心が軽くなった。


 無意識に手を上げ、声をかけようとする。


 その瞬間。


 「雌ちゃん」


 親しげな声とともに、早瀬が現れた。雌伊子の肩に馴れ馴れしく手を置く。


 雌伊子は振り向き、可愛らしく返事をする。そのまま早瀬に連れられ、俺の視界から消えていく。


 中途半端に上げた手を、俺はそのまま虚しく下ろした。


 踵を返し、未練がましくその場を後にする。


 何をしてるんだ、俺は。


 ため息が漏れる。気がつけば、拳を強く握りしめていた。


 「見事に落ち込んでるな」


 からかうような声が聞こえた。


 声の方を向くと、缶コーヒー片手に立つ恭介がいた。口元にはいつものとぼけた笑み。


 「お前、顔死んでるぞ。まさか本気で落ち込んでるわけじゃねえだろ?」


 俺は眉をひそめながら顔を上げる。別に恭介に慰めてもらうつもりはなかったが、こいつの軽口は時々妙に的を射る。少なくとも、何かしらの反応があるのはありがたい。


 「お前、まじでしょぼくれた顔してんな。まるで雨に打たれた捨て犬みたいだぞ」


 恭介はニヤリと笑いながら、俺に缶コーヒーを手渡し、コーヒーのプルタブを引き、ぐいっと一口飲んだ。


 「それは言いすぎだろ……」


 俺は顔をしかめながらも、言い返す気力もない。


 「まあ、お前がそうやって勝手にしょげてる間に、早瀬がどんどん距離詰めてくるかもな?」


 冗談交じりの言葉だが、妙に胸に引っかかる。


 「……うるせぇよ」


 俺はため息をつきながら、コーヒーを一口飲んだ。


 それを見た恭介は、軽くため息をつくと、缶コーヒーを片手に俺を見た。その目はほんの少し心配げのようにも見える。


 「俺って、やっぱかっこ悪いよな……服とかもダサいし、目つきも悪いしよ」


 自嘲気味に呟くと、恭介は皮肉めいた口調で言った。


 「まあ、今のお前は最低にかっこ悪いけど、いつものお前なら割とかっこいいと俺は思ってるよ」


 「なんだよそれ……」


 俺は苦笑いを浮かべた。


 「お前らしくないってことだよ。普段、そんなこと気にしねえだろ?」


 恭介は俺を見て、肩をすくめる。


 「ま、まあな……」


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。


 「いつものお前なら大丈夫さ。なんたって、あんなヤバい彼女に愛されてるんだ。もっと自分を信じろよ」


 その言葉を聞いて、少しだけ気持ちが軽くなった。


 その時だった。


 「おい、深川!」


 鋭い声が響く。振り向くと、雌伊子の取り巻きの男たちが、こちらを睨んでいた。


 「お。いつもの負け犬どもじゃん」


 恭介があきれたように言う。


 「誰が負け犬だ!」


 「だってお前ら、いつも雌伊子ちゃんに相手にされてねえじゃん」


 「うるせえ!」


 男たちは喚くが、恭介は気にも留めない。


 「で、何の用だよ?」


 俺が尋ねると、男たちは口々に言った。


 「最近、雌伊子ちゃんが早瀬と一緒にいることが多いから、このままだと早瀬に取られちまうぞ!」


 「ん? お前ら的には恵純と雌伊子ちゃんが別れたほうが都合いいんじゃないの?」


 恭介が軽く首を傾げる。


 「バカやろう! 恵純ならまだ俺たちにもワンチャンあるかもって思えるけど、相手が早瀬になったら俺らに勝ち目なんてねえだろ!」


 「すがすがしいほどのクズだなお前ら……」


 恭介が呆れたように言う。


 「なあ、恭介……俺って、やっぱかっこ悪いか?」


 突然落ち込む俺を見て、恭介がガックリと肩を落とした。


 「はぁ……お前さ、ほんとにそれ気にしてんの?」


 恭介は呆れたように俺を見ながら、手にしていた缶コーヒーを傾ける。


 「服がダサい? 目つきが悪い? そんなん気にする前に、やることあるだろ」


 俺は視線を落とし、靴の先でアスファルトを軽くこする。


 「……でもよ、やっぱ気になるだろ。雌伊子、最近俺のこと……」


 「はいはい、そこのネガティブ思考止めーい」


 恭介が勢いよく俺の肩を叩く。痛え。


 「いいか、恵純。お前はいつも通りでいいんだよ。むしろ、お前がウジウジしてると余計にダサく見えるぞ」


 「……それ、フォローになってねえぞ」


 「お、やっと突っ込める元気出たか?」


 恭介が笑いながら俺の背中を叩く。


 俺はため息をつきつつも、少しだけ肩の力が抜けた。


 「まあ、もうちょいマシな服買うのはアリかもな」


 「だろ? じゃ、次の休み買い物でも行くか?」


 そう言う恭介を見て、俺は小さく笑った。

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