表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話 メスガキ彼女はドМの変態でした……

 春の柔らかな日差しが降り注ぐ大学のキャンパス。新入生たちが右も左も分からないまま、勧誘のビラを受け取り、どのサークルに入ろうかと右往左往している。


 俺はそんな新入生を勧誘する側の一人、深川(ふかがわ) 恵純(えすみ)


柔道部所属。とは言っても、特に熱心な柔道家ってわけじゃない。


なにもせずダラダラするのが性に合わないから、高校から続けてるだけだ。が、そんな俺に今年、面倒なミッションが課された。


 ――女子マネージャーの勧誘。


 部長の尾崎先輩いわく、「俺たちにも花の大学生活が必要だ」とのことだが、柔道部なんて女子が寄りつくわけがない。臭い、むさい、暑苦しい。この三拍子で大抵の女は逃げる。


 俺は勧誘用のプラカードを持ったまま、大きく伸びをした。


「サボってるとまたドヤされるぞ、恵純」


 声の方を向くと、金髪の爽やかイケメン、周防(すおう) 恭介(きょうすけ) が近づいてきた。テニス部の看板役を任されている、いかにも今時の大学生って感じの奴だ。


まあ性格は意外とサッパリしているもんだから、俺は結構こいつの事は気に入ってる。


「お前こそ、テニス部の勧誘やってなくて大丈夫なのか?」


「たまには息抜きしねえとやってらんねえよ」


 そう言いながら、恭介は手に持っていた缶コーヒーを俺に投げてよこす。


「さんきゅ~」


 プシュッと缶を開けて、一口。


「にしても、お前また身長伸びたんじゃね?」


 恭介がしげしげと俺を見上げる。


「ん~……190くらいだったかな」


「マジか。お前ガタイもいいから、もはや巨人だな」


「うっせ。彼女と同じこと言うんじゃねえよ」


 そう言うと、恭介の表情がピタリと固まった。


「……ん? 恭介?」


「お前……彼女いたのか!?」


 突然の食いつき。


「いちゃ悪いかよ……」


 照れくさく笑う俺に、恭介は興味津々の顔で詰め寄ってくる。


「何々!?どんな子?歳は?今何年目よ?」


「聞かなくてももうすぐ来るよ。オリエンテーション終わったらこっち来るって――」


 その瞬間だった。


「恵純せんぱ~い!」


 よく通る可愛らしい声が、俺に向かって飛んできた。


「おい、めっちゃ可愛い子が手振ってるぞ。恵純、お前の知り合いか?」


 恭介が慌てたように俺を見る。


「だから今言ったろ。俺の彼女だよ」


「はあっ!? いや、レベル高すぎだろ!」


 俺が答えた瞬間、雌伊子(めいこ)がすごい勢いで俺に飛びついてきた。


「ぐおっ!」


 小柄な体が勢いよく俺の胸に飛び込み、ふわりとした柔らかな感触が押し寄せる。弾力のある胸が俺の胸板に押しつけられ、一瞬息が詰まるほどの存在感を感じる。


 陽の光を受けた金髪がふんわりと揺れ、シルクのような滑らかさを帯びながら、胸元でかすかに跳ねる。

大きな瞳には悪戯な光が宿り、口元には小悪魔的な笑みが浮かんでいた。


「せんぱいっ、会いたかったぁ~。私がいない間に他の女にちょっかいかけたりしてませんよね~?」


 小悪魔的な笑顔。俺の腕にぴたりとくっついて、甘ったるい声を出す。


「……んなことするか、こっちはそんなに暇じゃねえんだ」


「ほんとぉ? ま、雑魚のせんぱいにはそんな度胸ないかぁ、いつも口だけですもんねぇ」


「……は?」


 瞬間、俺の表情が曇る。


「なあ、雌伊子?」


「なぁに?」


「お前、さっきから雑魚とか言いやがって、俺のこと舐めてんのか?」


「えー、だってほんとのことだし。先輩ってさ、こういう時いつもビビって手出しできないし~。ほんと、雑魚だよねぇ?」


 俺は雌伊子の肩を掴み、軽くすごんでみせる。


「っ……!」


 途端に、雌伊子の顔が赤くなり、目元がとろんとする。


「あ……せんぱい、そんな顔されたら、私……もっと……」


「はぁ!? 何言ってんだお前!」


「もっと睨んで? そのまま、もっと怖い顔して? 私、それだけで……」


 雌伊子の声が甘く湿り気を帯びる。目元は蕩けて、口元には愉悦の笑みが浮かぶ。


 ヤバい。完全にキてる。


 俺が思わず肩を離すと、雌伊子は名残惜しそうに俺を見上げた。


ふざけんな。こっちの理性が持たねえ。


「ちぇ……あっ!」


「なんだよ、今度は?」


 突然、驚いたような声を上げる雌伊子に、俺は怪訝そうに聞き返した。


「下着……ちょっとマズいかも」


 頬を赤らめ、上目遣いでちらりと俺を見る。その仕草に、思わず喉が鳴る。


「おい……お前、まさか」


「ちょっと着替えてきますね~」


 そう言いながら、手をひらひらと振って軽やかに去っていく。


 しかし、数歩進んだところで急に振り返り、ニヤリと笑った。


「そういえば先輩、私の使用済みのパンツ、どうする~? 記念に取っとく~?」


「はぁ!? お前、バカか!」


 俺が慌てて声を上げると、周囲の視線が一斉に集まり、場が一瞬ざわついた。


 白い目、ひそひそとした声、そして恭介の引きつった表情。


「早く着替えてこい!」


「……なあ、恵純」


 唐突に、忘れていた存在が声を発した。


「……ん、みなまで言うな恭介」


「いや、言わせろ。お前の彼女……ヤバくね?」


 恭介の顔は、完全に引きつっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ