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24 回廊のヴィヴィアン



「ヴィヴィアン、今回は大事に至らず、本当に良かった。学内での()()に、私もとても心を痛めている。」


 アレクサンドルとヴィヴィアンは学長室を訪れていた。

 学長も当然、事故でないことの調査報告は受けているが、表向きは、ヴィヴィアンとアレクサンドルが有毒ガスの発生事故を偶然発見したが、被害はなかったということになっている。


「はい。」

 ヴィヴィアンが寝込んでいる間、アレクサンドルと学長とで事後処理に奔走していた。学長は管理責任を感じ、安全のためにも、すぐにも卒業資格を出すと提案した。アレクサンドルもそれに同調したが、ヴィヴィアンは、予定通りの卒業を主張した。

 結局、アレクサンドルは離宮からの登校と護衛の配置をすることで折り合いをつけた。


「事故の要因について、ダルメイヤー教授と調査をした結果、第一学年の生徒が教団関係者から金品を受け取って、実験器具に細工したことまではわかったが、教団は関与を否定している。当該生徒は退学処分、ここまでが学院の範疇だ。教団の捜査は第三騎士団が担当していて、続報があれば知らせる。」



「第三騎士団は、テンダー伯爵家の次男、側妃の甥が団長ですね…」

 アレクサンドルが口を挟んだ。


「騎士団の中で、最も買収の効きやすい組織だ。当てにできないが仕方ない。これを偶然だと考えるか?この学院は、第二騎士団の管轄区域であるのに、だ。」

 前回の学長とアレクサンドルの微妙な雰囲気を今日は感じないが、和解したというほどでもない。


「違うでしょうね。」


「私は、ヴィヴィアンを飛び級で卒業させることを提案した。ヴィヴィアンの安全は、アレクサンドル殿下、あなたにかかっている。あなたはご自分の立場と役割を適切に… 話は以上。」




 二人は学長室を出た。



 学長室のある執務棟から、回廊に入ると、周りに誰もいないことを確認する。

「ねえ、最後の、立場と役割って?」

「… 使える権力は使え、という意味かな。」

 アレクサンドルも、テンダーの話を考えているのだろうか。上の空だ。




 回廊を歩いていると、アレクサンドルが急に立ち止まり、ヴィヴィアンの手を引いて幅の広い柱に押し付けた。


「ちょっ…」

 驚いて、アレクサンドルを見上げると、中庭の先を見つめながら、ヴィヴィアンの口に手を当て、外套のフードを被せる。


「静かに… 柱に隠れて、中庭を見て… あの木箱。」

 アレクサンドルの手が離れると、言われた通り、柱から先を覗くと、薬学のハンス教授が荷物を両手で抱えて歩いている。それに被せた布が校舎と校舎の間を吹き抜ける風にはためいて、布で隠している木箱と木箱に入れられた焼印が見える。


 その印に見覚えがある。


「OTZ… 小瓶のコルクと…」

 ヴィヴィアンが呟き、振り向くと、突然アレクサンドルに頭を抱き寄せられ、アレクサンドルの外套の中に包まれた。


 近くの部屋の扉が開き、ガヤガヤした話し声と共に回廊に学生が出てきたようだ。


「ピュー!」

 抱き合う二人に、冷やかしの口笛が吹かれた。


「…そのままで…」

 耳元でアレクサンドルが囁くが、ヴィヴィアンは何も見えない。



 人の声と足音が去った頃、アレクサンドルの腕が離れ、視界が明るくなった。

 中庭にも回廊にも人影はない。



「… 隠してくれたの? 意味あった?」

「…あった。」

 二人で馬車廻しに向かい歩き始める。


「学院の噂話、舐めてるでしょ?」

「いや、少なくとも、俺が誰と抱き合っていたかはわからないから。」

 アレクサンドルはヴィヴィアンと目を合わさない。


「じゃあ、アレクの学院での女友だちは?」

「ヴィヴィと、ルル、アンナも?」

 アレクサンドルの呟きは、どんどん声が小さくなる。


「消去法で私だって誰でもわかるわよ。」

「… 咄嗟のことなんだから仕方ない… 覗き見がバレるよりいいだろう。」


「… 教授、関係者なの?」

「わからないが… 怪しいよな。」




 馬車の中で、二人で推測を話し合ったが、推測は推測のままで終わり、ハンスの身辺調査をすることを決めた。




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