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18 化学準備室のヴィヴィアン



 その後、二日間寝込み、三日ぶりに教室に行けるようになった。倒れた日は、夜まで熟睡だったが、枕元に水差しや果物が用意されていた。管理人が何度も様子を見にきてくれたらしい。



 普段通り、始業時間よりもかなり早い時間に出た。寮を出て、学舎へ続く並木道を歩いていると、アレクサンドルが前方から歩いてくる。


「おはよう!連絡もなしに三日も休んでごめんなさい。熱を出してて…」

 アレクサンドルが手のひらを見せるように小さく片手を上げる。


「おはよう。もういいのか?」

 アレクサンドルはヴィヴィアンのところまで来ると、ヴィヴィアンと共に来た道を戻る。

「熱は下がったよ。もしかして、迎えに来てくれたの?」


「…見えたからな。」

 アレクサンドルは、ヴィヴィアンの鞄を取り上げて、歩いていく。

「ありがとう… かばん?」

「寝込んでると、体力落ちてるだろ? 最近、荷物重そうだから。」

 アレクサンドル絡みでやっかみを受けていると気づいてから、自己防衛として全ての教科書とノートを持ち帰っている。教科書は高価だから、悪戯されると洒落にならないのだ。

 アレクサンドルには、そんな話はしていないのに、鞄が重いことを知っているのに驚いた。

「ありがとう…」



 話さなくてはいけないことはたくさんある。何から話そうか、人の多いところでは話しにくい。

 今なら、周りに人はいないが、唐突すぎる。


「食欲は?」

 数歩先を歩いているアレクサンドルが振り返る。

「あっさりしたものなら。」


「じゃあ、昼は、化学準備室で。昼ごはんは用意していくから、先に行ってて。」

「ありがとう。」

 今までも面倒見がよいとは思っていたが、やはりこの三日よほど心配を掛けたのだろう。


 今まで避けてきたが、友人付き合いは、こんな風に心が温かくなるものなのだろうか。少しは、アレクサンドルに温かみをお返しできているのだろうか。

 アレクサンドルのために自分ができることを考えながら、後を追いかけた。

 





 昼休み、ヴィヴィアンは化学準備室に先に着く。外は今日も寒い。換気のために全ての窓が開けられていたため、順番に閉めていく。

 それが終わると、テーブルをセットし、湯を沸かし始めた。

 





 病み上がりだからか、眠気が襲ってくる。間もなく、アレクサンドルが来るだろうが、それまで、一眠りでもできれば、午後の授業はラクだろう。

 しかし、アルコールランプをつけっぱなしにするのは危ない。2人分の紅茶のためには、20分以上かかるため、止めてしまうと、食後に間に合わないかもしれない。



 そんなことを考えながら、ランプの炎を見つめていた。











 日差しが温かい


 ベンチで眠ってしまった

 ウィステリアが咲いていて、花びらが落ちてきてくすぐったい


 昼休みだった

 教室に戻らなければいけないのに、

 昼寝の気持ちよさに負けてしまいそう


 次は、統計学だった?

 課題はやった?

 気になるところがあった

 アレクに教えてもらおうと思ってた


 アレクに何かお礼をしたかった

 アレクは何が好きなんだっけ

 ホットココア、寒い日によく飲んでいる

 身体が冷えると言っても聞かない


 寒い日が続くのに、ウィステリアは満開だ

 奇妙な冬

 もう春になったの?


 「抱き上げるよ」

 って言ってた

 アレクが?

 いつもの話し方と違う

 「抱き上げるぞ」って言うほうが

 アレクらしい

 アレクじゃないの?




 ミツバチも飛んでいる

 やっぱり春だ


 ミツバチがたくさん

 刺さないとわかっていても嫌い

 顔のまわりは嫌


 虫は嫌

 ミツバチは嫌い

 刺されたら嫌


 やめて

 ミツバチは嫌

 どんどんミツバチが集まってくる

 嫌よ

 怖い


「抱き上げるよ」

 アレク?

 また?

 いつもと違う

 



 

 顔の周りのミツバチを追い払おうと、顔の周りで腕を振り回す。



「ヴィヴィ!!」

 誰かが手首を掴んでいる。

 ミツバチを追い払いたい。


「ヴィヴィ! 目を覚まして!」

「いや!」



 どのぐらいの時間、腕を振り回したのだろう。

 視界がはっきりしてきた頃には、もう腕に力が入らないほど、疲れ切っていた。


 ヴィヴィアンは、ベッドの上で、後ろから誰かに抱きかかえられて座っていた。


「ヴィヴィ?」

「アレク?」

 声のする方を振り返ると、座っているアレクサンドルの足の間に座っていて、アレクサンドルに後ろから抱きかかえられているのだと分かった。


 ミツバチはいない、とわかったら、また眠気が襲ってきた。










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