帰途妨げる炎熱地獄
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朝5:45時
起床とともに激しく波打つ鼓動、ストレスが溜まっているが故の症状であるとのことだが、毎朝のことでありもはや特筆すべきことでもないのかもしれない。
心を落ち着かせつつ目覚まし時計のタイマーを止める。また設定時刻前に起きてしまったのだ。
12月の凍える寒さの中、亡者の如くベッドから這い出して卓上で常温で放置されたコーヒーに口をつける。
昔は寝起きに合わせ湯が沸くように、夜のうちにポットの支度をしていたが、疲れた体で準備する気力もなく買い置きのペットボトルコーヒーを啜ることが習慣化してしまった...
暖かくなくともコレがなければもはや動き出すことすらままならない。
顔を洗い、髭を剃り、用を足して、スーツに着替える。
素早く身支度を整え、朝食代わりのチョコレートを口に含み家を出る。
ここまでを素早く行うことだけがこの数年で最も身についた作業かもしれない。
家を出ると、まだ朝焼けの名残を感じる。
口から漏れ出す白い息が映え、同時に肺腑を冷たく乾燥した空気が満す。
赤い日差しに目をくらませながら今日も一歩を踏み出す。
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夜22:00
仕事を終え帰宅する。
いつにも増して人気のない暗い道。
点々と存在する電灯の光も目に入らぬくらい下ばかり見つめ、
寒空の中をトボトボと歩を進める。
対照的に疲れた頭は熱を持ち、呆然と今日の失敗を反芻する。
なぜ、あんな簡単なミスをしてしまったのか。
なぜ、もっと有意な立案ができなかったのか。
なぜ、こうも対応が遅れてしまったのか。
エトセトラ、エトセトラ...
結論はいつも同じである。私では結局無理であったということ。
それでもやる他ないのだ。
努力だけではどうにもならない。
無論、有能な人間はより努力をしているという話もあるが、少なくとも私にできるのはここまでである。
ーーーーー帰途につく度同じことを考えている。
私の人生はいつもいつも上手くいかない。
起こる過ちは変われども、行き着く先は失敗のただ一つ。
今日も家まで着いたら少しだけ飲もう...ストレスを洗い流すのだ...
道を一本曲がった先にあるスーパーで酒でも買ってから帰ろう。
これが私の人生の常。逃れられぬ螺旋。
明日も、同じだろうな...などと自嘲しつつ塀に区切られた四角を曲がった。
そこには、目を疑う光景が広がっていた
道路に燃え盛る剣が突き立っていたのだーーーーー
形は西洋剣、長さは私の背丈よりやや小さいくらいか
刀身からは煌々と炎が漏れ出しており、周囲を松明の如く照らしている。
柄は両手で持つためか長めに作られおり、
鍔にあたる部分には、燃え盛る炎の輝きとは対照的に、
わずかに赤黒く光る宝石が埋まっていたーーー
コレはなんだ...通報すべきか...?
目に映る光景があまりに非日常的だからか、
思考ではそう考えつつも、一向に私の体は動かなかった。
知らず、私は一歩を踏み出していた。
目の前に座す熱量の為か寒さはすでに感じない。
しかし、舌の根が震え歯がガチガチと音を立てる。
しかし目線だけは微動だにしない。
眩しい炎にも、熱のもたらす渇きにも抗い、一歩一歩、私は進む。
ーーーその赤黒い宝石の放つ、微弱な光に引き寄せられて...
体から水という水が蒸発していき、
皮膚がつっぱり、息も苦しくなっていく。
それでも、足が前に出る。
ついに剣の目前まで至る。
体にまで火が飛び、燃え始める。
全身が火に包まれるも何故か何も感じない。
視界の端では服が燃え落ち、皮膚が爛れ、焼け焦げていくのが見える。
しかし、意識がそちらに向けられないのだ...
不意に炭のように焼けた右手がもちあがり、
剣の柄をその中に収める。
するといよいよ視界が炎の輝きに包まれ、何も見えなくなる。
ーーー数瞬の後、私の意識は途絶えた




