「不細工」と言われたのでてっきり嫌われていると思っていたのに、実は私を好きなようです
下記作品のヒロイン、オフィーリア視点のお話です。
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彼女が可愛くて仕方がなくて、俺はつい「不細工」と言ってしまった
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私──オフィーリア・クレランスは、五歳のときに初めて出会った男の子から「不細工」と言われた。
「こっち見るな、不細工」
「ぶ、不細工じゃないもん!!」
自慢じゃないが、周りの大人はみんな「可愛い」と言ってくれるのに。
後にも先にも、私に面と向かって「不細工」と言ってきたのはこのオリバー・ラスティンただ一人だった。
まだ五歳だった私は「不細工」という言葉を受け止めきれずに大泣きした。あまり記憶はないが、複数の貴族が集まるガーデンパーティの場で泣き出したものだから、会場は騒然となり、お母様たちはどうしたものかと慌てふためいたらしい。
そんな出会いだったので、オリバーの第一印象は最悪だった。だがそんな私に、お母様は教えてくれたことがある。
『男の子は、好きな子に意地悪を言ってしまう生き物なのよ。だからね、そういうときはこちらが大人になってあげるの』
当然、五歳の私はまだその言葉を理解できなかったけれど、でもなぜかその言葉だけは頭にずっと残っていて、七歳で学園に入学してまたオリバーに意地悪を言われたときにふと思い出したのだ。
そのときようやく、私はお母様の言葉を理解できた。
オリバーが私を好きかどうかは一旦置いておいて、とりあえず彼はまだ子供だから意地悪を言うのだと。
であれば、こちらが大人にならないといけないのだと。
まあそんな風に理解はしたが、それでこちらが大人になれるかは別問題。
オリバーは毎日のように私に話しかけてきて、意地悪なことを言ってきたのだ。最初こそ大人な気持ちで受け流そうとしていたが、いつからか黙って聞いていられなくなりこちらも言い返すようになってしまった。
そうなるともう、軌道修正は難しいもので。
「よおオフィーリア。また真面目に試験勉強か? 今度こそ俺に勝って一位を取れるといいな」
「あらオリバー。そう言っていられるのも今のうちよ? 次こそは私が勝つわ」
いつの間にか私とオリバーは、犬猿の仲になっていた。
────そんな関係のまま十歳になったある日。
私はとんでもない会話を聞いてしまった。
「またお前が一位かよ」
「まあな」
先ほど学期末試験の結果が廊下に貼り出され、結果はまたしても、オリバーが一位で私は二位。
その結果にがっくりと項垂れながら教室に戻ったときだった。私が教室に入ろうとしたところ、中からオリバーとアーロの会話が聞こえてきた。
「オフィーリアはまた悔しがってるだろうな」
……え、私の話?
「そうだな。まあでも、悔しがって頑張る姿も可愛いから一位はあげられないんだよな」
……はい?
彼ら二人の会話に突如私の名前が浮上し、私は思わず足を止めた。教室に入る一歩手前だ。
でも衝撃なのは、オリバーが口にしたセリフ。
『悔しがって頑張る姿も可愛い』??
私は一度も、オリバーから可愛いと言われたことはない。それどころか、最悪な出会いを果たしたときは「不細工」と言われた。
今教室にいるのは、本当にあのオリバーなの?
「オリバーはほんと変わってるよな。俺だったら好きな子には嫌ってほど優しくする」
「……ほっとけ」
………………え?
私はさらに聞き間違いをしたのだろうか。
だって今の会話は、まるでオリバーが私を好きみたいじゃない?
「今のままじゃ絶対オフィーリアにも気持ち伝わらないだろ」
「う……。まあ多分、嫌われてるよな俺」
「自覚はあるんだな」
「そりゃあるさ。でもどうしようもないんだよ。だって……オフィーリアが可愛すぎて、目の前にしたらつい意地悪な言葉が口から出ちゃうんだから」
もはや脳が思考を停止し始める展開だ。
アーロとオリバーは誰にも聞かれていないと思って話している。だからきっと、そこに嘘はない。
だとしたらオリバーは、私のことが好きでつい意地悪を言ってしまうという話が本当だということになる。
幼い頃、お母様が教えてくれたあの言葉をふと思い出したが、あれは単に大泣きしている私を落ち着かせようとして教えてくれたものだとばかり思っていた。本当にオリバーが、私が好きだから意地悪を言ってきているなんて、思ってもみなかった。
「ほんとお前って難儀な性格だよな。もうちょっと大人になったら改善されるのか?」
「……いや。俺が大人になるってことはオフィーリアも大人になるってことだろ? ってことは、オフィーリアは今よりもっと可愛くなるし、なんなら大人の色気みたいなものも出始めるだろうからもっと無理になるな」
「……ほお」
アーロの返事は心なしか引いているように聞こえた。
……これは、どうすればいいのかしら。
頭の中は今まで嫌っていた彼のことでいっぱいで、ぐるぐると混乱しながらも、とりあえずその場から立ち去ったのだった。
────翌日。
「また俺が一位だったな、オフィーリア」
「え、ええ。そうね」
私に昨日の会話を聞かれているとは知らないオリバーは、いつも通り話しかけてきた。私はドキッとしながらも、平常心を装って返事をする。しかしどうしてもどこかぎこちない返事になってしまった。
「君は一体いつになったら俺に勝てるのかな? 一度くらい勝ってくれないと張り合いがなくてつまらない」
「……いつになるかしらね」
いつもならちょっとムカッときて、「今に見てなさい。どうせ次は私が勝つんだから!」なんて言い返すところなのに、昨日の今日でそんな喧嘩腰にはなれない。
彼のどんな言葉も全て、私が好きでつい言ってしまう意地悪だと思うと、ちょっとだけ可愛く見えて。そうなるともう、彼の言葉にあまりムカッともしなくなる。
「? どうしたオフィーリア? 言い返してこないなんてお前らしくないじゃないか」
言い返せないのはあなたのせいよオリバー。
でも正直にそう返すことはできず、私は内心ドキドキしながらもするりとかわす返事をする。
「そんなことないわ。私はいつも通りよ?」
「そうか?」
「私らしくないだなんて、オリバーは私のことを心配してくれているのかしら?」
「う、う、自惚れるな! そんなことあるわけないだろう!?」
自惚れるな、ねえ。
一昨日の時点の私なら、そんな自惚れはしなかっただろう。
でも今日の私は、自惚れても良いと思う。
オリバーの本音が分かっているのだから。
彼は本音では、いつもと様子の違う私を心配してくれているのだろう。
今までの私は、彼の何を見ていたのだろうか。
彼の表情はこんなにも分かりやすく私を心配して、私に図星をつかれるとこんなにも分かりやすく耳まで赤く染めているのに。
口で語らずとも、その表情や仕草が明瞭に語っていたのに、全然気づかなかった。
「ちょっと冗談で言っただけだからそんなに怒らないでちょうだい。……ああそうだ。みんなが提出してくれたノートを教員室まで持って行かないと。また後でねオリバー」
「ん、あ、ああ……」
オリバーに話しかけられて忘れそうになっていたが、教室前方の教卓に積まれたノート計三十冊ほどを、あとで教員室まで持ってきてほしいとさっき授業終わりに先生に頼まれていたのだ。
若干憂鬱になりながら席を立って教卓まで行く。ノートを両手で抱えるように持ち上げて教室を出たところ、突然その重さが軽くなった。
「……オリバー?」
「教員室まで用事あったの思い出したから、ついでに持って行ってやるよ」
オリバーが後ろから追いかけてきて、サッと私の腕の中にあったノートを全部奪ってしまったのだ。
「いいわよ別に。それくらいなら私でも持てるわ」
「いいや。君のその細っこい腕じゃ無理だろう。途中でノートを落とされても困るし、俺が持って行く」
彼から奪い返そうとしたものの、それはオリバーにひょいとかわされてしまう。
ノート数十冊くらいなら持てなくないし、落としたりもしないのに。
「……教員室に用事って、どんな?」
「んあ? んー、あー、いや、まあ、ちょっとな」
……下手な嘘ね。
きっと用事なんてないのだろう。
これも、素直じゃないオリバーの優しさなんだろうなと思うとなんだか心がじーんとする。
「……まあいいわ。でも少しは私にも持たせて」
「あ、ああ」
私は結局観念して、二割だけ返してもらいつつ、オリバーと一緒にノートを教員室まで持って行ったのだった。
────それからというもの、私のオリバーに対する意識は徐々に変わっていった。
オリバーにどんなに意地悪なことを言われても、その裏に隠れた本音を察すると可愛く思える。
それにノートを持ってくれただけでなく、その後も授業の片付けだったり、掃除後のゴミ捨てだったりがあればオリバーはいつも手伝ってくれた。以前までは意地悪を言われて怒り返してしまっていたけれど、彼の本音を知ってしまうとそれが全てオリバーの優しさだと分かる。
そうなるともう、私の意識はオリバーに持っていかれてしまうというもので。
中等部に上がり、全校生徒が参加する学園の創立記念パーティーにドレスアップして行ったとき。漆黒の燕尾服に身を包み前髪もきっちりとあげてきたオリバーに、私は思わず見惚れてしまった。
でもオリバーから出てきたのは「何そのドレス。子供っぽいな」といういつもの意地悪。だから私も思わず、「あなたこそ。服に着られてるんじゃない?」と返してしまった。
本当は『素敵ね』と言いたかったのに。
簡単に素直な言葉は出せない。
以前オリバーが言っていた「好きだから意地悪を言ってしまう」という気持ちも、なんとなく分かるようになったというもの。
「……はぁ」
会場の後方、壁の近くで一人佇み、私は小さくため息を漏らす。
するとそこへ、アーロが話しかけてきた。
「どうしたの、オフィーリア。ため息なんてらしくない」
「アーロ……」
「何見て……ってもしかしてオリバー?」
「! いえ、私はその……」
「まあ確かに、オリバーがあんなに女子に囲まれている姿を見たら驚くか」
少し離れたところにいたオリバーは、その周りを複数の女子生徒に囲まれていた。
彼を見ていたと指摘され慌てて否定しようとしたが、アーロはそれもそうかと一人で納得してしまった。
「オリバーって人気なの?」
「あー、まあ成績は学年一位で、剣術も飛び抜けて上手い。さらにはあの顔だしなあ。人気があっても不思議じゃないね」
「……ふうん」
そう言われると確かに、オリバーは人気の要素が揃い踏みのようだ。
しかし気に食わないのは、オリバーがあの子たちに優しい笑顔を見せていること。
……私にはいつも意地悪しか言わないのに、あの子たちにはあんな笑顔を見せるのね。
「あれ? 不満そうだね?」
「……」
「もしかして妬いてる?」
「!」
にこにことしながら質問してきたアーロにしれっと核心を突かれて、私は思わず目を見開く。
「ち、違うわ! どうして私が嫉妬だなんて……!」
顔を見られては本心がバレそうだったので、私はぷいっと顔を背けた。
「そうなの? 俺はてっきり、君もオリバーのこと気になっているのかと思ったんだけど?」
「!!」
その発言に、これ以上ないくらいさらに目を見開いて、思いっきりアーロの顔を見上げた。
「あ、あ、アーロ……? あなた一体何を……」
「いやはや、君もオリバーも難儀な性格してるよね」
しどろもどろで隠しきれていない私を前にして、アーロはニヤッと口角を上げて笑った。
「お互い好きなら好きって、」
「アーロ!!」
アーロの口から直接的すぎる単語が出てきて、私は焦って彼の口を両手で塞いだ。そのまま周りをキョロキョロと見て、間違って誰かに聞かれていないかを確かめる。
問題なさそうと分かると、私はそっと手を離して、小声で彼を諌めた。
「こんなところで何を言うの。それに私は別にオリバーなんて……」
「好きじゃないのに、婚約の話が出てるの?」
アーロは本気でキョトンとした顔をしている。
だが「婚約」とは、キョトンとした顔で落とすにはあまりにも大きい爆弾だ。
私は落ち着いて、いや、内心は動揺で心臓が飛び出そうだが表向きは平静を装って、アーロに尋ねた。
「…………誰から、それを?」
「俺たちの親がどれだけ仲良しだと? 特に母親同士の会話は筒抜けだよ」
「ああ……」
私とアーロ、そしてオリバーは昔から家族ぐるみの付き合いがあり、とりわけ母親同士はよくお互いの邸宅に招待しあってお茶会をしている。
先日行われた茶会の会場は確かアーロの家だった。アーロはそのとき、お母様たちが会話した内容を聞いてしまったのだろう。
「いやしかし驚いたなあ。まさか君とオリバーの婚約話が出ているなんて」
「ちょっ……。まだ誰にも内緒なのよ? こんなところで話さないで」
「ははっ。ごめんごめん。幼馴染として嬉しくてね」
アーロが言っている婚約の話とは、私がオリバーを好きだという気持ちを両親に伝えたところから始まった。
実を言うと、私への婚約申し込みは初等部の頃からチラホラと出始めていた。
大抵の婚姻は家同士の利益のために結ぶものだが、幸いにもうちは、お金には困っていないし、今後の事業展開などのためにどこかの家と姻戚関係を結びたいという願望もなかった。そのため、両親は「〇〇家から婚約の申し込みが来ている」と教えてはくれるが、それを受けるかどうかは私の意思を尊重すると言ってくれていた。だから私はお言葉に甘えて、まだ婚約を考えるには早いという理由でこれまでの申し込みは全てお断りしてきた。
先日も一件そうして断ったのだが、そのときお母様が、オリバーにもある令嬢との婚約の話が上がっているようだ、と漏らしたのだ。
お母様としては単なる世間話のつもりだったのだろうが、私はそれを聞いてひどく動揺してしまい……。動揺した私を見て勘の鋭いお母様に追及された私は仕方なく、両親にオリバーへの恋心を打ち明けたのだった。
それは別に彼と婚約したいとかいう話ではなく、ただ彼が好きだから、彼が他の令嬢と婚約するということが今は受け止めきれない、という話のつもりだったのだが、なぜか両親は私の話を聞くや否やオリバーと婚約させようと言い出した。
「その……まだ私、オリバーの気持ちを直接聞いてないんだもの。婚約はせめて、オリバーの気持ちを聞いてからにしたいって両親に頼んだの。それからラスティン家側にもお願いしたら快く受け入れてくれたわ」
「へえ。まあラスティン家もオリバーがオフィーリアと婚約できるなんて願ってもないだろうしね。でもオリバーの気持ちを聞いてからだなんて、めちゃくちゃ未来にならない?」
「それも想定内よ。どのみち高等部を卒業するまでは結婚するつもりないし。卒業までの間、私もオリバーも他の誰かと婚約しないで済むならそれで良いかなって。……つまるところ、私のわがままね」
婚約だけして、後から気持ちを聞いたっていいのだ。しかしそうではなく、いつも意地悪しか言ってこない彼の気持ちをきちんと聞いてから婚約するという順を踏みたいと思ってしまったのだから、しょうがない。
そんな私の気持ちを知って、アーロは「そっか」と呟いた。
「じゃあ俺はとにかく二人が早く気持ちを正直に言えるように陰ながら応援しておけば良いかな?」
「そうね。温かい目で見守っててちょうだい」
ふふ、と私たちはお互いに微笑み合った。
────それからあっという間に月日が経ち、高等部二年。あれから四度目の創立記念パーティーの日を迎えた。
悲しいことに、四年経ってもオリバーと私の関係は変わらなかった。
……むしろ今現在は、少し距離ができている。
この一週間、何故かオリバーが私を避けているのだ。
避けられるようなことをした覚えはないが、もしかしたらという心当たりは一つだけある。だが、避けられていては何の話もできない。
はあ、と大きくため息を吐きながら会場に入ろうとしたそのとき、私の耳は「オフィーリア」と囁いた彼の声を捕らえた。
多分きっと、本当に小さな声だったと思う。
それでも、私がずっと彼から話しかけられることを待ち望んでいたから、周りの雑音を退けて彼の声だけ鮮明に聞こえたのだろう。
私と目が合った彼は、しまったという顔をしたが、逃がすものか。一気に彼との距離を詰めて、問い詰める。
「ねえオリバー。あなた最近、私のこと避けてるでしょ?」
直球で尋ねてみたものの、彼はそんなことないと言う。仕方がないので、私は唯一の心当たりを口にした。
「アーロから聞いたんでしょ? ごめんね。あれはうちの伯父さんが勝手に話を進めちゃってて、私も後から知らされたのよ」
両親たちは私とオリバーを婚約させる気満々だったから盲点だった。
私の伯父にあたるお父様のお兄さんが、高等部に上がっても婚約者が決まらない私を不憫に思い、お父様も知らない間に伯父様とは同級生であるアーロの父親と話をしてしまったらしい。アーロの父親は私とオリバーの件を知らないわけではなかったが、残念なことに当日はお酒を飲んで気が昂ってしまったらしく、ついうっかり伯父様の話に乗ってしまったというのだ。
と言っても、その翌日にはそれを知ったアーロのお母様も私のお母様もカンカンに怒り、すぐさまアーロとの婚約話は白紙になったのだけれど。
だから、私とアーロの間に婚約話が出たことは本当だが、実際にはなかったに等しい。なんなら親戚が酔った勢いで話をつけた、なんて恥ずかしいので消し去りたい出来事だ。
そんな話なのであえてオリバーにも話していなかったのに、オリバーは誰かからその話を聞いてしまったのかと私は思った。
それで、私とアーロに遠慮して距離を置くようになったのではないかという予想だ。
しかし事態は、思わぬ方向に動いてしまった。
「……オリバー?」
どうしてか、目の前にいるオリバーの目から涙がこぼれ落ちている。
彼の泣く姿なんて初めて見た。
初めての光景に慌てふためきながらも、人目を憚り、私は彼を中庭に連れて行くことにしたのだった。
────誰もいない中庭に到着して、ベンチに座る。
改めて彼に心配の声を掛けるも、彼からはいつもの意地悪な返事が来てしまった。
「……大丈夫だ。君に心配されるほど俺は弱くないから」
「オリバー」
私はムッとしながら、彼の両頬を掴んでお説教をする。
「まったくもう。こんな時まで意地悪言うのねこの口は!」
彼の頬を伸ばして縮めてをしていたら、彼から「ひゃい?」と、なんとも可愛らしい反応が出た。
私はあなたが意地悪な言葉を言う度にその奥に隠れた本音があることを何年も前に知っているの。もうあなたの本音を教えてほしい。
オリバーにそう伝えると、彼はとても驚いた顔をしていた。
そして……戸惑いつつも言ってくれた。
「オフィーリアは、可愛い。不細工だなんて、思ったこともない。君ほど可愛い人を、僕は他に知らない」
それは、私がずっと望んでいた言葉だ。
嬉しくて顔が綻んでしまう。
それから半ば強引に、私を好きだという言葉も引き出した。
そう言いつつもアーロとの婚約は邪魔しないと言い出したときは思わず「ばか」と罵ってしまったが、その流れで私もオリバーが好きだと言えたから結果的に良かったと思う。
お互いの気持ちを言い合えて、私は彼をダンスに誘った。
さすがに泣き腫らした後の彼の可愛い顔を他のみんなに見せたくはなかったので、会場から漏れ聞こえてきた音楽に合わせて中庭で二人きりで踊ろうという話だ。
ダンスのときは相手とすごく密着するので、ドキドキしてしまう。今しがた思いを伝え合ったから余計に。
でも、このドキドキはきっと私だけの音じゃない。
「……心臓の音、すごいわね」
「……ほっといてくれ」
「……実は私も、ドキドキしてるのよ。今までも毎回、ドキドキしてたわ」
「……あっそ」
揶揄い半分、照れ臭さ半分でオリバーに話しかけるものの、オリバーからは素っ気ない返しが返ってきた。
だからつい私も、素直じゃない返事をしてしまう。
「……あ、悪い。今のはその、」
「ふふ。良いわよ別に。あなたは今まで通りでいてちょうだい。いきなり優しくされても気持ち悪いもの」
「気持ち悪いって……」
本当は気持ち悪いなんて思っていない。むしろ優しくされたら嬉しいに決まっている。
だけど仕方ない。
私もあなたが好きで、つい素直じゃない言葉を返してしまうのだから。
でもきっと、それが私たちなのだ。
お互いに意地悪を言ったり素直になれなかったり。
傍から見たら仲が悪いように見えるだろうけれど、それでも良い。
お互いが本心を分かってさえいれば問題ない。
「これからもよろしくね。大好きよオリバー」
「…………ああ」
そっけない返事でも、耳まで真っ赤なあなた。
そんなあなたが、私は大好きだから。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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