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私は、私の意思で隣に居たいねん。

「蓼食う虫も好き好き」


田中くんが佐藤さんに対してよく言っていた言葉である、もちろん佐藤さん本人にも。

 

この言葉の裏にある意味は…



田中くんは自分自身に自信が無かった、そして自分の事もさほど好きでも無かった。


自分の事をそんなふうに思ってる人間が、なんで好かれるのかよくわからなかった。


勉強は学年で真ん中、スポーツは苦手で特に球技は全く出来ない。

唯一、5歳から下手なりにも続けてた剣道は辞めてしまったし。


顔はブサイク過ぎもしないけど、大して男前でも無い。


話し方は早口で、聴き取りにくいし。


性格は、偏屈で天の邪鬼で…神経質。



体型は…、まあ悪くはなかったかな。お腹も割れてたしね、体脂肪率7%台だったし。


あっ、でもこの段階で佐藤さんの前で上半身裸になった事もお腹を触らせたことも無いから、これはこの時点では佐藤さんは知らないか。



ちっちゃくて可愛い佐藤さんと、身長差のバランスだけは取れてたかもしれない。


良いところなんて、ほんとにそれくらい。

 

田中くんは佐藤さんと、「彼氏と彼女」の関係になるなんて全く想像できなかった。


実際、急に自分の「テリトリー」に入ってきた佐藤さんに対して妙な警戒心もあった。


田中くんの、その警戒心を解くには時間がかかるのだ。


この時期は、普通に「見知らぬ同級生」だったのが、小柴さんの紹介から「顔見知りの同級生」に昇格したに過ぎなかった。



 

「あのさぁ、佐藤さん。佐藤さんは、僕のどこが好きなん?」田中くんは図書室でソファに隣り合って座っての、佐藤さんとの会話の中でこう切り出した。


「えっ、色々と。」


「色々って?」


「好きなところ、いっぱいあって…」


「あ、そう。例えば?」田中くんはひどく冷静に、かつ客観的に聞いた。


佐藤さんの、好きな人に好きなところを聞かれ顔を紅くしながら「恥ずかしいよ〜」って表情でいくつか答えてくれた。


「ふ〜ん。僕はそんな人間やないで?本音を言うけど、正直言って佐藤さんの気持ちは理解できない。」


「そんな事…。」


「佐藤さんってさ、普通に可愛いのになんで僕なんかを選ぶん?」


「私の事、可愛いって思ってくれてるの?」


「うん。一般論だとそうやな、可愛いと思う。」


「それ聞けて、めっちゃ嬉しい。正直、そんなふうに見てくれてるなんて思ってなかったょ。」


「いや、一般論としてな。だから、そんな可愛いのになんで?やねんな。」


「単純に好き!じゃあ、あかんのかな?」


「僕は人に誇れる様な、立派な彼氏にはなれんで?カッコよくもないしさ…」


「そんなことないと思うけどなぁ。」


「僕は自分の事やから、よくわかるし。」


「他人にしか見えない面も、あるかもしれへんよ?」


「まあ、そこだけについては全否定はしないけどさ。見解の違いやないかな?…この先たぶん、友達から先に進む事は無いと思うで?」


「うん。じゃあ、田中くんの気持ちが変わるまで待ってる。」


「いつまで待つのか知らんけど、時間の無駄なような気がするけどな。」


「でも、田中くんの言う存在も知らない同級生から、今は少し前進したでしょ?」


「いや、まあそこはそうやけどさ。」


「じゃあ、一歩ずつでいいねん。私は、私の意思で田中くんの隣に居たいねん。田中くんは、私が近くにいたら邪魔かな?」


「邪魔、ではないけど…。さすがに、そこまでは言わん。」


「じゃあ、それでエエやん。」


「まあ、それでエエなら。好きにしいゃ。」


「うん。側に居るね。」


「ほんま。こんな面倒くさいやつ、よう好きになるわ…気が知れん。」


「私も変わり者なのかもね?なら、変わり者同士でいいやん。」


「僕も、自分の変わり者は否定せんなぁ。」


「でもな、私は小柴さんに頼んで田中くんに紹介してもらって良かったと思ってるねん。」


「うん。」


「だってな。2年間片思いをしとったけど、勇気を出したら好きな人とこんなにいっぱい二人きりでお話できるようになったんやから。」


「それは、そうやね。少なくとも、話すきっかけにはなったね。」


「だから、私の中では大きな一歩やねん。」




佐藤さんは、放課後はだいたい田中くんと一緒に居た。


田中くんが男友達とワイワイやってる時は、そっと見守る様にしていたけど。


その後も諦めずに、「一緒に帰らない?」って誘っていた。





佐藤さんは、健気で前向きなな女の子でしたね。


でも、田中くんも仲が発展しない事は何度も伝えているんですけどね。

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