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知沙ちゃんとのことは、言ってないからねぇ

すみません、色々とあって2話を書き足し1話も少し編集をしました。



「…あ、まあそうかな。」


田中くんの歯切れは悪かった。


彼は彼で、1年生の時のクラスメートがずっと心の中にいて、それが気になったままだった。



田中くんの通っていた高校はそれまでの小学校や中学校とは違い、割と学区が広かったので。


それまでとは比べようもない距離的な範囲の人達と、男女を問わず知り合いになりクラスメートが出来るわけで。



入学して直ぐって、名前を覚えやすくする為にホームルームの席順って名前の順だったりしますよね?


生徒同士も教師も、少なくとも顔と名前が一致するまではやるはず。


期待と不安でいっぱいの高校生活が始まり、1人の女子生徒と仲良くお喋りをするようになった。



名字が田中くんと同じ「た行」から始まる女の子、武田知沙ちゃんと席が隣になったことでした。


席が隣で同じ班だから自然と話すし、田中くんのアホな話をケラケラと笑ってくれる。


(男2女2の)4人の班が基本で、男子が終わると女の子だけの班ができる。



そんな中で段々と、知沙ちゃんを好きになっていたんだろうなと思います。



知沙ちゃんの部活は女子バレーボール部で、田中くんの所属していた剣道部のクラブハウスの道を挟んで向いの棟でした。


部活のユニフォーム姿もよく似合ってて、部活前や土曜日の部活中の休憩時間とか会うと手を振り合ったり。



ふわっとしたショートカットの髪型もバレーボールで鍛えた体型も可愛らしい顔立ちも、明るい性格も田中くんのタイプだった。


「ど真ん中!」って言うのはこういう事、って感じで。




やがてクラスにも少しなじみ、男子生徒の友達もできた頃。

オリエンテーション?と言う名の、2泊3日の合宿みたいなのがありました。


冬はスキー場な高原の旅館や民宿を、クラス単位で借りて学年であるわけですよ…。


高原のスキー場なので、夏場は宿泊費が安いのかな?


田中くんのクラスの担任の山本教諭は、4月1日に赴任して直ぐに剣道部の顧問に就任した訳だけど。


剣道自体は経験者だけれど、久しぶりに稽古をしてアキレス腱を切ってそのまま入院してしまいました。


なので、入学式も顔を合わさず…


代わりに若い植田講師が、担任代行だったわけで。


担任代行の植田センセは大学を卒業したばかりくらいで年齢的には8歳位年上かな、お兄ちゃんみたいな感じですね。


オリエンテーション自体はやらされる事は面倒くさいし、全体の場では体育科教師に頭ごなしに怒鳴りつけられたし。


そんなの、他の中学から来た互いに何も知らん奴ら400人と完全に呼吸を合わせて行進なんて無理やん!


いや、同じ中学の奴らでも無理な気がする…


入学して間なしで、校歌も覚えてないのに声が小さいとか。


そんなこと「完璧」を求められても、急にはできないのです。


言ってくることには「お前ら、嫌やったら辞めたらええねんぞ!高校は中学と違う、義務教育やないねん。無理せんでええ、退学したらええぞ。どうせ、センコーが何か言うとるわって思っとるんやろ。」とか言ってくる体育科教師…


しかもオリエンテーションには校長も同行だから、いわゆる「ありがたい校長先生のお話し」が朝礼とかの比ではなく長い長い…


早く終われよ、ってのが本音でしたね。


しかも、田中くんのクラスは担任教諭が不在なので行き帰りのバスに校長が同乗と言う…。


あくまで「担任代行」の講師の植田センセは、校長先生の前でビビッてしまって、こっちが笑いそうになるくらいで。


でも罵倒され続けたそれが終わって旅館に帰ってきたら、そりゃあ楽しいに決まってるよ。


基本的には校歌の練習や全体行進・早朝からのラジオ体操とかで、最終日には集団訓練の一環で20km?くらいの行程の登山まで…


クラスごとのスタートなので、自然と班ごとになり登山をしたり。


気になる知沙ちゃんとは、班が同じなので距離感は縮まりますよね〜



吊り橋効果は無かったけど、連帯感はあったかなぁ。


基本的にクラス毎それから班単位での行動だから、当たり前だけど風呂や寝る以外は…、それ以外はずーっと一緒。


好きな・気になってる女の子と同じテーブルで差し向かいでご飯を食べられるって幸せよね。


知沙ちゃんが田中くんのご飯をよそってくれたりとか、夕食の焼き肉を取り分けてくれたりとか。


思春期に行為を抱いてる女の子と向かい合ってご飯を食べるなんて、ご褒美以外の何ものでもない。


それは、最高の時間ですね。


夕食後に植田センセ同行で、旅館の近くを肝試し?散歩?をしたりみんなで手持ち花火をしたり〜と、楽しいこともありましたね。



もちろん肝試しも班ごとで、二人きりではなかったけど。


オリエンテーションが終わってからも、部活が違うから下校は一緒には出来なかったけど。



登校は、途中から一緒になることがよくありました。


お互いに自転車通学だったので。


そんな存在が居た。


1年生の1学期は、そんなこんなで本当に楽しい事ばかりだった。


教室での授業も、昼休みのお弁当を食べるのもいつも横を向けば知沙ちゃんが笑ってたから。


もちろん友達と話してたりするから、その笑顔の全てが自分に向けられている訳じゃないけど。


無邪気にケラケラ笑う、その笑顔を見るのがなによりも好きだった。





そんな感じで一学期が終わり、夏休みに突入する。


田中くんは部活の剣道部の合宿やら、普通に勉強やらと高校生らしい生活を送る。





そして夏休みが明けて…2学期の始業式…



あれ?



知沙ちゃんが居ない?



普通に、軽くパニックですわ…


知沙ちゃんと同じ中学出身の女子に聞くと




「…転校した」と、悲しそうな顔をして言ってきた。



夏休みの間にご両親が離婚され、母方の実家に行かれたとのこと。


更に、その転居先を聞いてびっくり


普通に航空機を使わないと行けないような距離は、高校生には中々しんどかったのだ。


田中くんが自身の気持ちを伝える間もなく、知沙ちゃんの家族は高校生の行動範囲を大きく越える引っ越しをしてしまっていた。




当時、携帯も出始めでPHSを持ってる高校生も少なかった頃で。


なんとか周りから、知沙ちゃんの引越し先の住所は教えてもらったものの



深い悲しみの中、なかなか手紙を書く気にならず…


連絡もしないまま、ダラダラと時が過ぎ3年生になってしまっていました。



クラスメートにも何も言わず、仲のいい同じ中学出身の女子達には少しは話したみたいだけれど。


急だったし、夏休み期間中だったからクラスメートには何も言えなかったのかもしれないけど。


漫画やドラマだったりすると、転校のシーンで最後にみんなの前で挨拶するとかそんなのがよく見る光景だけれど…



2学期の始業式で、アキレス腱断裂から退院してきたクラス担任の山本教諭からそういう話を聞いた時は本当にビックリした。


知沙ちゃんの転校はいきなりだったらしく、担任も困惑していた様子だった。


田中くんは、田中くん自身は知沙ちゃんとは仲がいいんだと勝手に思ってた。



が、何も聞かされてなかった事を鑑みた。



どうしようもない事実に何もできず、ただ諦めて忘れるしか無かったのだ。


でも、完全に忘れる事なんて出来なくて。


今後、もう二度と知沙ちゃんと会えない感じはしてていたけれど。


「でも・もし」を言うとキリがないけど、気持ちを切り替えてたら。


せめて後からでも 「あの時、1年生の一学期の時は知沙ちゃんの事が大好きだったんだ。」という気持ちだけでも文字にして手紙を1通送れたらまた自分自身の気持ちの整理が付いて違ってたと思う。



しかしこれは、結構キツイ失恋でした…


転校するのは仕方が無いとしても、顔を合わせて「サヨナラ」を言えなかったんだもん。



直接言うことは叶わないにしても、手紙でなら言えたはずなので。


気持ちのこもった言葉を、文字にして。



その頃、テレビやラジオから聴こえてきた松任○由実の「Hello my friend」の歌の歌詞が痛い程、心に刺さった…。


田中くんの心境がそのままの歌詞だったから、歌を聴くと必ず思い出してしまう…


田中くんの人生において、秋になると思い出す曲で。


田中くんにとって、悲しい恋の歌なんでしょうね。


そんな事もあったなって、いつになってもそういう気持ちになってしまう。


そこから、しばらく好きな人とか気になる人すら出来なかったですね。


現実問題として、おそらく知沙ちゃんとは一生再会することはないだろう。


どうにもならない理不尽さを感じながらも、振られるならまだしも恋心を残したまま消えてしまった…


叶わぬ恋は、心の中に仕舞った。

でも、仕舞っただけだから存在はある。



知沙ちゃんへの気持ちは、今更どうにも出来ないから。


頭では理解していた、この恋は終わったものだと。


少し立ち直った2年生のときも、席が隣で共通の話題があって仲良くお喋りをしてた千手さんが居たけれど。



また、その千手さんがいきなり退学してしまったりするんだな…これが。


ただ、千手さんとは好きとの感情はなくて、ただ話してておもしろい女の子でした。



知沙ちゃんの時も何も言えず眼の前から消えられて、千手さんも急に高校を退学してしまった。


田中くんが仲良くなったら、やがて田中くんの前から彼女たち自身から居なくなってしまう。


知沙ちゃんの転校も、退学してしまった千手さんも別に田中くんが何かをした訳ではなくそれぞれの事情なんだけれど。


後ろ向きになっていた田中くんはそんなことを、少しだけだけれど考えてしまうのでした。



こんな経緯があったから、小柴さんに「今、好きな人が居るの?」と聞かれて


「いまは、好きな人は居ない」としか答えなかったのだ。 



小柴さんと佐藤さんは、知沙ちゃんの存在すら知らないし知り得ない。


知沙ちゃんは、1年生の一学期しか居なかったしクラスも違うし、当然出身中学も違う。



田中くんも終わっ恋の話を、二人に話すつもりも無くこういう背景があったんだよって事は全く知らない。


恐らく知沙ちゃんとの事は、1年生のクラスメートも誰も知らないだろう。


田中くんの元クラスメートの男友達の中には、知沙ちゃんと同じ中学の出身者が居るけど…


田中くんが知沙ちゃんに好意を持ってたなんてこと、絶対に知らないだろうなぁ。



田中くん自身にも、前を向かないとっていう気持ちがあるから佐藤さんからの告白に対して、拒絶はしなかった。



「佐藤さん。とりあえず、…友達なら。」

  



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