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田中くんと吹奏楽

ある日の放課後の、図書室でのこと。



「佐藤さん、音楽って聴くのはウルフルズだけ?」田中くんは珍しく音楽の話題を振った。


「どうしたの?」


「7月26日に吹奏楽コンクールがあるんやけど、興味あったりする?」


「それって、デートに誘ってくれてるってこと?」佐藤さんは嬉しそうに横に座る田中くんの顔を見上げてそう言った。


「世間一般では、そう言ったりもするね。まあ、僕の中ではデートではないけどね。」


「うん。行く。」


「あ、即断やったね。」


「田中くんに誘ってもらったのに、断れないやん。」


「あの...僕な、中学の3年間は吹奏楽部やってんな。

僕らの代は、部員同士はめちゃくちゃ仲が悪くてさ。

足の引っ張り合いしてたから、今は連中との縁は切れてるんだけど。」

 

「あら…、仲悪かったんやね。」


「僕が1年生の時の3年生の先輩達に対しては別に何も思わんし、慕ってる人も何人も居たけど。同級生達はアカンな、最悪の集団やったよ。」


「そうなんや。それって、田中くんとこの英中だけの話なの?」


「それやったらエエねんけど、北中の隣の鷹中の話なんだけど。

楽譜のファイルにカッターの刃を仕込んだ奴がいて、知らないで触って怪我してたりとかね。」


「やばいね、陰湿なんやね…。鷹中でそんなんあったの知らなかった、ビックリやわ。」


「まあ、鷹中にも仲悪かったんが居たんやろね。全部がそんなことをするわけじゃないよ、もちろん。」


「たまたま、個人のレベルでそうやったんやろうけどね。」


「で、ウチの高校に入ったら、中学のその慕ってた先輩にめっちゃ勧誘されたんやけど。うちの高校って、吹奏楽部がかなり弱いんよね。」


「そうなんや。吹奏楽部に、強いとか弱いとかあるんやね。」


「まあ、それはあるね。

入部しないことに関しては、複数の先輩達からも怒られたし。

最終的に吹奏楽部の部長からも、家に電話かかってきて...

経験者の部員が欲しいから、なんとか入部して欲しいって言われたけど。

でも、剣道の防具を買ったからと言って半ば強引に剣道部に入部したんよな。

その後、佐藤さんも知ってる通り、2年の途中で剣道部も辞めたんよね。」


「私は、田中くんが吹奏楽部に入るより剣道部に入部してくれて良かった。

今は剣道をしてなくて、あのカッコいい姿は見れなくなったのは残念だけど。


吹奏楽部は文化部のグループだから、体育祭でリレーは走らないから…。

もしそうなってたら、私は田中くんに一目惚れしてなかったかもしれない。」


「まあ、それはそうならんかったんだからエエやん。」


「うん。」


「でな、2年の一学期で剣道部辞めて、プラプラしてたのよ。で、剣道部の前顧問だった吉岡先生が、去年は吹奏楽部の顧問をしてて。

その時に僕が中学でトロンボーンやってた、ってのを話したことを思い出したらしくて。

遊んでるんやったらコンクール期間だけの代打を頼むわ、って言ってきてん。」   


「吉岡先生って進路指導室の先生かな?」


「そう、担当教科は商業科やけどね。受け持ちの学年が違うから、ほとんど関わり無いやろうね。佐藤さんは吉岡先生のことは、あんまり知らんと思うわ。

話し、戻すね。

それで、トロンボーンは奏者が何人か居るから、誰も演ってないし必要不可欠なチューバをやれと言われてね。」


「楽器って、そんな変わってすぐに慣れるもんなの?私は、学校の音楽の授業以上の楽器をしたことないから分からないけど。」


「トロンボーンはスライド楽器で、ピストン楽器では無いからねぇ。指の動きを覚えるのがなかなか大変やったよ、チューバは大きいし持ち運びがね。しかも、ロータリーチューバやから、重たいねん。」


「そうなんだ。」


「確かに低音域がしっかりしてないと、音に深みが出ないしね。

まあ、そんな訳でそのコンクール限定で参加してんけど。」


「結果どうやったの?」


「それ、聞く?」


「うん、だって知らないもの。」


「地区大会の銀賞…」


「それってどうなの?」


「いや、1番アカンやつですわ…。銀賞の上がダメ金って言われてる金賞で、次の大会に行けない金賞やつね。その上も金賞、これが県大会に行けるやつ。」


「じゃあ、全然やん。」


「そう、アカンのよ。ウチの学校は…。だから、中学の部活で可愛がってもらった先輩に逆らってまで剣道部に入ってん。」


「吹奏楽部って、上下関係が厳しいって聞いたことあるけど。さっき怒られたって言ってたけど、それって大丈夫やったの?」


「いや、あんまり大丈夫じゃない…。先輩には絶対服従だったから、女子の先輩達にはかなり怒られた…。

それ以後、その先輩達には口を利いてもらってないのよ。

体験入部に行って、その先輩達と入部する前提で話しして。

合奏を聴かせてもらうまで居たから、先方には意志が硬いと変に期待させてしまったのかもね。

でも、合奏を聴いて音がバラバラでがっかりしたのは事実やねんな…。」


「しかし、女子の先輩かぁ…。相当、根が深そうやね。」


「まあね、担当してた楽器は違ってたけど。先輩達が中学を卒業してからも、演奏会とかで他の先輩達が居たとしても会ったらくっ付いてよく喋ってて。

色々と音の技術的なこととかも、結構教えてもらったり。

トランペットパートの桜木先輩やサックスパートの西本先輩には特に懐いてて、犬みたいに尻尾振ってたなぁ。

西本先輩は、中学生の僕がスカートの中を見ても怒らんかったけど、入部を断わった時はホンマに怒られたね。」


「ちょっと待って、女子の先輩のスカートの中を見たの?」佐藤さんはビックリした表情で、田中くんを見た。


「別にウチのクラスの女子達みたいに、スカート捲りした訳じゃないよ?偶然に見えちゃったの。でも西本先輩は僕が見たのをわかってたけど、特に何も言わなかったなぁ。西本先輩は、僕の事は弟みたいな感覚じゃないかな。」


「田中くんは、私のスカートの中は興味ある?」佐藤さんはそう言って両手でスカートの端を少しだけめくり上げた。


うわ、そう言えば佐藤さんも小柴さんも1年生のクラスは女子クラスやったな…


ノリが女子高や…。佐藤さんって普段は大人しいけど、僕に慣れてきたから段々と地が出始めて来たのかな?。


「…なんて言って欲しいの?その質問は、健全な男子高校生には愚問だと思うけどね。あえて、ノーコメントって言うとくわ。」


田中くんはちょっと冷めたような口調で、そう言った。


「ノーコメントね…。」


「まあ、先輩達からしたら自分に尻尾振ってる飼い犬に手を噛まれた様なもんじゃないかな?」


「犬って…。」


「まあ、仮にその時にどっちかの先輩が彼女になってくれるとかなら、即決で吹奏楽部に入ったと思うけど。

犬だけに、先輩の為ならバター犬にでも喜んでなったのになぁ。」


「えっ、バター犬って、何?」


「えっ、バター犬の意味が何かってこと?それは、耳年増な小柴さんに教えてもらってよ。」


「わかった、聞いてみる。あと、さっきのなんだけど。

どっちかの先輩が彼女になってくれるとかならって、どういうこと?」佐藤さんは、ちょっと怒り気味に田中くんを睨む。


「いや、僕が中学生の時にすごく可愛がってもらったし。先輩たち自身も可愛いから、あんな憧れの人が彼女ならなぁってその当時思っただけ。」


「…私が田中くんの彼女になりたいのに...、本人の前でそんなん言わんといてよ。その先輩たちのことは…、好きなの?」


「ゴメン、そういうつもりではないねん。

好きか嫌いかで言えば好きやけど、loveではなくlikeやね。第一、先輩達は僕の相手なんてしてくれへんよ。」


「ふ〜ん。」佐藤さんは拗ねてしまったのか、横を向いてしまった。


「現実には剣道部に入部したから、吹奏楽部には入ってないし。先輩には、未だに口を利いてもらってないから…。

先輩達の卒業式に、おめでとうございますも言えなかったしね。単なる、悲しい妄想ですよ。」


「どうせエッチな妄想するなら、私の事を想ってよ!」


「佐藤さんで、エッチな妄想ってか…。」


「私でやと、なんか嫌そうに見えるのは気の所為やんな?

あ、前に小柴さんに言われたけど。田中くんは、女の子のおっぱいが大きいほうが好きとか言ってたって。その先輩達はどうやったの?」


「え、そんな質問にホンマに答えなあかんの?」


「うん。是非、聞かせてほしいな。」


「…桜木先輩は、中学3年の時点で割と大っきかったなぁ。高校3年生になるともう、ご立派なお胸様でした。西本先輩も、まあサイズはあったかな。」


「やっぱり、見て憶えてるってことは好きなんやん...。」再度、拗ねた佐藤さんは今度は下を向いてしまった。


「だから、答えるの嫌やったのに。」


「私の事は、そういう目では見られへんってこと?」


「…」田中くんは明後日の方向を見ていた。


「まあ、私のことも少しはそういう目でもいいから見て欲しいかな。

せめて、妄想でもいいから。ちなみに、先輩達が好きってことは田中くんは年上趣味なん?」


「そうなんかな、よくわからんけど。自分が兄弟で一番上なんでお姉さんが欲しかったりはしたけどね。なんで?」


「多分、そうなんかなって。私のがちょっとだけお姉さんなんやから、全然甘えていいのよ〜?」


「いや、僕と佐藤さんは同級生でしょ?やし、生まれ月も数ヶ月先なだけやん。」


「えぇ〜、甘えてくれたらいいのに…。」


「佐藤さん、そんな紅い顔して言われてもなぁ。無理せんでええよ、そう言うのはもう少し二人の仲が先に進んだらの話やわ。

関係性が先に進むかどうかも、今はなんとも言えんし。そもそも今の僕らの関係って、そういうんじゃないやん。」田中くんは冷静にそう言った。


「…うん。」


「...言おうか迷ってんけど、正直なこと言うてええかな。

僕の、個人の意見としてやねんけどさ。


どこで誰が見てるかわからん、完全なプライベートな空間に僕と佐藤さんの二人きりならまだしも。

たかがスカートの端を少し上げただけ、それしきのことかもしれんけどさ。

その行動で、佐藤さんの足は確実に見えてるのよね。

僕にしか見せてないと思ってても、窓ガラスの向こうから誰かが見てるかもしれへんやん。


佐藤さんがそんな行動をしたのは、僕がそんな話したからやというのは重々承知してる。僕もバター犬とか、余計なことを言った事は謝る。


でもさ、今日の佐藤さんはいつもと違って不用心やと僕は思う。

佐藤さんは自分が女子高生なんだということを、もっと自覚するべきやと思うわ。


ここは図書室という公共の場で、窓のカーテンも開いてるし。

この話と比べるのも違うと思うけど、ここで色々やって見つかって停学になったやつも居るんやわ。誰とは言わんけどさ。」


「...」


「普通に考えて、一般的な男性には佐藤さんは十分魅力的に映ると思う。極端な話かも知れないけど、外でそんなことになったら襲ってくださいって言っている様なものやから。

僕個人は佐藤さんが名前も知らない、単なる高校の同級生ならこんな事言わない。


大袈裟かもしれんけど、そんな仕草を見て興奮する性癖の人だって世の中には居るんだから。

例えばその人が、そこからエスカレートした行動をとらないとは限らないやん。」


「...うん。」


「ごめんな、なんか説教臭いことを言って。彼氏でもないのに、余計なことやったかな?」


「うん、大丈夫...。」下を向いたまま、佐藤さんはそう返事をした。


「空気悪くしてしまったね...。どうしよう、コンクールの件やめとこか?」


「...いや、行くよ。せっかく誘ってくれたのに。

それに、田中くんの気分を害したのは私やし。」


「ほな、コンクールを聴きに行くってことで。」


「あっ。でも、ひとつ疑問があるんだけど。うちの学校ってアカンのじゃないの?それをわざわざ聴きに行くの?」


「まあ、ウチの学校のはついでやから聴くけど。

本命は、母校の英中学の吹奏楽部の演奏やねん。」


「田中くんとこの英中は強いってこと?」


「4年連続で、県の大会に出てるよ。」


「それってすごいことなの?」


「まあ、ウチの高校のレベルからしたらスゴイかもね、同じ小編成やし。中学と高校の差はあるけど。」


「小編成って何なん?」


「簡単に言うと、舞台に上がる吹奏楽部員の人数によって編成ってのが変わるのよ。課題曲があるA編成とか、それが無いB編成とかあるよ。」


「ふ〜ん。あまり、よくわからないけど。」


「まあ、同級生に会ったら面倒くさいから端っこで聴いてさっさと帰るけどね。後輩たちに会ったらちょっとだけ、喋るかもだけど。」


「まあ、その時はどこか端っこで待ってるよ。」


「早く帰りたいのは、妹も居るので…。」


「そう言えば妹さんが居るって言ってたね。妹さんも吹奏楽部なの?」


「うん、クラリネットやってる。」


「エエなぁ、妹か…。私は一人っ子やからわからへんよ。可愛いんじゃないの?」


「クソ生意気な妹やけど、同じ部の後輩でもあるのでね。」


「そっか。兄でもあるけど、同時に先輩でもあるんやね。」


「ちなみに、その下にもう一人妹居るで。いま、小学校の6年生やわ。」


「エエなぁ、私も兄妹欲しかったな。」

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