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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編【霊のフォルムが版権ものなのでパーティー追放されるネクロマンサーの話】

作者: 八木耳木兎

「お前は追放だ、ショウ」


 一瞬、言葉の意味を飲み込めなかった。


「な、なにを言ってるんだ……? ポンド」


 勇者パーティーの戦士である俺、ショウは、パーティーのリーダーたる勇者、リトル・ポンドに言葉の意味を問いただした。



「言葉の通りだ。お前をこれ以上、俺たちのパーティーの一員として認めることはできない」

「そ……そんな。あんまりじゃないか。俺は一年間、この冒険者パーティーのネクロマンサーとして頑張ってきたつもりだ」

 そう、俺はポンド率いる冒険者パーティーで唯一の、死霊使い―――ネクロマンサーだった。


 ネクロマンサーとは、死せる魂―――霊たちを冥界から召喚し、それらを利用した魔術を司る魔術師の一種だ。

 死者を現世に呼び戻す、という自然界のルールに喧嘩を売る魔術を使うので、他系統の魔法使いには行使できない離れ業を、死霊を媒介にして放つことも可能となる。

 ネクロマンサーの一員、そしてポンド率いるパーティーのメンバーとして、俺もできるかぎりのことをしてきたつもりだ。


 俺がいきなりすぎる追放宣告に途方に暮れていると、ポンドはテーブルに肘をついて俺に問いかけてきた。

「お前がいつも召喚してる霊、いるよな?」

 どうやら俺の召喚している死霊に、問題があるらしかった。


 ネクロマンサーといっても、霊なら何でもよいというわけではない。

 人間が顔形や性格が異なるように、霊にも様々な種類がいる。個々のネクロマンサーとの相性も霊によって異なるため、必然、各ネクロマンサーは己に最も相性の良い霊を選んで召喚することになる。


「いるけど、それが何か?」


 そう俺が問いかけると、ポンドははぁ……と俺にも聞こえるくらいの大きなため息をついた。

 ―――ここまで言われて何も思い当たらないなんて、お前はなんて勘が鈍いんだ。

 そう言わんばかりだった。


「全体的なシルエットは?」

「白装束を被ったような奴」

「口は?」

「たらこ唇」

「頭に何が生えてた?」

「三本の毛」

「あいつじゃん」

 一瞬の静寂。


「もう! 完ッッッ全に!!!あいつじゃねーか!!!!!」

 声を荒げて『あいつ』と言われて、俺はポンドの言いたいことをやっと理解できた。


 どうやら俺の召喚する霊が、FFF先生(大人気作家。異世界転生者で、前世でも絵物語を著していた)が書いている、子供たちに大人気の連作絵物語の登場人物に酷似している、と言いたいらしい。

 でも、ただフォルムが似ているだけで何で俺が追放されなければいけないんだ。

 という俺の心の中の疑問を読んだかのように、ポンドは一通の封筒を差し出してきた。


「お前の霊は著作権法違反だっつって苦情が来てんだよ。FFF先生の絵物語を売ってる読み物出版ギルド《エレメンタリースクールハウス》からな」


◆   ◆   ◆



「で、先日そのギルドから来たのがその通知だ。お前を追放するか、著作権法違反を問う裁判に出頭するかの二択を迫ってる」

 差し出された封筒から俺が取り出した文書には、確かにパーティー追放か訴訟かを問う警告が記されていた。出版ギルドの印鑑も押印されており、本物と見て間違いない。

 だがそれを見せられても、俺はいきなりの追放宣告と最後通牒に納得できなかった。


「ちょっと待ってくれ。おかしくないか? FFF先生のは絵物語のキャラクター、俺のは実在する幽霊。実在する霊が創作物をパクってるだなんて、そんなの言いがかりだ」

「そう言うけどさ、あの霊がああいうビジュアルなのってお前のイメージも責任の一端があるよな?」

 ポンドの言葉に、俺は何も言い返すことができなかった。

「それは……あるけど……」

 その場を、しばしの沈黙が支配した。


 ネクロマンサーは冥界から幽霊をそのままの姿で召喚していると思われがちだが、実際は違う。

 そもそも冥界は現世以上に曖昧な空間であるため、そこに住まう霊もこれといった実態を持っていない。

 ネクロマンサーが召喚する霊がはっきりした姿かたちを持つのは、霊たちがネクロマンサーの脳内イメージを借りて現世に顕現しているからだ。


 俺も何度かFFF先生の絵物語を読んだことがあるが、そのときなぜかどこか懐かしい感覚を覚えたんだった。

 どうやら俺にとっての幽霊のイメージが、あの絵物語に引っ張られていたらしい。

 もうはっきりした記憶はないが、実は俺も異世界転生者で、前世ではFFF先生(転生前)の絵物語に似た作品を楽しんでいた可能性があるのかもしれない。


「で……でもさ。似ているのはあくまでビジュアルだけだから。性格や能力まで、絵物語のあいつと同じとは限らないだろ」

「まぁそう思うなら、ビジュアル以外の特徴言ってみろよ」

 そう言われたので、俺はポンドに向きなおり、一から特徴を述べることにした。

 


「あいつはちょっとビジュアルが個性的なだけで、ごく普通の死霊だよ。ただ幽霊のくせにクエスト後の夕食でめっちゃ食べるけどな」

「いやあいつじゃん!! 食いしん坊のオバケってまんまあいつじゃん!!!」



「まあ確かに弱点はあるよ。モンスター討伐の時もケルベロスのことめっちゃ怖がってくるし……」

「だからそれもあいつじゃん!!! 犬苦手なオバケってまんまあいつじゃん!!!」



「言っておくけど、俺が召喚できる霊はそいつだけじゃないからな。いつも出してるあいつを出さなけりゃ、文句ないんだろ?」

「まああいつでさえなければいいけど……他にはどんなのがいるんだ?」

「えっと、兄思いの妹と、カタコトでしか話せない弟と、新大陸出身のライバルと、柔道が得意なガールフレンド」

「いやあいつらじゃん!!! どっちにしろ版権じゃねぇか!!!」



 彼自身のビジュアル以外の特徴を一から十まで述べたが、結局俺の説得は最後までポンドに通じることはなかった。

「何から何まで、あの絵物語のパクリじゃねーか。そりゃ訴えられるわ」

「じゃあ俺も聞くけどさ、俺の召喚霊が版権ものだからって何だって言うんだ。別に召喚霊として戦力になればパーティーとしては問題ないはずだろ? そこはパーティーの仲間として、一緒に法廷で戦ってくれよ」

「この際だからはっきり言っておくけど、死霊としてあんまり強くないからだ」

 身も蓋もない答えを返された。

「釣り合わないんだよ。戦力に入れておくメリットと、訴訟のリスクとが」

 はっきり断言するポンド。

 どうやらこれ以上、俺の追放に議論の余事はないらしかった。


◆   ◆   ◆

 

 ショウをパーティーから追放した一年後。


 俺、勇者リトル・ポンドの下に、あいつから会いたいという便りが来た。

 自分を追放した俺を見返したいというので、便りをよこしたという。

 ある種の気まずさはあるが、俺としても今あいつがどうしているかは気になったので、会うことにした。


 久々に会ったあいつの姿は、最早ネクロマンサーのそれではなくなっていた。

 追放された後、ジョブチェンジして発明家となったらしい。

 なんでもネクロマンサー時代の技術を応用し、歴史的発明家の霊を召喚したのだという。

 その発明家が生前遺した設計図を利用して、商売のタネにしているそうだ。

「それでな? 俺、その設計図を使って、機械生命体の開発に成功したんだ」


 そう言って話す彼の表情には、追放された者としての悲しみは最早なかった。

 嬉しそうに話す彼に、俺は正直安心していた。

 追放したとはいえ、ショウが俺の仲間の一員であったことは事実だ。

 彼をパーティーから追い出した時、罪悪感がなかったといえば嘘になる。

 だから追放された後の彼が、ちゃんと第二の人生を歩めているという事実に、俺はほっと胸をなでおろすことができたのだ。

 だから俺は、安堵の表情を浮かべて、どんな機械生命体なんだ?と質問したのだった。


「えっとな、オレンジ色で、頭に髷があって、揚げ物が大好きで、語尾が特徴的な機械生命体なんだ」

「いやそれもあいつじゃん!!!!!!!!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 版権絡みなら追放もしゃあないw W.D氏だったらガチでヤバいからなぁ
[一言] 最後、青タヌキじゃないだけまだましかw
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