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遅咲き王子のお隣に  作者: 白澤 五月
第一章 つぼみ王子と没落令嬢
8/77

7 泣いている美少年

ーーーーーーーーーー


(ん………?)


私はいつもと違う不思議な空気を感じ、ゆっくりと目を開けた。

するとそこには、辺り一面黒一色の世界が広がっている。


(どこ?………というか夢?)


キョロキョロと見渡してもやはり辺りは黒だけで塗りつぶされているようでまったく何も見えない。


(……怖いな)


どこをみても真っ暗で、少しも音は聞こえないし、何も感じない。誰かが私をどこからか見ているようで、でも反対にここには私以外、誰1人いないようで。


ーーーー寂しい。


無意識にも悲しみに包まれ、そう感じる場所だ。


(わっ!)


急に目の前が明るくなり目を閉じると暗い場所で1人うずくまっている10歳くらいの少年の姿が見えた。


(…誰?)


男の子のぼやけた姿がだんだん鮮明になってくると、シルクのような美しい銀色の髪に深い青の瞳の美しい少年のようだと。ちらりと見える切れ長な瞳が印象的な端正な顔立ちをしている。


しかし、美少年の顔は静かに涙で濡れている。


(なんで泣いているの? どうしてなの……?)


突然強い光がクレアの瞳に差し、泣いている少年の姿が遠ざかっていってしまう。 そのまま放っておけないのに、光に抗えない。


(待って!)


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「待って!」


目を開くとそこはいつもの古びた天井であった。息が荒く、悪夢をみた時のように身体はびっしょりと汗をかいていた。


「……んん?何、クレアどうしたの?」


ふとその声の方向を向くと、机を挟んですぐ隣のベッドで寝ていた同僚のアンナが私の声で起きてしまったようだ。


「ご、ごめん、アンナ。なんでもない」


「んん~そっか」


昨夜のパーティーの片付けを遅くまでやっていた彼女を起こしてしまったのは申し訳ないことをした。再び寝入った彼女を起こさないようにこっそりと起き上がると先ほどの"夢"が思い出された。


(何だったの、さっきの…?)


妙に感覚が生々しく残っていてどくんどくんとせわしく波打つ

心臓がおさまらない。


見たことのない少年だったけれどどこか放っておけない気がして、クレアの頭から彼の姿が脳裏に焼き付いて離れないのだ。


(……嫌な夢ね)


泣いてる男の子をそのまま見ていることしかできないなんて胸が痛む。私には弟もいるたから泣いているのはほっとけない。


「はぁ……」


ため息をつくと、悪夢ですっかり目がさめてしまったからお茶を入れにいくついでに仕事までどれくらい時間があるのか知るべく

壁にかけてある時計を覗く。


時計の針は朝の6時20分辺りを指している。


(……あれ?)


私はそのまま数秒固まった。


(目がおかしいのかもしれない)


だってさっき変な夢見たばかりだし。パチパチと瞬きをして目をしっかり潤す。そうしてもう一度確認しても、やっぱり朝の6時20分。


……ちなみに朝番の使用人たちの集合時間は朝の6時半である。


( ……や!)


「やばい!!遅刻する!!」


ガバッと、服を脱ぎ捨て水で濡らした布で身体をふく。後で片付けるからと一応言い訳をしてとりあえず支度をはじめる。


なぜ、目覚まし時計をセットしておかなかったのかと昨夜の自分を責めても後の祭りだ。バタバタと5分で朝の支度を終えると全速力でお城へ走っていく。


「……うるさいぃ」


もちろん、それはアンナの安眠を妨害したのであった。


 ― ― ― ― ― ― ― ― ―


(はぁ、はぁ……。よーし、ギリギリセーフ!)


王城の中央階段にある時計をちらっと確認すると時刻は6時29分。5分で支度を終わらせるなんて令嬢時代には考えられないほどの早業である。

 

とりあえず遅刻を免れたから、天国にいるみたいに機嫌が良くない。いつもなら長くて疲れる朝礼も楽しいな~なんて…


「……初めにクレア・アステリアはこの後、メイド長の私の元にくるように。では皆さん朝礼をはじめます」


「……へ?」


その瞬間、現実に引き戻される。そして数秒後、私は悟った。

"メイドをクビになるのだ"と。


だって、だって!私には心当たりがある。昨日のワイン事件にポンコツ王子の騒ぎの件!!……を忘れてはいなかったが、今までもあったことだったため、気にしていなかった。


しかし、普通に考えて、いつも問題をおこす使用人なんて切り捨てるのは当たり前だろう。


(でも、今ここを辞めさせられたら私生きていけない……!!)


母上に"一緒に住まわせてもらえませんか"と頼んだらきっと"そんなお金ないわよー!"と鬼の形相で怒られること間違いなし。


(ど、どうしよう…)


恐ろしい予想に顔が青ざめ、そのあとの朝礼の内容はまったく私の耳に入らなかったのだった。 

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