4 ポンコツ王子に遭遇して
"やだね、まちがえたのよ!ルイスって誰かしらぁ…!クレアちゃん、ごめんなさいねぇ!"
相変わらずの女性口調でしらを切り続けるジェームズさんに無理矢理厨房を追い出され、しぶしぶ仕事に戻るべく広間に向けて一人歩いていた。
(んー、やっぱり気になるわね…誰なの、ルイスって…)
いつもならはっきり物を言う彼…いや彼女であるが先ほどの切れ味の悪い物言いにはどこか引っかかる。
(…何かを隠してる?いや、『隠し事は嫌いよ!!』っていつも言ってるジェームズさんのことだから誰か偉い人から口止めされてるのかもしれないし、あまり詮索しないほうがいいのかな…)
気になると気になり続ける性格の私はもんもんと一人考えていた。しばらく考えながら歩いていると、広間のほうから歓声や大きな拍手が聞こえてくる。
(あれ、今日は何か出し物でもあったんだっけ…)
時々来客たちを楽しませる出し物としてサーカス劇団や有名なオーケストラたちを招待している。前の出し物は……確かオペラだった。それはそれはとても綺麗でかっこよくてよく覚えている。
むくむくと興味が湧き、何だろうと少し扉を開けて隙間から広間を覗き込む。すると…
「きゃー、素晴らしい演奏でしたわ、オーディン王子!さすがですわ!」
「なんてすばらしいんでしょう!」
明らかに棒読み、そして心のこもっていないお世辞にクレアの意識は一瞬で現実に戻ってきた。
(はっ!そうだ、さっき令嬢たちが言っていたわ…第一王子の演奏があったんだった!!)
王様譲りの濃い茶色の髪と淡い青色の瞳をもつ彼、この国の第一王子、オーディン・ヴェルダーが中央にヴァイオリン片手にふんぞり返っていた。
彼の自慢のヴァイオリンの演奏は終わったらしく、令嬢からの異常なまでの激しい拍手や称賛の声に気づかずにまんざらでもなく顔をにやけさせている。
(……令嬢たちの変な様子に気づかないなんて、相変わらずポンコツねぇ)
すると、王子は周りにやあ、やあと手を上げながら隣に執事を連れてクレアがいる扉の方へ向かってきたのを見た瞬間、クレアは急いで扉を閉めた。
(…大変!!)
驚きのあまり少し脳が停止したがすぐに辺りに隠れそうなところがないか探しはじめる。そう、またもや、クレアには見つかってはならない理由があったのだ。
(あんな変な形のオブジェには隠れられないし、こんな小さい坪には入れない!)
なんでお金持ちの家とかってこんな使い道のないものばかり置いてあるのよ!と少し悪態をついたが、時は既に遅し。だんだんこちらに近づいてくるのがあの王子の高らかな足音で分かる。
(わぁー!!どうしよ、あのポンコツ王子になんて会ったら困る!!どうして私ったら忘れてたの~!!)
扉の向こうから王子の執事がどうぞ、と声をかけ扉を開けた。
仕方がない、ここは使用人の技、深いお辞儀!!使用人なら王子が通るから礼していてもおかしくないはずだし、何より私は実際、ここのメイドなのだから!我ながら名案を思い付いたと自分を褒め称えたがそれは失敗だった。
「…ん?君は!クレア嬢ではないか!顔をあげよ!」
(ええ…………見つかっちゃった…)
よく考えたら当たり前だ。私の金銀糸のような髪は珍しく、そう容易く、同じ髪色の人はいなかった。そんな目立つその金の髪と16年付き合っているはずなのに、もんもんと考え事をしていた私はそのことをすっかり忘れていたのだった。
(このおバカ髪!)
昔からこの髪のせいで嫌な思いをすることもあったが、自分の生まれ持った髪を罵倒すると、少し胸が痛んだがそんなこと言ってられない。とりあえず不敬罪には問われたくないため、仕方なく顔を上げて返事をする。
「…はい、そうでございます」
「なんと!ここで会えたのも運命だ!よし、クレア嬢、僕と結婚しよう!」
(えぇ……)
広間にいる貴族たちはざわめき、令嬢たちは私の方を向いてにらんでいる。王子様であろう彼が貴族から平民へと降格した女などにプロポーズなんてあってはいけないことだ。
(そんなこといわれても困るのに…)
さすがポンコツ王子!プロポーズされた相手の状況とか、周りからのとがった視線のことを考えることはできないようだな!とは言えずに私は再び静かにため息をついた。




