29 報告書
私はルイス王子に朝食を届けると、別邸から城に向かっていた。
「あぁ~、もう!なんで私があいつのためにお城にまでいかなきゃいけないのよ!」
プンプンと怒るクレアは、相変わらず負のオーラびんびんだ。これで機嫌が悪いのを隠せていると思っているのは大間違いである。馬を操る御者も時折聞こえるクレアの大きな声にびくっとするのだった。
20分もかけて別邸に行ったのにお城にすぐ戻らなきゃいけない。
王子とももっとお話したかったし朝ごはんの監視もしなきゃいけなかったのに……!
(うぅ~!もう!!)
全身を勢いよく伸ばすと馬車の天井にあたりガンと音をたてた。
御者さんはその音にびくっと肩を揺らした。
「痛い………」
クレアはぶつかった手を擦り、手の痛みでどうにか理性を取り戻した。
(………そういえばルイス王子、あのピアスいまだにつけてくれてるんだ…!)
別邸を出てくる前にちらっと見えた彼の耳元には、あの青いピアスがついていた。自分がプレゼントしたものを大切にしてくれているのを見ると心が温かい。それに胸がきゅっとなり嬉しい。
(それに寮に飾ったあのバラもどうにか形に残せたらなぁ)
建国記念祭の時にルイス王子がくれたピンクのバラ。5本のバラの花束は寮の自分の部屋に飾ってある。その他の王子がたくさん無料でもらったバラは別邸のあちこちに飾ってあるのだが、王子から直接もらえたバラはやはり特別だ。
(よしっ!早くこの用事終わらせちゃおう)
そう考えていたらルンルンと気分が軽くなりクレアは自然と微笑んでいた。
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コンコンコン
「はい、どうもクレアさん。朝早くから呼び出してすみません。
こちらにどうぞ。………メイドさんたちどうもありがとう、お仕事に戻って大丈夫ですよ」
うーわ……偽優男の登場ね。クレアを呼び出した張本人アイザックがにこにこと相変わらず優しげに振る舞っている。
私が1人のときにはそんな優しい人の仮面つけないくせに……!
ほんと私以外にはこんなふうに優しくなるのよね。
「はいっ、失礼しますぅ!」
ほら、そのおかげで優しい顔にメロメロ、そしてまぁ、お優しい方なのねと騙された同僚たち。
ガチャ
「おい、クレア………」
ずぅんと一気に雰囲気が変わったアイザックだが、いつもより重おもしい。
「は、はい?どうしましたか………?」
「どうしましたか?じゃない!おまえこの約半年、何をしてたんだ」
急に何を言い出すんだこの腹黒よ。そんなの決まってるじゃないか。
「え、何って………王子の専属メイドよ」
「そうだ!そうだけど違う!!手紙にも書いたがお前第二王子と
どんだけ仲良くなってるんだよ!」
ばんっと机に出されたのはスフィアさんとジェームスさんの報告書。たぶん二人はアイザックだけにルイス王子の報告を出していたのだろう。
そこにはーー。
《仲睦まじいようで、可愛らしいです!なんといっても王子のツンツンとしたのがデレルのが………いえ失礼いたしました。王子は変わらず、お元気です。クレアさんとの仲も良好です。以上 スフィア・ゴッツワーニ》
《とにかく両思いになるべきよ!!絶対!私応援してるのよ!アイザックちゃんも嫉妬しないのよん!いい感じなんだからね! シェフ ジェームスより》
『……うわぁ)
「すみません、これはちょっと語弊が……」
「そうだろうな!嫉妬なんて俺がするわけないだろう!」
(いや、そこ!? 怒るとこそこなんですか!?)
アイザックがどこに腹を立てているのかよく分からないがとりあえずこの報告書たちが原因で呼び出されたというのは分かった。
「それは置いといてだな、お前自分の役割分かってるのか!?何年下の幼い王子をたぶらかして楽しんでるんだよ!なつかせろと言っただろ!どちらかというと服従させろと!」
「なっそんなことしてませんよ!私はあなたに言われた通り仕事をしていたまでです!!それに私は王子に上から命令するなんて
嫌ですからね!」
たぶらかした、なんて言われちゃ我慢できない。メイドの私だってクールだけど優しい王子と仲良くしたいし、服従なんてもってのほかだ。それにスフィアさんたちが私とルイス王子のことを勝手に勘違いしているだけだ。決して私とルイス王子は良い感じではない!
(それにしても……スフィアさんって案外恋愛好き?)
「他にもある!無断で城の材料を借りたり、建国記念祭で見かけたかもという王子を知るメイドたちからの声も上がってる」
「……え、本当ですか?」
「その、様子では本当に行ったんだな……。まったく、それに加えてここのところパーティーにいないお前を探して令嬢たちやポンコツ王子がさまよってるんだ」
さまよってるって……仮にも高位の人たちなのに……。まぁアイザックから見たら痛くも痒くもないかもしれないが
「勝手にお祭りにいったのは謝ります!でも結局何がいいたいんですか!」
「……は?」
「………………え?」
ちょっとちょっと?次期宰相になるというあのお方が何も言うことがないのに文句いうためだけに私を呼んだんですか?あまりにも呆れた結果に思わずため息がこぼれる。
「アイザック様、私は1メイドですが、暇ではないんです。別邸の使用人なんて3人しかいないんですから。用がないなら帰らせていただきますからね」
「あ、おいっ待て!」
ガチャと扉から出て逃げるように馬車に乗り込んだ。




