27 本当の信頼
建国記念祭も終わり、夏も後半となった。太陽の光は穏やかになり、風もだんだん涼しくなってくる。毎日せかせかと仕事をしていた国民たちは少しゆっくりしたいだなんて思う頃だろう。しかし今日は休んでもいられなかった。なぜなら………。
(なんなのよ、あの腹黒貴族~!!私だって忙しいっての!!)
第二王子ルイスの専属メイドのクレアは今朝届いた一通の手紙にイラついていた。差出人はどこの令嬢もが頬を染めるアイザック・フィオフォース。令嬢たちがもし彼から手紙をもらったらきっと喜びで泣くか叫ぶか、まあそんなとこだろう。
しかし、あの偽優男からの手紙をもらったってクレアは嬉しくもない。だってその手紙には《城に来い。応接間に午前9時。絶対だ。》のたった三言。………ありえない。
私も一応令嬢たちと同じ女の子なんですけど!!もっと大切に丁寧に書いた文字や言葉があってもいいはずなのに……まぁ、元令嬢で今はメイドだから仕方ないのだが。
ドンッと感情に任せて手に持っていた洗濯かごを降ろすと側で寝ていたらしい黒猫のクロがにゃーと飛び起きた。
するすると机の下をくぐり、朝食を戦うように食べている少年の
膝に上った。
「………どうしたの、クレア?今日は機嫌が悪いね」
ルイス王子は嫌々スクランブルエッグを食べている手を止め、手に持っていたスプーンをおいた。
「あ、すみません………そんな負のオーラ出てました?」
まったくそんなつもりはなかったため、少し気恥ずかしくなる。
「うん、寝てたクロが飛び起きるほどにはね」
………恥ずかしい。王子にそんなこと言われるなんて。それに寝てたクロにも悪いことをした。
「……すみません。少し反りのあわない人がおりまして……。あ、あとちょっとお城に野暮用ができてしまったんですけど、お昼までには帰りますから」
ここの専属メイドになれといったのはあいつなのに呼び出されても断れない自分の境遇に悲しくなる。
「分かった。これまだ食べ終わらないからこれ、持ってかないでね。ジェームスが作ってくれたものだからクレアがいなくてもきちんと食べきるし」
そう言い、クロを一撫でした王子は柔らかく微笑んだ。
(……ルイス王子が優しい方なのが唯一の助けよね)
「ありがとうございます!それでは少し行ってきますね」
「……いってらっしゃい」
― ― ― ― ― ― ―
僕はまだ食べ終わりそうもないお皿たちを見てため息をついた。
(まったく、こんなに無理してまで食べる必要なんてないのにな……)
そう思いながらもとりあえずフォークで野菜をグサッとさして口に運ぶ。
ここまで食事をするようになったのはクレアのせいであり、おかげである。彼女のおせっかいのおかげでこの5カ月はいつもより明るくて温かかった。
それにーー
ルイスは耳元に手を添えるとチャラと音が聞こえる。
(……クレアにもらったピアス、まだなれない)
先月身元を隠して参加した建国記念祭の時にクレアからもらったプレゼント。海のように深い青に金の花がデザインされた美しいピアスは動くたびに優しく揺れる。
クレアは散々金欠だっていってたのに"似合うと思ったから"
という理由だけで僕にプレゼントしてくれた。別邸に隠された王子なんていう僕には何も返すことができないのに。
それにプレゼントは嬉しいけど僕はクレアが隣にいる、今はそれだけで心が満たされる気がする。
(あ……1階に本を忘れた)
最後にトマトを口にいれ、ようやく朝食を全て片付け終わり、クレアからもらった本を取りに降りた。
(あんなに大量にあった本もこの本で最後か)
たった1人で部屋にいたころは今よりもずっと一分、一秒さえ長く感じていた。でも、最近はあっという間に過ぎていってしまったように思う。
(あっという間、ってこういうことを言うんだな)
がさがさと一階で机の上やソファの近くなど本を探してもまったく、見当たらない。キョロキョロと辺りを見渡すと棚の真ん中の段に不自然に突っ込まれていた。
(……こんなところに置いたっけ)
本をゆっくりと棚から取り出すと、ざざざっと何かが落ちてきてしまった。ニャーとそれをよけるクロを見て文句を言う。
「……まったく、クレアは片付けが得意って言ってなかった?」
くすくすとクロに笑いかけながら、謝るクレアのことを思い出すと可笑しくてたまらない。丁寧にあちこち床に散らばった紙を拾い集めると1つの手紙が目に止まる。
「………あれ?何、これ」




