9 王族の秘密
ん?だんだん分からなくなってきた。王子が死んだっていう嘘を王族が作ったってこと…?
「……なんでそんなことするんですか?」
「……レアリウス王国の王族として認められるには"紋章"が必要不可欠なんだ」
「"紋章"………?」
聞いたこともない"紋章"という言葉に違和感を持ちながら私は首を傾げる。それと死んだはずの第二王子に何の関係が……?
「紋章っていうのは王族が10歳の誕生日までに手の甲に発現するもの印のことで我が国の女神アイリーンが国を発展させるために王族に紋章として特別な力を持たせているときいている。だから神のご教示、"神託"とも呼ばれているらしい」
ゆっくりとそう語るアイザックはまるで聖職者みたいな清らかさがある。……って頭がこんがらがるからとはいえしっかり聞かなきゃ。
「紋章ってひとくくりにいっても、種類が全部で5つある。人の和の"和" 自然の"然"、 知力の"知" 腕力の"力"そして真の王で"真王"というのがある。まぁ、"真王"の紋章をもつ王族はごく稀で女神に気に入られた選ばれた王族しか持つことができないらしいが」
紋章?神託?……初めて聞く言葉ばかりでやっぱり理解するのも大変だ。というより国にそんな秘密があるなんて知らなかった。
昔からかしこまったお勉強が苦手な私にとってはさぞ優秀なアイザックのお話は少し難しいというものだ。それをみかねた彼は眉間にシワを作っている。
(すみませんね、平均以外な頭脳で……!)
「……まぁいい。そして王子が死んだことにされてる理由は、お前でも分かるほど簡単だ。王族であるはずの第二王子は期限である10歳の誕生日を迎えてもなお、紋章が出なかったからだ」
「紋章がでない………?」
「王子は本当の王の子供ではない、もしかしたらすり替えられたんじゃないか……っていう話が出たらしい。第二王子の母親は既に亡くなってるから証拠も何もなくて誰もその可能性に反論できなかったらしい」
「ほ、ほぉ……」
「それでお偉いさんたちは『もし、正しい王族の血族でなかったらこの先も神託が現れることがなくなってしまって国が滅びてしまう』という結論に至った」
なんとも大人たちの勝手な考えだ。王子には誰の子供かなんて分かりっこないし、分からなくて当然だ。それなのにそんなことを言われるなんて第二王子も思わなかっただろう。
「それからと言うもののその紋章のない第二王子は亡くなったということにして紋章の出たあのポンコツ王子に婚約者を集中させて、王族の血族を確実に残そうとしてるってわけだ。それで亡くなったことになってる第二王子は屋敷の離れに一人隔離されているんだ」
「そんな……それでは第二王子がかわいそうじゃないですか」
王族を特別尊敬していたわけではないが、まさかそんなことがされていたなんて知らなかった。第二王子といえば私より幼いはずだ。それなのに1人隔離なんて……私はずっと側に誰かがいたから寂しいなんて思うこともなかったけれどきっと寂しいに決まってる。
「あぁ、俺もそう思う。……でも、これは俺とこの国にとっての好機なんだよな」
「え?」
急激にアイザックの声のトーンが上がる。今しんみりしていたのみ彼のせいで気分がぐちゃぐちゃだ。彼は何が言いたいのかよく分からない。
「さっき言った通り、このままじゃ俺が宰相になってもあのポンコツ王子を支えて共倒れしなきゃいけない未来しか見えない。しかし!その第二王子を上にたてて、俺が政治を行えば国をポンコツ親子から救える望みがある!」
……うーん、『国政を立て直す』という目標は立派なことだけど、それは第二王子を裏から操るって感じにじゃない?
「あぁ、それかお前がポンコツ王子と結婚してあいつを矯正してもらおうかと思ってるんだが……どっちがいいかはお前に決めさせてあげようと思ったんだが?」
ニコニコと面白がっている彼は優男の仮面を被っているときより何倍も楽しそうだ。それが逆にイラつくのだけど。
「なんで、あなたの言うことを聞かなきゃいけないんですか?私はもう使用人なのであなたと仲良くする必要もないし、今はここでの使用人生活に満足してるんです」
言ってやった!言ってやったぞ!!私は今まで令嬢だった頃には言い返せなかったことを言ってやった。第二王子のことは気になるけれど、何でもアイザックの言うことを聞くと思うな!と思ったことを言えて満足だ。
「へぇ……?今や没落したただの平民のお前が最高位貴族の僕に逆らえると思っているのか?」
「~~っ!!」
にやり、と整った顔で悪く笑う。なんてひどい男なのだろう。
顔が幾分かいいからって何しても言い訳じゃないんだぞ!!それにここまで身分差を出し合いにして脅してきた人はいなかったのに……!!
「それにこの秘密は最高位の人しか知らない、知ってはいけない情報だ。それをお前は聞いてしまった。これが他の奴に知られればお前はどうなることか分かるか?」
さ、さすが宰相候補になるだけあって恐ろしいほど先を見据える力と人間を陥れる頭脳だ。そんなところまで考えて話していたなんて、昔から知っている女の子にすることじゃない!
たぶん彼は私が秘密を彼から聞いたと王族に訴えても彼にはうまくしらを切り通す自信があるのだろう、余裕そうにニヤニヤと微笑んでいる。
「………わ、私はポンコツ王子と結婚なんて嫌です!そんなことになるぐらいだったら第二王子の専属メイドでもなんでもやってやりますから!」
(あ、勢い余って言っちゃった)
さー、と血の気が引くと同時にそれを待っていましたとでも言わんばかりにアイザックは飲んでいた紅茶をおき、ゆっくり立ち上がった。
「よかった、クレアならそういうと思った。第二王子の名前はルイス・ヴェルダー。別名"つぼみ王子"だと。紋章のでない未熟な王子様。 ……まぁ、皮肉だな。別邸に住んでるらしいから、そこのメイドには話は通しておいた。もちろんポンコツ王子や陛下には秘密だからな。クレアにこの仕事を頼んだことを知ってるのは、俺と別邸のメイドとここのシェフだけだ。じゃあ、あとはよろしく」
私がそう答えるのを分かりきっていたように笑いながらそれだけ言うとアイザックはヒラヒラと手を振って帰っていった。
(あの狐男…!!呪ってやるんだから!!)
何もかもしてやられた。彼が出ていった扉を睨んでも足りないくらいあの男を呪いたい……!!
(……ってあれ。ルイス?)
『ルイス様に届けてくれるかしら?』
昨日のシェフの言葉がよみがえる。やはり昨夜のシェフの言葉は秘密の内容だったのだ。こういう野生のかんはよく当たるのよ、私。でも、王子様のこととはねぇ…。
「……まぁ、いいわ。一度没落した私だもの、第二王子の専属メイドだってどうにかなるわよ!!」




