女の決闘
ユンナの小屋は、巨大な切り株を くり貫き入り口にしていた。
「エー! これ? 結構いけてるじゃん
まるでディズニー映画の森の小屋、中から小人が出てきそう。
「爺 お前 結構 乙女チックだな」
「馬鹿もうせ」
ユンナは、顔を赤くしてる
案外、かわいい。
そう云えばユンナとは、長い付き合いだが、自宅に招かれたのは、始めてだ。
「ユンナ今度城に来いよ、お前には毎回パーティーの招待券を出してるはずだぞ」
「あれは年寄りの、行く場所ではない 」
地下への階段を降りると、10畳程の広さの部屋に、アンティークな家具が並び、壁には何枚もの額縁に入った肖像画。
「ところで この絵の中のイケメン誰」
「ワシじゃ」
「ウソー」
上半身裸の筋骨隆々の男が、ファイテング・ポーズしている。
「ハリウッド・スターみたい、スカウトされた事ない? 」
「有るよ」
「エー、マジ、何の映画?」
「WO7シリーズに スタントマンでさ。
でもクレジットにはワシの名が載ってる」
「ネェ、この美人 まさか奥さんとか?」
「そうだ、レイラ 我が妻だ(昔 心から愛した ただ一人の女)」
燃える様な瞳が、気性の激しさを物語る。
「でも、なんか恐そう」
「ああ、恐かったよ、怒るとワシを殴ったり蹴ったりした……
レイラは、この星の女だった。
この世を去る時、
老いて病む醜い自分と、若い頃と変わらぬワシを比べ、悔しがって弱い力で、ワシの顔を叩いて泣いた。
ワシは長寿族だ(ヨーダ様と同級生だったんだよ)
「お前は何故 若い?
何故 生きる?
分かったぞ、お前はウチが死んだら他の女と遊ぶ気だな」
「誓うよ、お前だけがワシの女だ」
「お前の誓いなど、何の意味も無い 自分に呪いを掛けろ」
「どんな? 」
「ウチと違う女と、交わった時 自分の首が飛ぶと」
「掛けたよ、これで満足か? 」
レイラは、目を細め
「良し。OKだ。」と呟くとスーと涙を流し、旅立って行った。
「良い話ネ」
「全然良く無いよ、あれから800年間ワシは一人だ」
「ゲー! お前800年も一人で してるの、そこまで行くと偉人だよ」
「だって首が飛ぶんだぜ、恐くてフクハラにも行けないよ」
「フクハラて、何だ? 」
「パラダイスだよ、関西の人なら誰でも知っている」
悲劇なのか喜劇なのか、良く分かんないや。
小屋の中は暖かった。
「この家マジお気に入り なんだけど」
「なんの この子の為に作ったのじゃ、それまでは洞窟で、寝てたがの女の子に洞窟は可哀想じゃ」
「名は? 」
「リロじゃ」
「でも、なんか似てないな」
頷き「東方の血が、交じってる」と、呟くユンナの瞳に哀しみの影(あまり深く聞くな)
「リリィ様、お爺さま、お茶を召しあがれ」
「有難うよ、気を使わせちまったな、おいで」
リリィはリロを抱き上げると膝に乗せる。
子から幼児特有の甘い乳の香りがする。
「この茶旨いな、お前が入れたのか」
「そう お茶の葉も、私が栽培してるの ハーブも、パセリとセージとローズマリーそしてタイム、スカボローの市場で買ってもらえるの」
「お利口だネ」
そうだ、ゾフィアより余程 上等だ。
「リロ、お城で働かない」
「行きたいー」
「ダメだ」
ユンナが、珍しいく険しい顔をしてる。
「だって、こんな森の奥の一軒家で、友達も いないじゃない」
「絶対ダメだ。
法王庁の直接雇用なら、一従業員ですむ、しかし お前の紹介で入城するのなら立場は全然違う、万が一政変の場合必ず犠牲者となる」
「わたしが守る」
「お前は、この子の命に自分の首を賭ける事が、出来るか?
出来まい。
政の最初の犠牲者は いつも小さき者、力無き者だ」
「我が国に政変なんて起きないよ……」
ユンナは、その我の強いリリィの横顔を見て思った。
この娘は何も知らない。
今 周辺諸国には不穏な空気が漂う。
正に大戦前夜の様相を呈している。
(何故 お前が、それを知る)
フン、村人共は星祭をサバトなどと呼び恐れている、が。
あの精霊達はインテリジェンス・アセスメントの為に全国に配置したエスピオナージだ。
年に一度11月1 万聖節の夜ブルーユの森に帰還して、一年間の収穫を報告し合う。
高度な隠密作戦と、徹底した秘密保持の為 詳細は未だ掴めないがブァロア国への包囲網を形成しつつある。
ユンナは、膝の上で子供を あやすリリィを見つめていた
美しい娘に成長した
市井に産まれていれば
平穏で幸福な人生が送れただろうに
(歴史は、この娘に過酷な運命を背負わせるのか?)
そうだ リリィに会ったのは、リロと同じ年頃だった
森に動物をイジメる子供がいるとの報告に見に行くと、小さな女の子が生意気にも真っ赤な筋斗雲に乗り、「ゼロファイターの奇襲だぞ」と喚き、リスや小鹿を、追い回している。
オマケに雲に備えた機関砲(段ボール製だ、手作りだろう)から白い光線を連射。
殺傷能力は、なさそうだが当たれば痛い(空気銃と同じ)
これか!
城の はちきん娘リリィ。
噂には聞いていたが……
兎に角 評判がわるい、城の周辺の村々でイタズラの遣りたい放題、父親のカイキ様が、遠征で留守をいい事にワガママしてるな。
成る程、カイキ様は先週 御帰還だ、叱られて今度は物言えぬ動物相手か、これは見過ごせないな。
空飛ぶリリィは
「ケッ、ツマんネーの今朝は、弱ッチーのばかりじゃん。」
ツイスト踊る熊とか、そんな奇行種いねぇかな
(奇行種は、巨人だけで十分だよ)
それでは、リリィちゃんはお城に御帰還するの。
そして朝飯食って、朝風呂入ってメアリア保育園に登校するの。
園で朝からブリブリ云わせてやるぜ。
メアリア学園はネ、超お嬢様学校お茶の水と同じなの
偏差値なんてメチャンコ高いんだからネ。
(お前 裏口だろ)
うるさい
空を行くリリィの前方に、不審で巨大な障害物。
あれは 何だ?
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