我らが宿命
地上に降り立つリリイの周囲に、子供達が集まり泣き出す
「お前ら泣くな」
肩を震わせ、泣きじゃくるジュリアを
本当は、ぶん殴ってやりたかったが
抱き寄せて
「ジュリア、分かっただろ これがアタイら王族や貴族の務め……
と、云うより宿命なんだ
イザと云う時、体を投げ出すんだ烟
それが嫌なら恐いなら、貴族から離脱しろ
王位継承権は捨てろ」
「私は捨てません」
絡み合う二人の視線は火花を散らす
(文字通り火花を散らしてる)
だってフラフラ飛んで来たショウジョウバエが
ジュウと燃えて落ちた
そうだ お前達は
やがて壮絶な闘争を展開する
身も心も血みどろで
愛と憎しみと宿命の為に
「上等だ
来年 高等部に入れば、法力学の講義が始まる
教授はグマール様だ
かつて10年連続ワールドチャンピオン
帝王と呼ばれた方だ
厳しいぞ」
(リリィも、一年生の時は毎晩 泣いてた)
あまりの辛さに、法力習得の断念を父に告げた時 父は
「選択は お前の自由だ、しかし法力無き王族の行く先は僧院のみだ、お前は尼僧に成りたいか? 」
あんなの絶対 嫌だよ
メアリア聖堂へ礼拝に向かうパロマ僧院の修道女達
ガリガリに痩せて、黒衣の中身は骸骨?
先頭に立つ院長一人が、牛の様に太ってる
院長は頭巾を被らない
ツルツルに剃りあげた頭を、牛脂でピカピカに
磨きあげた
顔は鬼瓦が、ニヤニヤ笑う
何が可笑しいんだ!
その名は、ミス・ムッソリーニ
笑うよ
あんなの死んでも嫌!
と、言うより死ぬよ!
生死の二者択一を迫られたら、誰でも生を選ぶよネ
だからアタシ開き直った
女の子はネ、開たら強いんだよ
男の子に教えて やりたいな
(なんか、その発言ヤバない)
それからは猛勉強
放課後図書室で教典を狩猟
でも夕方の図書室は寂しい、雨の日なんてフルオープン窓から見える、遠くで濡れて烟るセブン・アーマー連峰や、灯り出す街の明かりに憂
それにホラー
あの日は、法力学定期考査前日で深夜まで図書室で自習
だってグマール様に家庭教師なんて頼めないでしょ
テスト期間中の連日徹夜に、疲れてたのか寝落ちして、午前0時を告げるチャペルの鐘にハッと眼を醒すと、隣の席にボロボロの老人が座って泣いてた
「あなた、何処から入ったの、何で女子校内に居るのよ、それに何で泣いてんの?」
「……あんなに一生懸命 書いて来たのにな、それこそ命を削る様にして書いて来たんのに……今では、もう誰もワシの小説なんて読まないよ」
「作家なの名前は? 」
「ウイリアム・アイリッシュだ」
「アイルランド人なの? 」
「ほら、その程度の認識さ」
その目に込られた深い怨念
知らないわ、アンタの本が売れないのツマンないからよ
「もう帰れよ(墓場へ)アタイも帰るからよ」
墓場で本屋でも開業しな
「ダメだ、今夜パーティーなんだ」
(何の?)
「君も出席するんだ」
(何で?)
「今夜は感謝祭じゃないか」
Thaks giving day!
合図と共に部屋の明かりが消え、変わりに白いテーブルクロスを引いた机の上に置かれた、銀の燭台の赤いローソクにメイド達が火を点す
(赤いローソク?)
その光は血の色、これぞホラー
血の会場は満席だった
この連中何処から沸いてきたんだよ?
(地獄からだ)
メイド達が、キャスターで食事と酒を配る
香ばしい臭いが漂う
七面鳥さ
感謝祭にはターキーを焼くんだ
ここ嫌だよ、魔女でも恐い
「ワタシ帰ろかな、明日テストだし」
「ダメだディナー後、ダンス・パーティーだ、チークダンスを し よう、お前のパートナーは俺だ
そして夜明け前に、俺達は結ばれる」
ゲーッ!!!!
何で!
アタシ、バージンなんだよ!
何で、こんな臭い爺に捧げんのよ?
Eins!Zwei!Drei!Vier!
ズンザャン ジャンジャン ジャン ズン ジャン ジャン ジャン
I read the news today,oh boy
about a lucky man who……
バンドがドイツ語のカウントと、アコースティック・ギターのイントロで歌い出したレノン・アンド・マッカートニーのア・ディ・イン・ザ・ライフに合わせて登場した、細い長身の男にスポット・ライトが当たる
黒装束に赤い仮面
(まさか? これはマズいな)
男が赤い仮面を剥ぎ取ると、会場から喝采
その仮面の下は、昆虫の顔だった
(リリイ、逃げろ!
奴だ、地獄のスポークスマン 赤い死の病の仮面だ
趣味は殺人だ)
リリイは、立ち上がり出口に向かう 足が震える
「おい逃げる気か?」
「お手洗いよ」声も震える
一気に駆け出す
「女が逃げた! 衛兵 捕まえろ! 」
衛兵? 何で図書室に兵隊がいるんだよ?
出口に甲冑に身を固め、刀剣を構えた屈強な男二人、顔は牙を剥く猪
もう泣きそうよ
「首を跳ねろ」
「その前に楽しませろ」
クソ! エィ!
飛び上がり、衛兵の頭上を越え入口の木戸を蹴破り、廊下に転がり出た時、腰を強打して動けなくなる
「女を逃がすな! 」
図書室の壁や窓を、突き破り亡者共が、ドッと飛び出して来た。
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