【人形の様な少女】
フランシェスカ・ドール。
今私の目の前で大鎌を抱き締め、体育座りをしている少女の名前だ。
私は未だに彼女が何を考え、何を以って行動しているのかが分からない。そしてまだ私は、彼女の笑った顔を見た事が無い。
彼らと逸れてしまってから数日。私は彼女から戦う術を習っていた。龍紋を扱うのもそうだが、まずは自分の身を守れるくらいにならなければ戦えないという、彼女の考えから始まっている。
「フ、フランちゃん……ちょっと、休憩」
「情けないですね。この程度で根を上げやがるなんて、役に立ちやがるんじゃなかったんですか?」
「も、もう少し手加減して……このハイペースは無理だよぉ」
私は大の字になりながら、こちらを見下ろす彼女に言った。彼女は肩を竦めながら、呆れた様子で私から離れて行く。
どうやら休憩させてくれるらしい。
「はぁ、はぁ……」
森の中で体術訓練。龍災が起きる前は、こんな事するとは思ってもいなかったし、予想も出来なかっただろう。
「まだダンスレッスンの方が楽……」
そんな事を呟いた瞬間だった。私の頬に冷たい物が触れる。
「ひゃぁっ!?」
「五月蝿いですね。この程度で騒ぎやがるなです。……機械人形から水とタオル、持って来てやったです。早く使いやがって下さい」
「あ、ありがと」
でも、最近気付いた事もある。それは、面倒くさがってる割に面倒見の良いという所がある。
彼女自身が気付いているのかは知らないが、口調が悪いという部分とは裏腹に行動は優しいものだ。
そしてこの水とタオルだって、きっと機械人形……メアリーさんから受け取ったものではないだろう。
何故なら、当のメアリーさん本人は山菜を採りに行ってしまっているからだ。
「……ふふ」
なんだか可笑しくなってしまった私は、そんな彼女の照れ隠しのような行動を眺めるようになった。
初対面の時の印象よりかは、距離が縮まったと日々感じるのである。
人形の様な彼女にも、心は確かにあるのだと知った日なのであった。
「いつまで休憩しやがるつもりですか?さっさと準備をしやがって下さい。そろそろ始めやがりますよ」
「わ、わぁ、ちょっと待ってよフランちゃん!私の水分補給源が溢れるぅぅー!」
今日も一日、体術訓練をするのである。