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1-09 製鉄

 夜が明けると登り窯からは火の粉があまり飛ばなくなっていた。

 本来は某TV番組でもやっていたように何日か掛かる作業のはずなんだ。

 魔力で無理矢理『加熱』しているし、専門家ではないので加減がわからない。

 しかし品質にこだわるより時間が惜しいので粘土で密閉して蒸し焼きの段階に移る。

 最低限の炭になっていればいい。熱源は魔法で補う予定だからだ。

 蒸し焼きに多少時間がかかるはずなので、他の作業を進めよう。


 まずは森での食料採取と魚の罠の回収で、それなりの収穫を得る。

 今日はドングリの仲間のような木の実も大量に採取できた。煎って食べてみると香ばしい香りで、なかなかいける。

 朝食は煎ったドングリとエビとキノコのスープだ。これはこれでとてもうまいが、そろそろ肉が食べたくなってきたな。


 炭ができるまで製鉄は出来ないので防具の作成をする。

 防具に鉄を使わない。理由は手間が掛かりすぎるのと、そんなに大量に出来ないだろうからだ。

 では何が材料か?

 普通ならば革防具なのだろうが、残念ながら手元にはない。


 そこで使用するのが万能素材、竹である。

 昔、某小説で竹アーマーの戦士が笑われていたような覚えがあるが、幸い俺にはクラフトスキルがある。


 まず縦に割った竹を並べると、『粘土化』によって半円状の竹を平らにして『結合』する。これで竹の板が完成だ。

 竹は頑丈さでは鉄には及ばないものの非常に軽くできる。自在に加工できるなら、そこそこの防御力も期待できるだろう。

 ただし、竹は縦方向に力が入ると裂ける特性があるので、細く切った竹を格子状に『結合』をして強度アップする。

 とはいえ竹で全身鎧は作れない。作るのは兜、胴鎧、腰鎧、篭手(こて)脛当(すねあて)の五点セットだ。


 可動する部分は省略して、紐でしばって装着するように作る。これなら竹を粘土のように整形できる俺なら十分可能だろう。

 もちろん竹装備同士がぶつかってカラコロと音が鳴るようなマヌケな構造にはしない。

 そうすると隙間ができるので多少防御力に不安は残るが、隠密性とプライドのために妥協できん。


 粘土化スキルのお陰で竹防具はあっさりと完成した。兜だけはこだわって、日本の甲冑風の兜を作ったぞ。

 兜の飾りの立物(たてもの)をどうするか迷ったが、無難に三日月風の物をつけておいた。

 『愛』の一字を立物につけるか迷ったが、黒歴史になる未来が見えたのでやめておいた。

 きっと直江兼続も天国で歴史ドラマとか見たら、恥ずかしさに悶えてると思うんだよね。


 試しに竹防具セットを装着してみる。

 うん、急ごしらえにしては悪くないんじゃないだろうか。

 ゴブリンの棍棒程度なら、かなり有効そうだ。

 隙間が多いんで、そこを狙うような頭脳と技があって刃物を持ってる相手だと苦戦するかもしれない。

 ちなみに竹一式装備で採集の達人スキル発動とかないですかね。ないですよね、知ってました。

 それと兜の飾り、立物(たてもの)は森を歩くのにとっても邪魔だった。やたらと木の枝に引っ掛かるのだ。

 そもそも(いくさ)じゃないし目立ってどうすんだ。

 まあ勢いで作ったようなもんだし、普段はしまっておこう。


 防具が完成したので製鉄を始めるために炭を取り出したい。

 本来ならまるで時間が足りないが、低品質でもいいから取り出す事にする。

 欲しいのは還元作用のための炭素の供給源だから妥協できる。

 登り窯の焚口の粘土を取り除くと、中から高温の熱気が吹き付けてくる。

 これは予想済みであり魔法で対策するつもりなんだ。


 再び座禅を組み息を整える。丹田のチャクラを回して魔力循環を発動するイメージだ。

 座禅やチャクラを回すイメージは必須でないけど、集中力が上がって魔法の効果も上がる気がする。


 これから使うスキルは『加熱』の応用だ。

 『燃焼』ではなく『加熱』ができるなら逆の作用で『冷却』もできるはず。どちらも同じ温度制御にすぎないはずだ。

 強くイメージする事で魔法が発動する。

 両手を登り窯に当て魔力を流すと徐々に吹き出す熱気が弱くなっていく。

 少し不安だったが、うまくいってくれた。クラフトスキルの生産活動における自由度は素晴らしいな。

 最初は土魔法の亜種みたいなものかとも思ったが、そんなことはない。

 科学技術に応用しやすいのが非常に有用だ。


 急速な加熱と冷却により作られた炭は、やはり低品質だった。半焼けの物もあるし、小さいものは力を入れるとボロボロ崩れる。

 気にせずに炭を製鉄用の炉に入れ、砕いた鉄鉱石も追加する。

 さらに草木灰と炭を上からたっぷりとかぶせて準備完了だ。

 再び魔力循環を行ってから『加熱』を発動して製鉄炉を熱する。


 やがて炉内の炭が赤熱し、蓋のない上部からは炎が吹き出す。

 そのまま炉の限界と思えるところまで『加熱』を続ける。

 そこで一旦魔力を注ぐのを止めて、今度はふいごから送風する。

 ふいごから送風するたびに真っ赤に燃える炭から火の粉が飛び出すが気にせずに続ける。

 しばらく『加熱』とふいごでの送風を繰り返す。

 そろそろ鉄鉱石が変化してきたような気がする。


 ここで思い切って製鉄炉を壊す。粘土製の製鉄炉は使い捨てだ。石ハンマーで簡単に壊れる。

 燃える炭の中から、いびつで黒い(かたまり)を取り出す。

 鉄工所の映像で見るような溶けた鉄ではない。

 鉄の融点は千度を超えるので、こんな簡易炉では厳しい。この塊は不純物だらけでスが入ったスポンジ状の塊だ。

 これは鉄鉱石の酸化鉄が燃える炭によって還元された錬鉄(れんてつ)というもの。

 塊は熱いうちに平たい石に乗せて、ハンマーで整形しながら叩く。

 錬鉄の塊から不純物を搾り出すため、ひたすら叩くのだ。


「明日のために打つべし、打つべし、打つべし!」


 塊が赤熱するほどの加熱を繰り返しながら鍛えると、やがて不純物は搾り出されて黒々とした鉄になる。

 しかし労力の割に得られる鉄は多くない。これでは短剣が一本やっと作れるぐらい。

 小さな鉄板を、さらに加熱して剣の形に近づけていく。

 おおよそ剣の形になったら平らな石のやすりでひたすら研ぐ。

 クラフトスキルの『加工』の助けで効率アップしているが、本来は非常に時間がかかる大変な作業だ。

 やがて研いだ鉄の刃の先に銀色の輝きが浮かんでくる。


「トーマはてつのつるぎを手に入れた!」


 短剣を頭上に掲げて、チャラララッチャ、チャッチャーンと自分で口ずさんでいると、なんとなく閃くものがある。

 慌ててステータスを確認すると、なんと戦闘も無くレベルが2も上がった上にクラフトスキルに『精錬』スキルが生えていた。

 鉄を作った経験がトリガーだったのか。通常スキルにも鍛治と火魔法、風魔法も追加されている。

 製鉄には苦労したが、俺のスキルを目覚めさせるいいきっかけになってくれたな。


 『精錬』スキル、金属の製造に役立つはずだが、どんなことができるのだろう。

 ステータスの『精錬』スキルに意識を集中する。

 ふむふむ……これは試してみるしかないだろう。


 さっそく先日手に入れたゴブリンの錆びたナイフを取り出す。

 赤錆だらけで刃も一部欠けているひどい状態だ。

 魔力を集中して刃を撫でてやると徐々に錆が消えていく。

 更に砕いた鉄鉱石に埋め、魔力を加え続けていく。

 周囲の鉄鉱石と共にナイフは白光に包まれていき、その光が頂点に達した次の瞬間。

 刃が修復され錆の一切ない新品同様のナイフがそこにあった。


「これはすごいな。あの製鉄の苦労はなんだったんだ」


 だが、鉄を作らなければ『精錬』スキルは得られなかっただろう。それに『精錬』スキルの欠点にも気づいた。

 MP消費が大きすぎる。ナイフの修理で1割近くMPが持っていかれた。

 これでは今の俺のMPでは、まともな剣を一本作るのにも一日がかりになりそうだ。鍛冶屋だったら商売にならん。

 つまり大量生産には向かない、カスタム品ならなんとかというレベル。

 たぶん他の魔法同様に、環境や材料しだいで消費は抑えられると思われるので工房を準備することは必須なんだろうな。



────────────

名前 : 鬼界 冬馬

種族 : 人族

状態 : 正常


Lv4

HP : 230 / 430 ( 400+30)

MP : 1550 / 4015 (4000+15)


スキル

 言語理解 Lv3

 環境適応 Lv2

 身体強化 Lv1

 槍術 Lv1

 魔力操作 Lv2

 土魔法 Lv2

 火魔法 Lv1

 風魔法 Lv1

 工作 LV1

 鍛治 Lv1



継承スキル

 クラフト

  神粘土 Lv2

  精錬 Lv1

  加工 Lv2

  分析 Lv1

  変形 Lv2

  加熱 Lv1

  倉庫 Lv1

  植物知識 Lv1

  生物知識 Lv1

  鉱物知識 Lv1

────────────


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