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3-28 水上の戦い9

 総督は帝国の兵士を見捨てて自分だけ逃走することを選んだ。

 奴の乗る私掠船はすでに海向かって先行している。

 だが、滅茶苦茶な統治で皆を苦しめた総督に相応の報いを与えねばならない。


 しかし、軍船よりも小さいとはいえ、私掠船とコルサド号では数倍の大きさの差がある。

 兵士だってそれなりに乗っているはずだ。もっとも、すでに士気は最低だろうが。

 だから、こちらの目的は足止めだ。帆を焼き払ってしまえば、船足は止まる。

 トールさん達が交易船を接収して追ってくるまで足止めすればいい。


 エルフのミリシアとカローナの二人が風魔法で一杯に広げた帆は力強くコルサド号を押し進めていく。

 だが、先行する私掠船との差は少しずつしか縮まらない。

 なんとか彼女達の魔力が尽きる前に追いつけるといいんだが。


「船がとまった~」

「私掠船の櫂が止まってますモ!」


 目の良いシアが船を漕ぐ櫂が止まっていることを教えてくれた。


「何かよくわからんがチャンスだ。距離を詰めるぞ」

「だけど相手にも弓はあるからね。気を付けないと危ないよ」


 ノエルが注意を促してくれる。たしかに敵の弓兵は危険だ。

 こちらにはノエルのバレットライフルがあるが、強力ではあっても一丁だけだ。俺のバレットガンの射程は少し短いので、敵の弓の射程に飛び込まないと使えない。


「アーヤ、用意してきた火矢を射てるか?」

「はい! 任せてください」


 俺は作戦前に用意しておいた火矢をクラフト倉庫から取り出す。

 この矢には細長い石の(やじり)瀝青(アスファルト)を塗った布を巻き付けてある。一度着火すれば簡単には消化できないはずだ。

 火種として、石鍋に瀝青を塗った薪を入れ火魔法で着火する。瀝青を塗られた薪は勢いよく燃える。


 続いてクラフト倉庫から木板や樽など防壁になりそうなものを取り出してならべる。


「みんな! 敵船に近づいている間は必ず身を隠すんだ」

「もちろんだけど、トーマこそ気を付けてよね」

「うっ、そうだな。気を付けるよ」


 ついさっき、敵の弓兵にやられたからな。何かもう一つ意表を突く策が欲しい。

 だが、もう時間がない。俺の持つもので少しでも敵を撹乱できるものはないか?


「えーい、ダメでもともとだ!」


 俺は船首に向かうと甲板に両手をついてクラフト倉庫を開く。

 やがてクラフト倉庫から浮かんできたのは、以前退治したシーサーペントの頭部。

 つまり、シーサーペントの頭部が船の舳先(へさき)に鎮座する状態だ。


「「キャアアア!」」

「なんですかモ!」


 エルフの二人は叫び声を上げるし、シアも驚いている。シアは見てはいないけど、沢山食べているんだよ、それ。

 とはいえ、驚くのも当然。切り落とした頭の顔が船の前方を向いているので、こっちからは切り口しか見えない。直径二メートル近い肉の断面はちょっとグロい。

 他のメンバーもシーサペントの解体に参加しているので知ってはいるが、さすがにびっくりしている。


「こいつなら、少なくとも盾代わりになるだろう。奴らの度肝も抜いてるはずだ」

「ウチらの肝も冷えましたモ」

「ゴメンゴメン。声をかけておくべきだったな」


 だが効果はあったようだ。敵船では兵士達が騒いでいるように見える。

 そりゃあ滅多に見ない怪物が討伐されて、こんな小船に頭が載せられているなんて普通は想像もつかない。

 ずっと監視していた兵士はともかく、いきなりコレをみたら怪物が襲ってきていると誤解する奴もいるだろう。


 そして敵が混乱しているうちに距離は縮まっていく。

 ノエルはバレットライフルを撃ち始めた。狙いは敵の弓兵だ。

 なぜか私掠船の舷側の障害物は船の中央マスト付近を固めていて、弓兵達が身を隠す場所が少ない。


 ノエルのバレットライフルが数人の弓兵を撃ち倒したところで、敵の弓兵も反撃を始めた。

 だが敵の狙いはうまい具合にシーサーペントの頭に集中している。シーサーペントの頭にはいくつもの矢が突き立っているが、俺達には何の被害もない。


 こちらも弓の射程に入ったのでアーヤが火矢を射ち始めた。アーヤの狙いは敵船中央の大きな帆。

 あの私掠船は帆と櫂を併用する型のガレー船だから、帆を失えば再び動き出しても速度は落ちるはずだ。

 大きな帆が目標なだけあって、慣れない火矢であってもほとんど外れることなく命中する。しかし、敵も火矢を警戒していたのか、帆が濡れているようで簡単には着火しない。


 そして敵の弓兵もお返しとばかりに、こちらの帆に狙いを変えてきた。敵兵の火矢が帆に突き刺さる。


「ミリシア、水魔法で消化を頼む!」

「わかりました」


 エルフのミリシアに水魔法で消してもらう。風魔法の支援がなくなった分、船の速度が落ちるが、敵船は停止しているし距離も近くなっている。

 敵の弓兵が危険なので、シアが大盾を持ってミリシアのサポートに回った。


 かなり距離が縮まったので、俺もバレットガンで攻撃に加わる。

 どうやら敵の弓兵もシーサーペントに惑わわされずに、狙いを人や船に変えてきたようだ。

 弓兵の数は向こうが上だが、こっちの武器の連射能力も考慮にいれれば手数は負けていない。


 しばらくの間、障害物越しに攻撃すると、甲板上むき出しで攻撃してきた敵兵はほとんど倒れたように見える。

 だが、敵船中央付近に固められた障害物の向こうに敵兵が残っているようだ。

 そして障害物の隙間から見える金ピカ鎧の影。


「中央の障害物の影に総督がいるぞ!」

「さっきから狙っているけど障害物が厚くて弾が通らない」


 ノエルのバレットライフルの徹甲弾でも分厚い障害物は撃ち抜けない。

 しかも障害物の内側に数人の弓兵が残っているのか、曲射で障害物越しに矢を射ってくる。

 狙いは雑になっているが、危険なことには変わりない。


 しかし、ここにきてようやくアーヤの火矢が敵の帆に着火した。一度着火すれば、瀝青(アスファルト)を塗った火矢はよく燃える。

 俺は効果のない障害物越しの射撃を止めて、狙いを変える。

 目標は、帆を吊り下げているロープ。俺の狙いを理解したノエルもロープを狙い始めた。


 ロープに向かってバレットガンを連射しながら、メルに声を掛ける。


「メル、残った催涙団子を障害物の向こうに投げ入れてくれ!」

「わかった~。これでさいご~」


 メルが最後にとっておいた催涙団子を障害物の向こうに投げ込む。


「なんだ! これは! ゴへッ!」

「ガハッ! ブハッ」

「ガッ! たまらん! 水! 水をくれ!」


 障害物の向こうで騒ぐ声が聞こえる。こっちへの攻撃も止んだ。


 ブツッ ちょうどその時、炎上し始めていた帆を吊り下げていた最後のロープが弾の直撃を受けて切れる。

 燃える帆は直下にいる総督達の頭上に落下する。


「ギャアアァ! 熱い!」

「消せ! 火を消せ!」


 たまらず障害物を乗り越えて甲板に飛び出す金ピカ鎧。他の兵士達も次々に甲板に飛び出してくる。

 そこに巨大な水球が飛来する。水球は金ピカ鎧や兵士達を次々に船上から弾き飛ばした。


「キュキュ~」


 あー、キュキュル君。いいとこ持って行きすぎじゃないかな。


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