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3-27 水上の戦い8

【Side:鉱山都市総督エズモンド】


 おのれ! あんな小船ごときと侮ったのが間違いじゃった。

 この儂を何やら怪しい魔道具で打ち据えたばかりか、軍船までにも浸水させたじゃと!

 儂の私掠船よりも頑丈にできておるはずの軍船が、あんな小船ごときに沈められるなどあってはならぬ。


 だが、軍船を援護しようにも、その中間には小船で魔道具を構えるノームの小娘がおる。

 あの凶悪な魔道具がこちらを狙っておるのだ。


 先程、なにやら撃たれた時には生きた心地がせんかった。

 なんと、このミスリルの鎧にわずかとはいえ凹みを作ったのだ。

 皇帝陛下への献上用に作成した鎧だが、万一のために着ておいてよかった。

 普通の鎧ならば、今頃命はなかったはず。


 ダンッ! ブシュー! 水を蓄えた大樽に大穴が開き、盛大に水を吹き出す。


「誰か! あの小船をなんとかしろ!」

「そう言いわれましても、兵の持つ弓の射程外から魔道具らしきもので攻撃してきます。反撃するにはもっと接近しませんと」

「馬鹿なことを言うな! 奴らの狙いは儂だぞ!」


 軍船に浸水させるほどの攻撃、その正体がわからねば接近するのは危険じゃ。

 そもそも、なぜ儂が危険を犯して戦場に乗り込まねばならんのだ。


「そうだ、砦じゃ! 砦から攻撃できんのか?」

「砦へは支援を求める信号旗を上げておりますが、反応がありません」

「使えん! 何をやっているじゃ、あやつらは!」

「それに弩砲(バリスタ)はすべて軍船に移設しておりますし、長弓でどれほどの効果があるかわかりません」

「ぐぬぬ」


 苛立ちを抑えつつ、川崖の砦を見上げると砦の向こう側から煙がたなびいている。


「なんじゃ! あの煙は!」

「あ、あの位置ですと砦の陸地側の城壁付近ではないでしょうか」

「砦も攻撃を受けているというのか?」

「おそらくは……、それならば支援要請の信号旗に応答がないのも頷けます」

「おのれ! 亜人どもが調子に乗りおって」

「あっ、砦側に信号旗が上がりました! 内容は――支援を求む、です……」

「ばかな……」




【Side:トーマ】


 ダンドやドワーフの精鋭達は船内へと突入して、ノーム達も半数の数人がその後に続いていった。

 甲板に残ったのはドワーフ十数名とノームが数人だけだ。


「大活躍だね。トーマ君」

「ありがとうございます。トールさん。メルも頑張ってますよ」


 甲板に残ったノームの中にはメルの父親のトールさんもいた。


「私としては大人しく待っていて欲しかった気もするんだけどね。まあ、大人達だけでケリを着けられずにいた訳で偉そうな事は言えないけど」

「あー、なんかすいません」

「いやいや、メルのわがままだろうから君が気にすることではないよ」

「いえいえ、俺も助かってるのは間違いないですよ」

「それならいいけどね」


 父親としては娘が心配なのだろうな。トールさんの見つめる視線の先には、メルの乗ったコルサド号の姿がある。

 一方、こちらの船内からは戦いの喧騒が聞こえてくるがドワーフ側の方に勢いがあるようだ。

 この分なら、いずれドワーフ達が制圧してしまうだろう。


 いつの間にか私掠船はこちらに接近するのをやめて、距離をおいて様子を見ているようだ。

 甲板が制圧された状況を見て援護をあきらめたのか?

 それともコルサド号から牽制射撃を続けるノエルのバレットライフルを恐れているのか?


 話に聞いた総督の印象では、簡単に降伏などしそうもない人物に思えた。

 まだまだ油断はできないな。


「見ろ、トーマ君。砦から煙が上がっているぞ」

「やりましたね。トールさん」

「ああ、砦攻略部隊も頑張ってくれたようだ」


 軍船への支援を防ぐための陽動目的で進めていた砦の攻略だが、予想以上にうまくいっているみたいだ。

 あの様子なら、もうこちらに手を出す余裕はないだろう。


「あっ、私掠船が向きを変え始めています」

「本当だ。ダンド君に聞いたが、あの船に総督らしき人物が乗っていたんだって」

「ええ、ミスリルの鎧を着た人物がいました」

「そんな高価なものを着ている人物といえば総督に違いないだろう。特にミスリル生産には血道を上げていたからな」

「まさか、兵士達を見捨てて自分だけ逃げるつもりですかね?」

「ドワーフの皆から聞いている人物像から考えると、その可能性は高いね」

「……わかりました。トールさん、コルサド号で追います」

「だが……、しかたない、頼むよ。無理はしないでくれ」

「ええ、メルは無事に返しますから安心してください」

「ああ、ありがとう。我々も交易船を接収して後を追うつもりだ」


 なるほど、交易船は戦いに巻き込まれるのを避けて離れた位置に停泊している。

 元々は兵士を乗せるための船でないから兵士も少ないし、この状況なら降伏するだろう。

 すでにボートの半数は増援のドワーフ達を乗せるために港に戻っているから、彼らがなんとかしてくれる。


 俺はコルサド号を呼び寄せると、軍船に乗り込む時に使ったロープのもう一方の端をコルサド号に投げる。


「帆柱と結びましたモ」


 シアが結んでくれたロープを使ってコルサド号に乗り移ると皆に告げる。


「俺はあの私掠船を追おうと思う。無理をするつもりはないけど危険はある。手を貸してくれるか?」

「もちろんだよ。いまさらそんな事聞くまでないね」

「メルも手をいっぱい貸すよ~」

「もちろんです。トーマさんについていきます」

「ウチもあの船には恨みがありますから当然ですモ」

「「総督に罪の報いを!」」


 皆、ためらうことなく答えてくれる。特にエルフのミリシア、カローナは総督に恨みがあるようだ。


「よし、行こう! あの船を足を止めるんだ!」




【Side:鉱山都市総督エズモンド】


 軍船は傾き、砦も落ちかけてる。もはや反乱は止められぬ。

 こうなれば、我が領地まで落ち延びる他ない。

 幸いにも集めた財貨とミスリルの大半は、この船に積み込み済み。これらがあれば、再び役職を得て再起することも不可能ではないはずだ。


「船を回頭せよ。湾を抜け海へ向かえ!」

「総督、他の船や砦の兵士はどうするのです?」

「知らぬ! 己の才覚でなんとかするじゃろう」

「そんな……」


 士官が問いかけるが、この状況でどうにかできると思うのか。有能なものならば生き残る、無能ならばそれまでのことじゃ。

 未だ無傷な交易船は惜しいが、あの船の船員は帝国兵でないし、乗り込んだ兵士も多くはない。この船についてくれば良いが、従わぬ可能性もあるな。

 いずれにしてもこの船に比べれば、交易船は足が遅いので足手まといになりかねない。もはや放っておいてもよい。

 ドワーフの反乱軍の戦力は予想以上だった。早く脱出せねば新たに船が現れないとも限らん。


 船は回頭を終え、海に向かって進んでいく。背後では砦から立ち上る煙が大きくなっている。

 やはり儂の判断は正しかったな。



────────────



 しばらく船を進めたところで、船内から騒ぐ声が聞こえてきた。しかも櫂を漕ぐ手が止まったようだ。


「何を騒いでいる! 櫂を漕げ! 帝国へ向かうのだ!」


 船員達に檄を飛ばすが、一向に騒ぎは収まらない。


「なんだ、何が起きた!」

「浸水です! 船首付近の竜骨(キール)の周辺から水が漏れてきています」

「バカモン! はやく修理するんじゃ!」

「それには船を一旦止めませんと! このまま前進していては亀裂が広がってしまいます」

「ぐぬぬ。しかたない……船を止めよ! 漕ぎ手も動員して修理を急ぐのだ!」

「ハッ!」


 後方から、先程の小船らしきものが追ってきているのが見える。あの魔道具が危険じゃ。周囲の兵士に命じて、儂の周辺を木箱や樽で守らせる。

 同時に戦いの準備もさせる。この船の乗組員は敵国の商船ならば略奪者となる荒くれ者じゃ。あの魔道具を扱うのが一人しかいないのならば負けることはあるまい。


 じゃが、近づいてきたものは儂の想像を超えるものじゃった。


「なんじゃ! あの化物は!」



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