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3-22 水上の戦い3

 キュキュルの潜水時間に問題がないことがわかったので、次は俺の潜水について確認しなければならない。

 皆に手伝ってもらいながら、潜水服を装着する。


「トーマ、かっこいい~。メルもそれ欲しい~」

「ぷぷっ」

「笑うなよ。ノエル」

「だってねぇ、動きまで可笑しくてね」


 この潜水服着ていると自由に動けなくて、本当に出来の悪いロボットみたいな動きになるんだ。

 まあ、その辺も作戦前に確認しなければならないことなんだけど。


 なんとか苦労しながら、船から水中へと降りる。というか、ほぼ落下だ。

 後で帆柱の横木にロープを結んで降りるようにしておこう。


 潜水服はゆっくりと水に沈んでいく。水中でも直立できるように足には重り(ウェイト)を仕込んであるし、浮力より少しだけ重くなるように調整用の石の重りも腰にぶら下げている。

 浮上する場合には、石の重りを捨てれば、すぐに浮かび上がれるはずだ。


 俺は潜水鐘(ダイビングベル)の側面に張られたロープを掴んで、鐘の下の開口部へと伝っていく。

 鐘の下には内側の天井からロープが輪のように垂らさているので、それを掴んで鐘の中へと浮上する。


「プゥ、ここまでは問題なし。無事に潜水鐘の中に入ったぞー」


 潜水服のヘルメット部分を外し、船上の皆に届くように大声を上げる。


「すご~い」

「やったね」

「大丈夫ですか?」

「ですかモ?」


 様々な反応がかすかに聞こえるな。内部で音が反響するが、静かにしていれば船上の音も多少は聞き取れる。

 俺は鐘内部のロープにぶら下がった状態で下半身は水に浸かっている。鐘内部に乗り込むような形は大型化するのでやらなかった。

 この状態で問題なく移動できるか、確認する必要があるな。


「キュキュル、潜水して船の周りを回ってくれ」

「キュキュ~」


 キュキュルに呼びかけると、キュキュルは潜水鐘をぶら下げた状態で体を沈めてくれたようだ。

 潜水鐘が沈むとともに引っ張られていくのがわかる。

 余計なものをぶら下げている割には、思ったよりも早いな。


「こりゃいいぞ、思ったより早い。さすがキュキュルだ」

「ピィィ」


 俺のつぶやきに反応して、何やら甲高い音が返ってきた。

 ああ、そうか。水中ではいつもの発声はできないのか。体のどの器官で鳴らしているのか知らんけど便利だな。

 それに良い耳をしてる。これならキュキュルだけに聞こえるように話すことができる。


 だが、しばらくすると問題が発生した。


「うぅ、これはしんどい。キュキュル一度浮上してくれ」

「ピィィ」


 浮上したキュキュルに続き、俺も潜水鐘から出ると水面に浮上する。

 皆の投げてくれたロープに掴まり、船上に引き上げてもらうと潜水服を脱ぐ。

 うん。脱ぐだけなら、なんとか自分一人でもできる。


 問題はキュキュルに引っ張られて行く間、潜水鐘ではロープにぶら下がって体を固定しているのだが、水の抵抗が大きいのでロープを握った手の握力が持たない。

 解決するために、潜水服の胴体部分にフックを取り付けてロープを引っ掛けることにした。

 泥縄的な対処策だが、今回の作戦の間だけ持てばいいということで妥協した。


 とりあえず実験は済んだので、キュキュルの縄も外して陸地に戻る。

 陸地では、ダンドとエルフの二人が夕食の準備と焚火の準備をして待っていてくれた。


「色々と不完全な部分もあるんだが、とりあえず作戦は可能だ。帝国軍に時間を与えず、こちらが主導権を取るためにも明日の朝、決行しよう」

「賛成じゃ、今は攻めるべき時。さあ、狼煙(のろし)を上げるんじゃ!」

「「はい!」」


 三箇所に用意された薪に、ダンドとエルフの二人が次々と火を付けていく。やがて立ち昇っていく三条の煙。これは予め決めてあった翌朝作戦実行の合図。

 こちら方面を監視しているの廃坑の見張り台から確認できるはずだ。



────────────



 翌日の丑三つ時、まだまだ日も昇らぬ時間から俺達はコルサド号で準備をしていた。

 ノエルの灯した魔法の灯りに照らされる潜水鐘。それはゆっくりと水中に沈められていく。

 キュキュルにはすでに牽引用のロープが巻かれており、ロープのフックに潜水鐘が吊るされる。


「よし、潜水鐘の準備完了だ。キュキュル行けるか?」

「キュキュ~」

「だいじょうぶだって~」

「よし、作戦開始だ!」

「「「おおー!」」」


 キュキュルと共に鉱山都市の港へ向かって出発する。

 ここからならさほど遠くない。船なら夜明け前には近づける。

 あいにくの横風だが、エルフの二人が交代で風魔法を使って船足を早めてくれている。


 俺もヘルメット以外の潜水服を装着し始める。

 潜水服の装着を終え、月明かりに照らされる水面と陸地を見ながら大体の距離を測る。

 ここでも俺の測定スキルが移動距離を教えてくる。地味ながら役に立つスキルだ。


「よし、ここで一度船を止める!」

「帆をたため。錨を降ろすぞい」

「キュキュル、とまって~」

「キュキュ~」


 俺の掛け声に答えてダンドが船を停泊する指示を出し、メルがキュキュルを止めてくれた。

 まだまだ見えないが、暗闇の水面のずっと先には帝国の船がいるはずだ。


「ここから潜水を始める。作戦通りに船はここで待機してくれ」

「短杖に灯りの魔法をかけたから、これを持っていってよ。ボクは成功を信じてるよ」

「そうじゃな。期待しとるぞ」

「トーマ、がんばれ~」

「トーマさん、気をつけてくださいね」

「無理はしないでくださいモ」

「「海の精霊の加護がありますように」」


 皆がぞれぞれの言葉で応援してくれる。

 俺は皆に向かってうなずくと潜水服のヘルメットをかぶる。

 帆柱に取り付けた横木を伝って、ロープで海面へと降下する。


 昨日の練習の成果か、スムーズに潜水鐘の中まで潜り込めた。

 ここで一旦ヘルメットは外して、天井から伸びるロープを潜水服のフックに引っ掛ける。昨日とは違い、これで両手は自由になるし体勢も安定した。


「準備完了だ。キュキュル、出発してくれ」

「キュキュ~」


 キュキュルは答えると水に潜り始めたようだ。やがて、潜水鐘がキュキュルに引かれて進んでいくのがわかる。

 敵船までの距離は遠くない。鐘内部の空気は十分に持つはずだ。


「キュキュル、船の近くに着いたら教えてくれ」

「ピィィ」


 キュキュルが謎の発声で答えてくれる。キュキュルなら賢いから大丈夫だろう。

 しかし、予想以上にキュキュルの水中移動速度が早い。

 潜水服の下半身部分は水の抵抗にさらされているから、この方式では長持ちしないだろうな。


 そうこうしているうちに、キュキュルはどんどん水中を進み、敵船の近くまで到達したようだ。


「ピピィ」

「到着したようだな」

「ピィィ」


 俺の測定スキルも港の近くであることを教えてくれている。

 ヘルメットをかぶると背中の空気タンクというか空気樽の弁を開く。

 これで潜水服内部の空気と合わせて、それなりの時間水中で行動できるはずだ。


 俺は覚悟を決めると、潜水服のフックにかけたロープを外して水中へと没していく。

 潜水服のフックに結んだ短杖の光だけがうっすらと照らす水中の先に、大きな船の船体が見えるような気がする。


 両手両足を掻いて水中を進むが、なかなか進むことができずにもどかしい。

 潜水服の重り(ウェイト)のせいで、動きが鈍重になっている気がする。俺は腰に下げた重りを一つずつ捨てていく。

 浮力が少しずつ増していく。あまり捨てすぎると浮かび上がってしまう。

 自由にならない水中での移動に苦労しながらも、黒い船体に取り付くことができた。


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