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3-21 水上の戦い2

「フフ~ン、フン、フン~♪」

「メルちゃんはゴキゲンですモ」

「キュキュルに会える~」


 鼻歌交じりで歩くメルはご機嫌だ。予想外に早いキュキュルとの再会だからなぁ。


「しかし、ダンドはこちらに参加しても良かったのか?」

「かまわん。他の戦士長達に任せれば問題ないからの。それに、いざという時には前衛がおらんと困るじゃろう」

「そうか。そんな状況にならないほうがいいけど、その時は頼むよ」

「うむ、任せておけ。ワシの勘ではこっちの方が良い戦いに恵まれそうじゃからな」


 なぜか、都市で戦士ドワーフの指揮を取るべきダンドもこっちの作戦に参加している。たしかに戦力比的には、前衛役が少ないチームなんだけどな。

 だけど余計なフラグを立てるのはやめてくれ。


「それとエルフの方々も、ご協力感謝します」

「いいえ。助けられたのは私どもの方でございます。しかもイズミ家の方まで戦っているのです。非力な私達ですが、お役に立つなら何でも言いつけてください」


 俺の言葉にエルフ女性達が答えるが、今回の作戦には救出したエルフの中から二人が参加してくれている。


「イズミの名は気にしないでください。あの時は皆を落ち着かせるために口にしただけなのですよ。今の私はアーヤです」


 アーヤはエルフ女性達に訂正している。やはりイズミ家の名前は元の公国民達には尊敬の対象のようだな。


「できるだけ危険には巻き込まないようにしますから。ミリシアさん、カローナさん」

「気にしないでください。私達もそれなりの覚悟で来ています。それと私達の事はミリシア、カローナと呼び捨てにしてください」


 彼女達は救出したエルフの中でも風と水の魔法が使える人物で、攻撃魔法として微妙なものの船の運行には役立つので参加してくれた。

 ちなみに他のエルフ達は魔力はあっても魔法使いではないので、休養が必要なもの以外は裏方の仕事を手伝ってくれている。

 彼女達も、ドワーフ達の反乱が成功しなければ奴隷に逆戻りだと理解しているので必死なのだろう。


 ともあれ、風魔法使いが増えることで船足は上がるし、夜目の効くダンドが船頭をしてくれれば夜間航行の安全性が上がる。

 水中に潜ると言っても、遥か遠くから近づくほどの長時間は無理だ。

 コルサド号である程度進んだ後で潜水して接近する。その後、俺が船の側に浮上して神粘土スキルで船に工作するのが今回の作戦。

 すべてを暗闇の中で迅速に行うことが必要だ。



────────────



 今回は地上を安全に移動できたので、早朝に出発した俺達は夕刻にはキュキュルと別れた上陸地点にたどり着けた。

 そして、あの時、岸に立てた竹竿に白い布を結びつける。


「キュキュル~! キュキュル~!」


 メルが大きな声で呼びかける。

 だが、キュキュルがすぐに気づいてくれるとは限らない。

 キュキュルと合流して作戦開始の見通しが立ったら、狼煙を上げて合図する手筈になっている。だから今日再会できなくても問題はないが、メルは早く会いたいだろうな。


 ブシュー! そんな俺達の想いに応えるように海上に水柱が立った。

 ああ、間違いない。あれはキュキュルがメルの呼びかけに応えたのだろう。


「キュキュル~!」

「キュキュ~キュキュ~」


 ひときわ大きくなったメルの叫びに応えるように、沖合から白波を蹴立てて向かってくる一角白鯨、キュキュルの姿が見えた。

 波打ち際まで寄ってこれないキュキュルのために、以前に作ったボートのフロートを出してやる。


「ありがと~トーマ」

「ああ、行っておいで」


 メルは水着に着替える間も惜しんでフロートに飛び乗り、パドルを使って沖に向かう。


「まったく、メルはしょうがないね。あんな格好で海に入るなんて」


 ノエルがメルの行動に呆れているが、まあ仕方がない。メルにとっては最高の友人みたいだからな。

 やがて、キュキュルのところにまでたどり着いたメルがキュキュルに抱きつくのが見える。


「キュ~、キュッキュウ~」

「あはは~、キュキュル~」


 メルがキュキュルの頭でボール遊びのように跳ね上げられている。


「すごいですね。一角白鯨があんなに人に慣れるなんて知りませんでした」

「海辺の民の中には、一角白鯨を聖獣として崇めている人もいるぐらい、めずらしい生き物なんですよ」


 ミリシアとカローナはキュキュルの種族について少しばかり知っていたみたいだ。

 たしかに、キュキュルの光る角と純白の体には神秘性があるから聖獣認定されるのも納得。

 現代の地球にいれば、間違いなく大人気でホエールウォッチングの対象になるだろう。


 そう考えるとキュキュルを潜水艦代わりに使おうとする俺が悪人のようでちょっと微妙だ。

 イヤイヤ、俺はキュキュルと共に悪に立ち向かうヒーロー。そう自分に言い聞かせる。

 作戦前にテンションを上げていかないとね。


「あの様子だとキュキュルとメルは、今日はずっとじゃれ合っていそうだね」


 ノエルが呆れたように言うが、もうじき日が暮れるし、野営の準備ぐらいしかできない。

 本格的な作戦準備は明日からだ。都市側でも昨日の今日で作戦開始されるとは思っていないだろうし、あちらでも戦いの準備には多少は時間が必要なはず。


「まあ、かまわんじゃろう。本当にトーマが溺れずに済むか、明日からしっかり検証せねばならんからな」


 ダンドが怖いことをいうが、たしかに不安がないといえば嘘になる。

 ただでさえ、潜水の事故は多いのに、原始的な潜水服で妨害工作を行うという無謀な作戦だからな。



────────────



 翌朝から潜水鐘(ダイビングベル)を使った潜水のテストを始める。

 潜水鐘の防水性能の確認は済んでいるが、実際に水中に沈めるのはこれが初めてだ。


 まずクラフト倉庫からコルサド号を出して浮かべると、帆柱に頑丈な横木を組み合わせて簡単なクレーンもどきにする。これで水上に出した潜水鐘を吊り下げるのだ。

 次にクラフト倉庫を開くと、穴から潜水鐘の先端についているロープだけを引き出して横木に結ぶ。

 この状態でクラフト倉庫から潜水鐘を取り出すと、潜水鐘は沈みだすので傾かないようにロープで調整しつつ、内部の空気を逃さぬようにゆっくりと沈める。

 やがて、ある程度沈むと釣り合いが取れて、沈むのが止まる。


「よし、試しに中に入ってみる」

「気をつけてくださいね。トーマさん」


 俺の宣言にアーヤが不安そうな表情で声をかけてくれた。


「うむ。溺れてもワシは助けられんからな」

「いや、そんなことを堂々と宣言されてもな」


 元々、カナヅチと思われるダンドには期待していないけど。

 俺は覚悟を決めて、大きく息を吸い込むと水に飛び込む。そして、その勢いのままに潜水して潜水鐘の中に浮かび上がる。


「ふぅ、どうやらきちんと空気が溜まっているし。バランスも保っているみたいだ」


 この状態でキュキュルに吊り下げられて移動するのだから、潜水鐘のバランスは大事だ。簡単にひっくり返ってもらっては困る。

 潜水鐘の四隅にさらに重りを吊り下げることで安定するようにする。

 重さが増した分は、クラフト倉庫を開き、収納していた空気を放出することで浮力を補う。


 クラフト倉庫を空気タンク代わりに利用するというのが、この潜水作成のポイントの一つだ。

 水が収納できたので、当然のように空気も収納できたが、他の人のアイテムボックスでも可能なのかわからん。

 クラフト倉庫からは重りも出せるので、浮力調整は問題ないわけだ。

 ともかく、これで潜水鐘自体の確認はできた。


 つぎはキュキュルと潜水鐘を連結して、実際に潜水できるか試す。

 キュキュルにはメルが説明してくれたが、本当に通じてるんだろうね?


「キュッキュッキュ~」

「まかせて~、だって~」


 最初にキュキュルの胴体にロープを巻いて、潜水鐘を吊り下げられるようにする。

 潜水鐘は水中に沈めてからキュキュルに巻いたロープと連結する。これは、いざという時は簡単に解けるようにしてある。たぶんキュキュルが暴れるだけでも振りほどいて潜水鐘を放棄できる。

 キュキュルをきつい拘束状態にしたくなかったので、これで良しとしてあるんだ。


 かなり不格好だが、この世界初の潜水艦キュキュル号だ。

 有名な某小説に出てくる潜水艦ノーチラス号はオウムガイのことだけど、この世界では潜水艦の代名詞はクジラになるかもしれないな。


 この状態でキュキュルにどれくらいの時間潜れるのか試してもらった。

 俺の感覚で一時間程度すぎても浮かんでこなかったので、水上から呼びかけてみる。


「おーい。キュキュルもういいぞー」

「メルがいってくる~」


 今日は水着に着替えているメルが水に飛び込んでいく。

 メルも最初は泳ぎが上手くなかったのに、キュキュルと遊んでいるうちに泳ぎの達人に成長している。


「ぷは~、あはははは~」

「なんだ?」


 潜ったメルは、しばらくすると浮かび上がって笑っている。


「キュキュルとにらめっこしてた~」


 メルが自分の両手で変顔をしてみせる。水中でキュキュルとにらめっこしてたらしい。


「キュキュ~、キュッキャッキャ~」


 続いてキュキュルが浮上してしてきたが、大口を開けて笑っているみたいだ。

 どうやら、まだまだ余裕だったらしい。さすがクジラの仲間だな。


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