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3-20 水上の戦い1

 まず、ドワーフ側には帝国の船とやりあえる水上戦力はない。これは認めよう。

 仮に港を狙える砦を奪還するにしても、相当な犠牲と時間がかかりそうだ。

 船を攻撃するには弩砲(バリスタ)を作り直す必要もあるだろう。


 ここは正面突破ではなく、ゲリラ的な戦法でどうにかする方がまだ可能性がありそうだ。

 この世界に来てからこっち、奇策で戦うことばかりだ。所詮、俺の能力は生産チートだからな。カッコよく正面突破なんてできないのだ。


 今回、俺が考えた奇策は水中からの攻撃だ。

 現代なら潜水艦による船舶攻撃は当たり前だが、この世界なら相当な奇襲になる。

 そしてそれを実現するのがキュキュルによる水中移動と潜水服。


 荒唐無稽な作戦に思えるかもしれないが、潜水服による船舶攻撃は16世紀の天才レオナルド・ダビンチなども発明していたぐらいだから十分実現性はあるはずだ。

 当時の技術と比較しても、俺には神粘土スキルがある。現代のスキューバダイビングスーツ程ではなくとも、短時間なら使用できる潜水服を作れるだろう。


「ダンド、防水用の素材は手に入らないか? 造船用とかであるだろう」

「船に使うなら瀝青(れきせい)じゃな。船の補修用にあるはずじゃが、そんなもの何に使うんじゃ?」

瀝青(れきせい)……アスファルトか。よし、これで水中に潜れるぞ」

「水中じゃと……。トーマよ、また何を考えとる?」

「あの船を沈める算段だよ。決まってるだろう」

「ハハハッ、また無茶苦茶なことをやるつもりじゃな。いいだろう、ワシはおヌシの策に乗るぞ」

「またとんでもないことを考えてるんだね。おもしろそうだ。もちろんボクも協力するよ」

「メルも手伝う~」

「私にも手伝わせてください」

「ウチもがんばりますモ」


 ダンドに続いて、ノエル、メル、アーヤ、シアが続く。


「ああ、みんなの協力が必要だ。みんなで帝国の船を沈めてやろう」

「「「おー!」」」


 さあ、皆の協力で潜水作戦を始めよう。



────────────



 まず必要なものは木材やタルなどの資材に、ダンドの言っていた瀝青(れきせい)だ。

 瀝青は古代のアスファルト、石油由来のドロドロした液体で防水や防腐、接着剤などに使用されてたものだ。

 この世界でも使われてもおかしくないと思っていたが、やっぱりあったな。


 水中を進むと入っても、まさか現代の潜水艦が作れるわけもない。

 キュキュルに乗って水中を進む間の呼吸を確保するための潜水服と空気タンクを作るのが目的だ。

 空気タンクも原始的な潜水鐘(ダイビングベル)方式だ。


 潜水鐘とは言ってしまえば、水中に沈めた鐘のようなもの。つまり底がなくて水中に開いた状態。風呂桶を逆さにして浴槽に沈めた状態をイメージすればわかりやすいだろう。

 この潜水鐘に入れば呼吸は確保できることになる。これをキュキュルに吊り下げて運んでもらえばいい。

 潜水鐘には俺一人が入ればいいからギリギリまで小さく作る。

 また潜水鐘とは別に、空気を詰めた樽を背中に背負うことで水中での短時間行動を可能にするつもりだ。


 潜水鐘の作成用に小さな倉庫を借りた。かなり異様なものを作るので目立ってしまうからな。

 俺は皆があちこちを駆け回って集めてきてくれた資材を使って、クラフトを始める。


 まずは、俺が乗り込む潜水鐘の制作だ。これは大型の樽を防水して使用することにする。

 樽はひっくり返して底の部分が天井になる。その表面には、木材を粘土化したものに瀝青を混ぜて防水した防水木質粘土とでも呼ぶべきものを塗っていく。

 防水木質粘土は瀝青の色で真っ黒なので、樽の外見は漆黒の樽のようになっていく。

 最後に水の抵抗を少なくするように表面を滑らかにしつつ、スキルで硬化していけば潜水鐘の完成だ。


 空気を入れて沈めたときにひっくり返らないように、内側の下部にはバラスト用の砂袋をいくつもぶら下げた。

 また潜水鐘と同様に、空気ボンベ代わりになる空気を入れた樽を防水する。こちらのポイントは空気を送るためのホースだが、これはシーサーペントの腸で代用した。

 一応、コルニア村で集めてもらったゴムも持っているが、量が多くないので代用品があるホースには使いたくない。


 潜水服は丈夫な帆布にゴム引きをして作るが、腕と足の部分だけだ。体の部分は樽を加工して作ることになる。

 つまり樽から手足が生えた、非常に不格好な昔のおもちゃのロボットのような姿になるわけだ。

 もちろん時間と資材があれば、もっとスタイリッシュかつエレガントなデザインにしたいのは山々だが、贅沢は言ってられん。

 このデザインにも利点はあって、不格好ながら胴体内部の空間が大きいので内部に空気を蓄えられる。


 ともかく、神粘土スキルを活用して樽を一部変形させながら、胴体部分を作り上げる。

 同様に小さな樽でヘルメット部分も作成するが、顔の部分は村で作った水晶玉を変形して水晶ガラス製にした。

 手足の部分は樽に穴を開けて接合してしまう。

 これを着る時は、樽の蓋を外した状態で乗り込むように着ることになる。たぶん一人では着れないだろう。

 蓋部分には頭を通す穴を開け、ヘルメットになる小樽を被せれば潜水服の装着完了だ。


「これで、水を通さないはずだが……」

「ふぉぉぉ~、かっくい~、アーヤもそう思うよね~」

「えーと、その……とにかくすごいと思います」

「たぶん……、すごいと思いますモ」

「ガァーハッハッハ! これはなんと不細工な代物よ! じゃが機能美というものを感じなくはないぞ。ガハハ」

「ボ、ボクは……ヒッヒッヒ」


 うん、普通に褒めてるのはメルだけだな。ノエルなんか笑いすぎて声が出なくなって、床を叩いているじゃないか。

 まあ、俺だって完成品を見て最初の感想は「ダセェ!」の一言だったからな。

 自分では見れないが、装着した姿は、大昔の特撮ロボットみたいになってるだろう。



────────────



 ともかく潜水のための装備を完成させた俺達は、これで帝国の船を無力化するための作戦を進めることができる。

 ここのノーム族の指揮官トールさんやドワーフ長老達や戦士長なども交えて、今後の行動計画を立てる。


 俺の潜水服姿を見た皆の反応は微妙な感じだったが、少なくとも大笑いされることはなかった。

 人質を救出した実績もあって、俺の作戦を信用してくれたようだ。


 今後の行動方針は次のように決めた。

 1.水中からの攻撃により敵船(とくに軍船)を無力化

 2.敵船の無力化を確認後に、砦をドワーフ達が攻略

 3.砦を奪還したら、船を攻撃できる投石機や弩砲(バリスタ)を復元して敵船を降伏に追い込む


 作戦の起点となる水中攻撃の開始は、キュキュルに再会した翌日の夜明け前と決めた。

 今回は地上を移動するので最短距離を進めば、一日で上陸地点まで戻れると考えている。


 その間、ドワーフ達は砦や船を攻略するための武器を準備するようだ。

 特に弩砲は一門、二門でも良いから欲しい。おそらく砦の弩砲は軍船にすべて移されていると思われるから。

 港を見下す位置にある砦だと、投石機では死角が多すぎで港内に入り込んだ船を狙えない。

 砦から撃ち下ろしで港内を狙える弩砲の存在はかなり重要だ。

 だが時間的に予備の部品でもあればいいが、なかったら厳しいかもしれない。


 また、手隙のドワーフ達は小舟の代わりに船に乗り込むため筏や浮き桟橋を作るらしい。

 最悪は空樽を抱えてでも敵船に向かう覚悟だと言っていた。

 ならばと、俺の作ったボートを見せて、同様のものを作ることを薦める。

 俺達は明日の朝出発の予定なので、今日は夜まで手伝うことができる。


 ドワーフ達はダンド同様にボートの加工方法に驚いていたが、そういうことならばと量産を決めた。

 もちろん量産にはドワーフも協力する。底板や側板(がわいた)がすでに用意されているのならば、かなり効率的に作業が進む。

 俺はドワーフ達によって用意された部材をクラフトスキルで加工して組み立てればいいだけだ。

 夜遅くまで頑張った結果、二〇艘のボートが完成した。一隻にギリギリ四人まで乗れるので、八〇人が乗れる計算だ。

 しかもドワーフ四人ならば担いで運べるので、作戦開始まで旧倉庫街に隠しておくことができる。


 こうしてできる限りの準備を進めた翌朝、俺達はキュキュルと合流すべく上陸地点へと出発した。


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