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3-17 覚悟

 隠れ家から地上に出た俺達の目に映ったのは、総督の館を包囲する怒れるドワーフ達の姿だった。


「クソ総督の館をつぶせ!」

「総督の首を晒してやれ!」


 占領下に置かれ、無理なミスリル鉱山開発に駆り出されていたドワーフ達の怒りは凄まじい。

 頑丈に作られた館だろうが、すでに投石などで壁や窓のあちこちが割れている。

 館の頑丈な扉はまだ破られていないが、大きな柱を運んできた男達がいるので、あれを破城槌代わりにして破るつもりだろう。


「僕らが手を出すこともなさそうだね」

「そうだな。下手に参加して帝国の関係者に間違われてしまうのもつまらんからな」


 交流のあったノーム族のノエルとメルは平気だろうが、人族の俺や牛角族のシアは帝国軍と間違われてしまう可能性がある。

 今はノエルやメルと一緒に行動しているから大丈夫だとは思うが、混乱した状況ではどうなるかわからん。


「ダンドさん達はどうしたんですかモ?」

「そういえばどこを襲撃しているんだろう。ここは一般人達が中心みたいだし」


 シアの疑問はもっともだな。ダンド達は鉱夫をさせられていた捕虜のドワーフ戦士を率いて戦う予定だったはず。

 ノエルが周囲の比較的冷静なドワーフに聞き込みをするとダンド達戦士の行き先がわかった。


 帝国軍の兵士達が大勢いる宿舎を襲撃に向かったらしい。

 なぜ帝国軍兵士が総督の館の救援に来ないのかわからないが、集結して体制を整えられる前に襲撃するつもりだろう。

 数はドワーフの方が多いがほとんどは一般人。正規の軍隊がまとまって反撃してきた場合、かなりの犠牲が出るかもしれない。

 だから帝国軍が混乱しているうちに各個撃破して降伏に追い込むという作戦になっていた。


 帝国兵の宿舎はドワーフ流の洞窟住居を嫌って、港に近い倉庫街を改修して利用しているそうなので、俺達もそちらへ向かう。

 宿舎へ向かう俺達が最後に見たのは、炎をあげる総督の館だった。



────────────



 宿舎街に到着すると、そこはすでに戦場になっていた。


「うおぉぉ! 帝国軍を倒せー!」

「ハンマーで頭をかち割ってやるぜ!」


 筋骨隆々としたドワーフ達がハンマーやツルハシを持って気勢を上げている。

 だが、総督の館での戦闘とは違い、無闇に突撃する人はいないようだ。

 なぜなら、正面の宿舎の間には木箱や木材などでバリケードが築かれている。

 バリケードの向こうで弓を構える兵士の姿が見えるからだ。


「皆、慌てるな! 無闇に突撃しては弓の餌食じゃぞ!」


 どうやらダンド達戦士長が血気にはやる仲間を抑えていたらしい。


「戦況はどうなんだ? ダンド」

「おお、トーマか。 帝国軍の指揮官にも、ちっとは頭の回るやつがおったようで、ワシらが来た時には防壁を築いておった」

「弓もあるし厄介だな」

「ああ、今、盾代わりになる木の板や家の扉を集めさせている。数が揃ったら突入するわい」


 反乱に参加した捕虜達は鉱山の道具しか持ってない。これじゃ、弓の良い的になってしまう。


「わかった。手を貸そう」

「良いのか?」


 ダンドが俺の目を見据えて言う。俺の迷いに気づいていたのか?

 人質の救出が目的だった救出作戦とは違い、今回は敵の兵士を殺傷する本物の戦争だ。しかも相手は一応は同族の人間だ。

 別に俺は人族ということにはこだわってないが、ダンドから見れば同族を敵として殺す覚悟を問うているのだろう。


「ここで反乱が失敗すれば、罪のない人達の血が多く流れるんだろう。俺には関係ないと見過ごしたら夢見がわるい」

「そうか。すまんな」


 反乱に失敗したら、さっき見た涙を流しながら逃げていく人質の姿が悪夢になりそうだ。


「そうですモ。怖くても戦わなくちゃいけないんですモ」

「メルもたたかう~」

「僕も普段の生活を取り戻すために戦うよ」


 皆もそれぞれの覚悟で戦うようだ。

 よし! そうとなれば、作戦を立てよう。


 まず、遠距離攻撃可能なノエルのバレットライフルがある。これなら射程と威力は弓以上だ。これで、できれば指揮官クラスを狙撃してほしい。

 さすがにメルに危険なことはさせられないので、煙幕団子を投げる役だ。これは敵の弓の狙いをつけづらくして、こちらの突撃を援護する効果を狙っている。

 俺のバレットガンは弓には若干射程が負けるので盾を構えて突撃に参加する。

 俺のクラフト倉庫には造船時の端材の木板とゴブリン戦の竹束があるので、それを盾代わりにしよう。


 さっそくクラフト倉庫から木板と竹束を出す。


「なるほど、竹の束で矢を防ぐのか。これは意外じゃな」

「ああ、見た目原始的なんだが低コストで実用に耐える優れものだ」


 実用性は戦国時代に証明済みだからな。これを横に持って突撃すれば数人はカバーできる。


「シアは大盾で後衛の二人を守ってくれ」

「わかりましたモ」


 敵兵もそれなりに数が多いし、乱戦になる危険もある。戦闘経験の少ないシアは二人の護衛が適任だ。

 ダンドにも煙幕を利用した突撃を説明すると、一も二もなく賛成された。


「現状ではこれ以上の方法はないじゃろう。帝国軍に集結する時間を与えたくないからの」

「他のドワーフ達にも木板と竹束を分配して作戦を説明してくれ」

「よかろう。まかせろ」


 やがてドワーフ達にも盾代わりの品が分配され、作戦が説明されたようだ。


「トーマ、準備はできたぞ」

「よし、では作戦開始だ! ノエル、メル頼むぞ」

「了解だよ。せいぜい偉そうな奴を狙うとしよう」

「メルにおまかせ~」


 ノエルは立てた木板の上にバレットライフルの銃身を乗せると慎重に狙いを定める。

 やがて弓兵の後ろにいる指揮官に狙いをつけた。


弾丸発射(バレットシュート)!」


 新たな呪句(スペルワード)と共にグリップに充填された魔力が銃身内で土魔法として発動する。そして土魔法が銃口内で石弾の代わりに鉛の弾を弾き飛ばす。

 ライフリングにより回転する鉛の弾は弾道をブレさせることなく指揮官の右肩に命中する。

 遠距離狙撃可能な『魔法銃』に改良されたバレットライフルの一撃で、指揮官は鮮血を振りまきながら回転して倒れる。

 死んではいないかもしれないが、かなり重篤な負傷者となっているのは確実。むしろ敵のお荷物になるだろう。


「ほ~い」


 ノエルの狙撃に続いてメルが煙幕団子を投げる。距離があるので帝国兵までは届かないが中間点ぐらいで地面に落ちて、煙幕を撒き散らす。


「いまだ! 突撃じゃあー!」

「「「うおぉぉぉ!」」」


 煙幕で弓の狙いが定まらないうちにと、ドワーフ達が木板や竹束を盾代わりにして突撃する。

 俺も負けじと木板を持って突撃する。時間がなかったが何とか握りだけはスキルで取り付けたので右手はフリーになっている。


「ウィンドブラスト!」


 敵の矢が飛んでくる中、敵兵との中間地点近くまで来た俺は、突風の風魔法で収まりかけていた煙幕の微粒子を、再度敵方向に拡散させる。

 ガン! ガン! 足を止めた俺の木板に矢が当たるが、復活させた煙幕のおかげなのか、続いて矢が当たることはない、。


「いそげ! いそげぇぇー!」

「「「おぉぉぉ!」」」


 この機を逃すまいとドワーフ達は全速力で走っている。

 ときおり、「ぐっ」とかの小さな呻きが聞こえるのは、運悪く矢があたった仲間だろう。

 竹束などで頭と体はカバーできていても、全身くまなくとはいかない。

 だが、ドワーフ達はその殆どが敵の防壁まで到着して、それを崩し始めた。


 ガン! ガン! ガシャン! ドワーフのハンマーやツルハシがにわか作りの防壁を崩している。

 しかし、防壁の向こうでは弓を構える兵士がいる。もうこの距離では煙幕もなくなっている。

 だが、この距離ならば俺のバレットガンも十分射程距離内。


弾丸発射(バレットシュート)!」


 今まさに弓を放たんとしていた兵士が弾丸を受けて倒れる。

 兵士が倒れる瞬間、俺の耳は確かに兵士の苦鳴を聞いた。

 俺が作った兵器が俺の手で人を傷つける――これは俺の罪だ。死ぬかもしれない兵士も自分の意志で侵略を選んだわけではないだろう。

 俺は頭を振って、一瞬の迷いを振り払う。考えるのも贖罪も後でいい。中途半端に迷うのだけはダメだ!


発射(シュート)!」


 短縮した呪句を唱え、ドワーフを狙う弓兵達にバレットガンを連射する。

 やがて、弾倉(マガジン)の十発を撃ち尽くす頃には、防壁は突破され、雄叫びを上げるドワーフ達が突入していった。


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