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3-12 救出作戦3:開始

 潜伏中だったドワーフやノーム達と合流して二日が過ぎた。

 この間に人質救出作戦で使う武器は順調に製作できている。

 ドワーフ用の近接武器は採掘作業用のツルハシやハンマーを改造した程度だが、ノーム用に中距離射撃武器のバレットランチャー改を量産した。


 他にも廃坑からかき集めた鉄を使って大楯を何枚か作って、盾部隊も構成している。

 牛角族のシアのように筋力はあっても、戦闘経験のない者はこちらのほうがいいだろう。

 それに救出した人質を連れて逃げる時に護衛役として必要だ。


 すでに救出作戦については、鉱山都市で強制労働中のドワーフ達のリーダー格には秘密裏に接触して連絡済み。

 人質救出成功と共に総決起して反乱を起こす予定だ。


 そして夕刻、いよいよ俺達は人質救出作戦を開始する。


 救出作戦に参加するメンバーの構成はダンド達ドワーフ戦士が六人、ドルトン殿を含む職人ドワーフが九人、メルの両親達ノーム族がメルとノエルを含めて十二人、人族の俺とアーヤ、牛角族のシア、これで全員である。

 作戦の概要は、人質の収容された地下倉庫まで近くの坑道跡から抜け穴を掘るというシンプルな力技だ。

 もちろん俺の神粘土スキルあっての作戦であるのは間違いない。

 ドワーフ戦士長のダンドのお墨付きが無ければ、能力を見た事が無い者達は作戦に反対しただろう。


 まず、都市地下の隔壁の外に出た俺達は、倉庫近くまで伸びる坑道へ向かう。

 途中に大きく回り道になる場所があり、しかも、そこは帝国の警備兵の居る場所近くだった。


 ちょうどいい。皆を安心させるためにも、ここで一度実演すべきだろう。


「回り道と警備兵を避けるための抜け穴を掘ろう。ここなら短い距離で隣の坑道だ」

「いや時間が掛かるじゃろう? それに音を出せば余計に見つからんか?」


 俺の提案にドルトン殿が否定的だが、これは見てもらわないとね。

 岩壁に両手をつき、神粘土スキルを発動する。

 岩壁に淡い光の波紋が走り、岩盤のある程度奥まで粘土化出来た事が、俺には理解できた。

 そのまま両手で柔らかく粘土化した岩盤をむしり取り、ドルトン殿に見せる。


「なっ! これは……、岩壁が粘土のようになるとは、信じられん」

「「「おお!」」」


 抑えた声ではあるが、ドワーフ達が驚愕の声を上げる。


「この状態ならば音を立てずにすばやく掘れるだろう。掘る方は専門家に任せてもいいか?」

「うむ、儂らドワーフに任せてくだされ。あっという間に掘り抜いて見せますじゃ」

「「「おう!」」」


 神粘土スキルで柔らかい粘土にした壁をドワーフ達はシャベルでさくさくと掘り進めてしまう。

 大勢で掘る必要はないので職人ドワーフ達に頑張ってもらうが、その間ダンド達戦士ドワーフやノーム達は周囲を油断無く警戒する。


 掘った粘土がドンドン積み上げられていくのでクラフト倉庫に収納する。


「なんと! それはアイテムボックスですかの?」

「そのようなスキルです。俺のスキルについては内緒でお願いします」

「わかりました。このヒゲに賭けて他言はせぬと約束しますじゃ」


 ヒゲの価値はよくわからないが、信用して良いだろう。

 とはいえ、大勢の目の前で使っているので完全な隠蔽は難しいかもなぁ。


 やがて、俺の感覚では数十分も経たないうちに隣の坑道への抜け道が掘りぬかれた。

 神粘土スキルは何度か使う事になったがMP的には全然余裕である。


 そして隣の坑道に抜けた俺達は、地下倉庫への再接近地点になる奥へと進む。


「皆止まれ。だいたいこの辺りが地下倉庫に一番近い場所になるはずじゃ」


 先頭を進んでいたダンドが手元の地図を見ながら告げる。

 俺の測定スキルでも坑道を進んだ距離を把握してるから、間違いないと理解できる。


「ああ、俺も同意見だ。ここから北北東方向の斜め下に掘り進めればいいはずだな。しんどいかもしれんが頼む」


 ここでも岩壁を粘土化して、ドワーフ達に掘ってもらう。


「おお! 女房と娘が待っているんだ。俺はどこまででも掘りぬいてやるぜ!」


 職人ドワーフの中には家族を人質にされている者がいたみたいだな。気合が入りまくってる。

 エルフ達が収容された倉庫も近くなので、途中から抜け穴は二方向に分岐させる必要がある。

 今度は距離もそれなりにあるので時間はかかるのだが、交代で掘り進めてもらおう。


「どちらの倉庫も近くなったら、一度掘るのを止めてくれ。二つの倉庫への抜け穴を同時に開通させたいからね」


 ドワーフ達はドンドン掘り進めて行く。俺は二つに分岐した穴、双方の粘土化と残土の収納で大忙しだ。


「ん? おかしいぞ?」

「どうしたんじゃ?」

「こんなところに穴があるぞ」


 ドワーフ達が予想外の場所で掘るのをやめたと思ったら、抜け穴の壁が崩れて別の地下通路に繋がったらしい。


「こんな地下通路、坑道地図には載っていないぞ」

「最近、掘られた穴なんじゃろうか?」


 予定外の地下通路の行き先を調べている時間はないな。


「残土で埋めて先を急ごう」


 俺の言葉にドワーフ達はうなずき、謎の地下通路を迂回して、元々進んでいた方向に掘り進めていく。

 俺は抜け穴と地下通路の間に開いた穴を収納した残土で埋めてしまう。地下通路側に残土が流れ込んで八割方埋まってしまったみたいだ。

 すまんが、必要な地下通路なら後で残土を処理して修復してほしい。


 そしてドワーフ達は休みなく掘り進み、やがてドワーフ側人質のいる倉庫近くまで掘り進んだ。


「いきなり壁を堀り抜くと騒ぎになるかもしれない。まずは小さな穴を開けて、中の人と話をするんだ。落ち着かせてから壁を破ろう」


 地下倉庫内には監視はいなくても扉の外にはいるだろうから、できるだけ静かに抜け出したい。

 いずれは人質の脱走がばれるだろうけど、それが遅い程こちらは安全になる。


 ドワーフ側人質にはダンド達ドワーフ勢半数とノーム族に任せて、エルフ側人質の方には残りのドワーフ半数、俺やアーヤ、ノエル、メル、シアが向かう。

 特にアーヤの存在は重要だ。もしも、アーヤの同胞ならば脱走する際にも安心できるだろう。

 もちろん、ドワーフ側倉庫の壁までは粘土化できているので、俺がいなくても平気だ。


 通路の分岐から双方の壁前の地点までは、伝令役を配置して人質解放の合図を伝える手筈になっている。

 そして、エルフ側も倉庫の壁近くまで掘り進んで、準備は完了した。


「よし、まずは小さな穴を開けて、内部の様子を確認しよう」


 掘り進めて薄くなっている壁をえぐりとる。もう粘土化済みなので手作業で問題ない。

 開いた小さな穴をのぞくと薄暗い倉庫内にうずまっている女の人と、横になっている子供の姿が見える。これは伝え聞いた話以上に消耗している。

 まずは穴から小さな小石を落として、こちらに意識を向けてもらう。


「え? あぁ、……ようやく助けが……」


 小石に気付いた女の人が倉庫の反対側の扉を見てから、周囲の女性にうなずいてみせる。

 周囲の女性も少しだけざわつくが、皆でうなづきあって子供達を静かに起こし始めた。

 最初に気付いた女性はそっと壁に近づくと、顔だけは扉のほうに向けたまま静かに語りかけてきた。


「魔力炉のドワーフさん達に聞いてます。助けに来てくれた方々ですよね?」

「はい。エルフの方々はここにいる人で全部ですか?」

「ありがとうございます。ここにいるのが全員です。今、子供達を起こしています。すぐにも脱走できるのでしょうか?」

「はい。他の場所でも人質を助けるので、一斉に逃げ出します」


 魔力炉のドワーフ達が伝達してくれたので話が早くて助かる。

 こちらは問題なく脱走開始できそうだ。伝令役に作戦開始を伝えてもらう。

 そして、俺も壁の穴を広げ始める。連絡が届けば向こうのドワーフ達もあっという間に穴を開けてしまうだろう。


「ミリシア、本当に大丈夫なのかしら?」

「カローナ、それはもう話し合ったでしょ。私達はこの方達を信じるしかないのよ」


 俺と話していたエルフ女性に話しかけてきた人がいる。どうやら不安を感じているようだ。

 だが、俺の脇で話を聞いていたアーヤが語りだす。


「我ら森と海の民、森は海を育て、海は森に恵みを与える」

「「! ゆえに我ら二つの民はひとつとなりて、この国を支えよう」」


 アーヤの句に続いて、二人のエルフ女性が驚いた様子ながらも唱和する。


「リドニア公国の建国演説の一節を知っているなんて、あなたは一体?」

「私はアヤナ・イズミ。イズミ家に連なる者です。どうか私達を信じてついてきて下さい」

「イズミ! イズミ家の方がなぜ、こんな場所に?」


 アーヤの本当の名前を知った彼女達は、慌ててひざまづき、恐縮したように問いかける。


「もう無くなった国の地位にこだわっても仕方ありません。それよりも今は子供達を守りましょう」

「はい。すぐに準備します」


 二人のエルフ女性は、すぐに周囲の仲間達に声をかけて準備を始めた。

 体力の落ちていそうな子供達にはドワーフ職人の仲間が肩を貸してくれるようだ。


 よし、気付かれないうちにさっさと逃げ出そう。

 だが、そんな俺の思いを裏切るかのようにドワーフ側の穴の方から、慌てた伝令役のノームが走ってくる。


「大変です。ドワーフ側の倉庫で脱走が発覚しました!」


 同時にこちらの倉庫の扉の向こうでも甲高い笛の音が響く。


「ドワーフ達の脱走だ! 警備兵の一から三班はドワーフ収容倉庫に向かえ!」


 扉の向こうから警備兵の声が聞こえる。

 まずい、こっちの脱走もすぐにばれてしまう。


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