3-11 救出作戦2:準備
検討の結果、俺とノエルはバレットランチャーの改良と量産を決めた。
まずは弾倉を作る事から始めよう。
俺は土を粘土化してバレットランチャーの模型を作る。
現在の形の物と弾倉を追加した物を何パターンか作成してみる。
これは弾倉を何処に入れるのが最適なのかを検討するためでもある。
弾の装填がスムーズに行く機構との兼ね合いもある。
拳銃ならグリップに弾倉が入るのが普通だけど、いきなり現代風の構造はハードルが高い。
ダンドの仲間の中に細工物に詳しいドワーフはいないかと相談したら、一人のドワーフを連れてきた。
「トーマよ。このクロトスは若いが細工物に関しては優秀な職人じゃ。きっと助けになるじゃろう」
「なんぞ、おらに用があるんじゃろか?」
「ありがとうダンド。クロトスさんには、この武器の改良に協力して欲しいんだ」
「おらのことはクロトスでええよ。だけども、これはなんとも変わった武器?じゃねぇ」
外見からはよく分からないのだが、クロトスは若いドワーフらしい。
百聞は一見にしかずだ。俺はバレットランチャーを発射してみせる。
「おお、これは石弓のように石を飛ばす武器だべか。弓の弦の代わりに土魔法で飛ばすんじゃね。石を真っ直ぐに飛ばすんによさそうじゃ」
「そうだよ。よく初見でそこまで分かったなぁ」
「おらも多少土魔法をつかえるからの。だども、これに使う石弾を作るのは手間が掛かりそうじゃ。一発ずつ丁寧に大きさを揃えて削りだすんじゃろ?」
うん、確かに優秀だな。バレットランチャーの利点と欠点を理解している。クラフトスキルなしで、石弾を削りだすなんてやってられない。
その場合は鉛の弾のように溶かした金属で作ったほうが早いだろう。
「ああ。石弾の作成方法は後で見せるけど簡単なんだ。それで相談に乗って欲しいのは石弾を込める仕組みの細工だ」
「なるほど、それでおらが呼ばれたんじゃね。ええとも、できるだけの事はやらせてもらいますだ」
さっそく、クロトスに粘土の模型を見せて装填方法を相談する。
こちらからもレバーによる機械的な装填など、元世界の方法も案として出してみた。
残念ながら映画や漫画程度の知識しかないので、詳しい説明を求められても答える事は出来なかったが。
ともかく弾倉からの装填機構についてはクロトスに任せて、俺は別方向の改良を進めることにした。
それは、金属弾丸とライフリングである。
ここでなら金属材料は手に入るし、ダンドのお陰で鋼のクラフトもできる。
弾丸を金属にして、銃身にライフリングという緩い螺旋の溝を掘れば弾は回転するようになり、直線的に安定して飛ぶ。
石弾ではライフリングに弾が食い込まないからな。
今までが火縄銃とすれば、このライフリングにより近代兵器のライフルになる。
バレットランチャーが狙撃可能になり、弓以上の遠距離武器となる可能性がある。
もちろん、そのためにはノエルの言うような魔道具化による改良も必要だろう。
最初にやるべきは銃身を鋼で作成して螺旋の溝を掘るライフリングの作業だ。
まず溝を掘るために切削工具が必要なので、それから作る必要がある。
これは銃身の円筒の内部を進むことで切るカッターの付いた棒のようなものだ。
次に神粘土スキルで柔らかくした銃身を用意して、ゆっくりと回転する円筒の内部を進み切れば溝の一本が完成する。
溝を一定間隔で五、六条掘ってやれば、そこを通る弾は溝に食い込み回転力が与えられるはず。
この螺旋の溝だが、ナットの溝のように何回転もしない。はっきりとは分からないが一回転も必要ないと思う。
この作業のポイントは精密な作業精度だろう。
何本も掘る溝が同じになるには、銃身の回転速度と切削工具を進める速さが完全に一定にならないといけない。
旋盤などの工作機械が無いので、手作業ながらも正確な工作を意識する事が大事だな。
練習用に普通の粘土で作った銃身に溝を切っていく。
なんどか失敗しながらも練習を続けていくと、ある時から突然思い通りの溝が切れるようになる。
溝同士の間隔も何処に切るべきか、正確に判別できるようになった。
まさに熟練の職人のように迷い無く精密な加工ができる。
念のためステータスを確認すると、クラフトスキルに精密加工スキル、測定スキルが派生していた。
バレットランチャーや船の製作で設計図を用いた精密な作業を行っていたのがスキルとして花開いたようだ。
誰がくれた能力か知らないが、この成長していくクラフトスキルや神粘土スキルこそが俺のチートだ。
戦闘能力なんかはオマケにすぎない。
新たに得たスキルを活用する事で、銃身にライフリングを施す事が出来た。
その効果を確かめるために、ライフリングのパターンを変えたものをいくつか用意してテストしよう。
同時に銃身の長さと弾丸の長さも再検討しなくちゃな。
さらに金属の弾丸も材質や形状を考える必要がある。
形状は普通の銃弾のようなドングリ型でいいとして、その材質が問題だ。
人間相手なら鉛の弾でいいが、魔物のいる世界では不安だ。
そこで、弾丸の芯に鋼の矢を埋め込んだ徹甲弾も試作する。これぐらいでなければ大型の魔物には不十分だろう。
どちらにしても発射薬の無いただの金属の弾丸だが、今は俺のスキルでしか作れない。
銃身と弾丸を試作できたところで、クロトスも弾倉の試作案を出してくれたので、こちらも試作して組み合わせてみる。
クロトスの提案してくれた弾倉は拳銃のようにグリップ部分に差し込むものではなく、ライフルなどように引金の前の部分に嵌め込むもの。
なるほど、弾倉にスリットを開ける事で残弾の確認がしやすいように工夫したのか。
弾倉には小さなツメと溝が刻まれ、本体に差し込んだ後で固定レバーを引く事で外れないようになる。
弾倉内部はバネで弾を銃身へ送り込むと同時に、銃身内部で軽く固定されるので下に向けても弾が銃身から零れ落ちない。
これなら今付いている引金という名の、実は弾丸ストッパーは無くてもいいな。
「よし! ともかく試射してみよう」
「そうだね。ボクにも試させてくれよ」
「おらも撃ってみたいだ」
「私も試したいな」
アーヤやクロトスだけでなく、トールさんも試射してみたいようだ。
他にも気になっているノーム族は多いみたいだけど、あんまり大勢でも困る。
いずれ使える人間には渡すつもりだから、それを待ってくれ。
「石弾!」
「石弾!」
「石弾!」
クロトスの設計した弾倉に石弾を詰めて三連射する。うん、期待通りの性能だ。
この弾倉は十発装填できるようになっているし、すぐに交換できるから便利になった。
引き換えに弾倉を差し込む部分だけ大型化してしまったが、直列に並べる必要が無くなった石弾の弾頭長を長く出来たので威力は上がっている。
「石弾!」
次にテストしたのは、金属弾とライフリングを施した銃身のタイプだ。
金属弾なのに、この呪句は違和感があるな。
こちらは直線の坑道の奥に設置した的を正確に打ち抜くことができた。
今までバレットランチャーよりも、かなり精度は上がっただろう。
金属弾にした事で威力も申し分ない。特に徹甲弾は岩を砕く威力を見せ、かなり期待できる。
しかも、このタイプはグリップを魔道具化することで銃身から土魔法発動用のスリットをなくしている。
魔法の発動地点を意識せずに狙撃に集中できるのと、魔力の集中もしやすくなっている。
魔道具化するために魔石と魔力伝達素材としてシーサーペントの骨を加工してグリップに採用している。
今は簡単な魔法陣しか使用してないので効果はこれだけだが、より大きな魔石と複雑な魔方陣を刻めば、高性能な魔法の杖のように特殊な効果を付加することもできるそうだ。
この成果から金属弾を使うバレットランチャーは二種類とすることにした。
俺には、接近戦から中距離までを狙う拳銃タイプのバレットガン。
ノエルには、中距離から遠距離を狙うライフルタイプのバレットライフル。
ちなみにバレットライフルって名前は、元世界では対物ライフルを意味してるけど、この世界では俺が先に名前を使ってしまった訳だ。
なお、ライフルタイプには肩当ても追加して本格的に狙撃可能な仕様にしてある。
ノエルが割りと狙撃手に向いてそうなんだよね。
試射は大成功で、その結果には満足したのだけど問題もあった。
実は金属弾タイプを打てるのが、俺とノエルだけだった。
他のメンバーは石弾タイプのバレットランチャーは撃てるが、金属弾タイプはまったく撃てないか、撃てても威力が落ちてしまった。
いきなり銃のような武器では魔法のイメージが十分にできてないようだ。
その点、今までのバレットランチャーは銃身のスリットから石弾が見える事もあって『石爆』の延長で理解できるらしい。
いずれ慣れれば使える者も出てくるかもしれないので、それを期待しよう。
そうなるまでは、今までのバレットランチャーに弾倉を追加したバレットランチャー改を量産することにした。