3-10 救出作戦1:計画
「うまいぞおぉぉ! なんだぁ、この肉はぁ!」
「おお、こんなに肉をいいのか!」
「うめっ、うめっ、うめっ!」
「おいしいですモ。おいしいですモ」
好きなだけ食ってくれ。おかわりもいいぞ。
俺の出したシーサーペントの焼肉にドワーフ達は大興奮だ。
コルニア村で仕入れた補給物資の中では肉の量は少なめだったので、結果的にシーサーペントはとても役に立っている。
そして、シアよ。食べすぎはお腹壊すからほどほどにね。
「うーむ、やはり酒はいいのぉ」
「久しぶりの酒だぁぁ! ひゃっはぁー!」
「うひひ、うひひ」
なんかヤバイ人がいるな。少量だけど村の発酵酒も貰ってきている。
補給物資としてはいらないと思ったんだけど、ダンドが絶対に必要だと強調していたんだ。
まあ、これで士気があがるなら安いもんだ。
「トーマ君、このシーサーペントは君達で倒したのか?」
「そ~だよ~。メル達とキュキュルでやっつけた~」
「話に出てきた一角白鯨か。それにしても危なくなかったのか、メル……」
「だいじょうぶ~」
「メルも頑張ったのね~」
父親のトールさんはシーサーペントとの戦いがあった事にかなり心配しているな。もう過ぎた話だし、その時メルが落水したことは黙っておこう。
それに対して、母親のセルカさんはずいぶんのんきというか楽天家だね。
「しかし、助かったよ。物資の調達には苦労していたんだ」
「ほんと~、お野菜も少なかったのよね~。アーヤさん、コルニア村の皆さんにもありがとうって伝えてね~」
「はい。村の皆もお役に立てて喜ぶと思います」
トールさんが言うには、食料などの物資は鉱山の落盤対策であちこちに設置してある待避所などからくすねたり、都市の協力者から秘密裏に横流しして貰っていたらしい。
とはいえ、ここには二十人を越える人がいるし、派手に横流しも出来ないので苦労したようだ。
穀物や野菜などの食料と物資はコルニア村で大量に収納してきているし、肉も大量に得る事ができたので、これで当面は問題ないだろう。
ドワーフの女性陣やノーム達も久しぶりの新鮮な食材には大喜びしている。
脱獄からこっち、かなり苦労していたみたいだし、今は再会を祝おうじゃないか。
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「――というわけで、人質を解放しないと、ドワーフ達は反乱を起こすこともできないんだ」
「儂のような年寄りならば見捨ててくれてかまわんが、子供達を見捨てる事はできん」
「たしかにそうですね」
トールさんの説明と古老ドルトン殿の言葉に俺も頷く。
本来は血の気の多い鉱山都市のドワーフが反乱を起こせないのも理解できる。子供の命を天秤に賭けた反乱なぞ出来るはずがない。
まったく帝国のやり口には反吐が出るな。
「魔力炉の魔力充填役として連れてこられたエルフ達はどんな様子なのでしょう」
「体力のない女子供ばかりだからね。仲間の情報によると子供達のなかには消耗して倒れているものもいるみたいだ」
「そんな……。かわいそうに」
「ほんとに帝国はひどい奴らですモ」
トールさんが魔力炉の仲間から得た情報によると、こちらも酷い環境のようだ。
「エルフ達も見捨てるわけにはいかないよな」
「トーマさん……。ありがとう」
「エルフの人もおともだち~」
コルニア村のエルフにもだいぶ世話になってるし、アーヤの同胞かも知れないんだ。
そういえば、メルと友達だったミラール君とかはハーフエルフだったな。
「どちらも女子供達は地下の採掘跡を利用した倉庫に監禁されています」
「坑道の奥なので逃げる道もないし、ワシらが攻めるのにも一本道でもたつけば、人質を害される訳か。くそったれ」
トールさんの説明にダンドは苦虫を噛み潰したような表情で唸る。
「鉱山都市の地下の地図はありますか?」
「それならば、こちらに」
トールさんの差し出す地図を念入りに確認する。
「ここ、この坑道は監禁場所の倉庫と割りと近いのでは?」
「近いようでも実際はかなり距離がありますよ。岩盤も固いですし、抜け穴を掘れば音で気付かれるでしょう」
トールさんが抜け穴を掘るつもりだと気付いたが否定的だね。まあ普通はそうだ。
「なるほど、トーマの力なら出来るのかい?」
「ああ、たぶんやれると思う。ゴブリンの洞窟を塞いだ時よりも数段強化されてるからな」
「トーマならできる~」
「そうですよ。トーマさん」
ノエルが俺の意図に気付いたみたいだ。メルとアーヤ、あの場に居た二人も同意している。
それに俺一人じゃない、ここには穴掘りの名人たるドワーフが何人もいる。
かならず人質を救出してみせるぞ。
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人質救出のため抜け穴を掘る作戦を提案したが、トールさんやドワーフの古老ドルトン殿は懐疑的だった。
だが、最終的にはノエルが保障した事とダンドが俺のスキルを見ている事から、なんとか信じてもらえたようだ。
次に考えなければいけないのは、戦いになった時の装備だ。
現状はドワーフ達が持っている武器は、ダンドも持っていたウォーハンマーだ。
実はこれ武器ではなくて、鉱山で使うツルハシらしい。
鉱山の待避所などに用意されているので、数も十分に揃ったそうだ。
片方は尖っていて、反対側はハンマーの形状をしているから武器として十分な性能があるし、何より使い慣れてるので問題ないとのこと。
さすがに鎧などはないが、俺達レジスタンスは隠密性優先なので不要と結論した。
問題はノーム達だ。
魔法が使えるノーム族は各自が自分に合った杖を持っていたのだが、帝国につかまった時に取り上げられたままだ。
さすがに在り処を調べて奪還する事は出来ないのだが、そうなると十名近いノームの戦力は落ちる。
そこで考えたのが、俺の作ったバレットランチャーを土魔法の使えるノーム達に使ってもらう事だ。
ノエルも使いこなしているし、何とかなるんじゃないか。
「なるほど。このバレットランチャーを皆に渡すんだね」
「ああ。これなら俺の持ってる素材で大量生産できる」
「うん。いいアイデアだと思うよ。欲を言えば改良して欲しい点もあるんだけどね」
「ん? 弾倉とかかな?」
弾の装填については、俺も改良したかった。現状の四発は少なすぎる。
幸い、ここにはドワーフの職人が多く居る。弾倉からの装填機構について相談してみよう。
「弾倉っていうのか。弾を詰める方法だね。それともう一つ、発射方法だけど改良の余地があると思うよ」
「ああ、原理的には石爆の魔法を利用してるからな」
「うん、土魔法で物体を飛ばすには、飛翔体と目標を同時に視界に納めるから狙いをつけにくい事があるね」
「それは俺も気付いていた。目標に集中できれば、もっと命中率を高く出来るんだ」
これは弓にたとえるなら、矢を撃つ時に目標を見ながら、片方の目で弦を引く手を同時に意識するようなもの。
バレットランチャーでは、きちんと構えれば、ほぼ一直線上になるからマシなんだけど、できれば目標だけに集中したい。
「なら、このバレットランチャーを魔道具化すればいいんだよ。『石弾』の魔法を発動させるのに特化した魔道具にね」
「……なるほど。銃でありながら、同時に魔法の杖であれば魔法の発動地点を意識しなくていいのか」
これは盲点だった。魔法を利用しているんだから、現代の銃を再現する事にばかりこだわらなくていいんだ。
これは銃ではなく、変わった形の魔法の杖という解釈だ。
実はバレットランチャーの強化には、火薬を使う方法も考えなくはなかったが、これには正直二の足を踏んでいた。
火薬と銃の普及は一般人が兵隊になり、やがて国家総力戦へとつながる血みどろの未来を生む可能性がある。
いずれ文明の進歩と共に火薬も一般化するだろうが、俺の手でその道を加速したくない。
しかし、バレットランチャーが魔力を必要とする限り、これを一般人が使う事はない。
現状では、俺にしか作り出せない武器なんだ。
よし、バレットランチャーを強力な武器として改良してやる。





