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3-07 地下通路

「増援のコボルトどもは隠し通路から出てきたようじゃな」


 隠し通路のある大岩を調べていたダンドが言う。


「なんだって? 鉱山都市が魔物に占拠されたのか?」

「そこまでではないじゃろう。活性化した迷宮の魔物どもが掘った穴と通路が繋がったのではないか?」

「活性化? 迷宮の魔物は島の南側でも穴を掘っていたな」

「やはりな。帝国の占領からこっち、迷宮の間引きが出来ておらん。島の地下の迷宮がドンドン活性化しておるじゃろう」


 なるほど、例のゴブリンの洞窟も帝国の侵略によって引き起こされたのか。ほんと、ろくな事しないな。


「そして溢れた魔物が外に出てくる訳か。これはボクらノーム族にとっても重大な問題だね」

「そうじゃな。オーガが従えていたコボルトは穴掘りが得意じゃからな。あちこちに出口をつくりよる」

「なるほど。ドワーフに似てるな」

「バ、バ、バッカモーーン! 無秩序に穴を掘り散らかすコボルトと一緒にするんじゃない! ドワーフ族への侮辱じゃぞ!」

「あ、ああ、すまん」


 ドワーフとコボルトを同一視するのはタブーのようだ。今後注意しよう。


「でも、どうしましょう。ここから入るんですよね」

「大丈夫ですかモ?」

「あな~まっくら~」


 アーヤとシアはコボルトが出てきた隠し通路に不安そうな表情を浮かべる。

 のんきなメルは無邪気に穴を覗き込んでいる。


「他の隠し通路は遠い。ここから進むしかないじゃろう。ついでに迷宮と繋がる穴を塞ぎたいが人手がたらんな」

「それは俺のスキルでなんとかしよう。数日ぐらいなら持つだろう」

「相変わらずデタラメなスキルじゃが、今は頼もしいの」


 たしかにクラフトスキルは便利だけど、戦闘ではイマイチ不安があるんだよな。

 今回の遭遇戦も結構ヤバかったしな。やはり俺のスキルでは準備が大事だ。


 だから隠し通路に入る前に念入りに準備する。

 まず、白眼のオーガやコボルトが消滅したときにドロップした魔石、棍モドキの鉄の棒、オーガの角、コボルトの爪などを収納する。

 さらに、周囲の大岩のなかで人の身長ほどもあるものを複数収納しておく。他にも岩や土砂を大量に収納する。

 クラフト倉庫の容量が心配だが、あっけなく収納できてしまう。

 船が完成したときにスキルアップしたし、シーサーペントや今のオーガ戦でレベルアップもした結果、容量がさらに増加しているようだ。

 シーサーペントが収納できなかったのは、あの時点では長さ的な制限で引っかかったのだろう。


 そして武器の準備も大事だ。

 消費したバレットランチャーの装弾に、地下通路での戦闘に備えて全員にゴーグルと布でマスクをしてもらう。

 ただ、ずっとマスクするのは息苦しいので、必要になるまではスカーフのように首に巻くようにした。


 地下通路は暗闇なので、暗視能力のあるドワーフのダンド以外は明かりが必要だ。

 ランプを取り出すとノエルから物言いが入る。


「ああ、明かりならボクが光魔法を使うよ」

「なんだ。光魔法使えるなら早く言ってくれよ」

「適正が低いから初級の魔法だけで、効率が悪いのさ」

「いやいや、さすがノーム族の頭脳担当だな。今度、俺にも教えてくれよ」

「なんでも習得してしまうトーマの方が言うと褒められている気がしないよ……」


「大地を巡る魔素(マナ)よ、我が身を巡れ。其は(そは)闇を照らす光球となりて我らを導け。灯り(ライト)」


 杖を構えたノエルが呪文を唱えると、杖の先に光の玉が灯る。

 かなり明るいな。すくなくともランプよりはずっと明るい。これなら戦闘になると壊れそうなランプは不要だ。

 代わりに松明(たいまつ)を取り出す。光源は複数あったほうがいいのと、場合によっては投げて奥を照らすこともできるからな。

 松明は陣形の中央で背も俺と同程度に高いシアに持ってもらう事にする。


 そして、さっきは予想外の遭遇戦なので出番のなかった鎧を取り出す。

 もちろん、ゴブリン戦で使用した竹鎧である。


「むう、その鎧か。ないよりはマシなんじゃが……」


 この竹鎧は上陸してから昨晩の野営中にダンドとシアの分を作っていたのだが、ダンドにはすこぶる評判が悪い。

 見た目にイマイチなのもあるが、職人としてのプライド的に妥協しまくりの防具は恥ずかしいらしい。

 とはいえ、いくらクラフトスキルがチートでも、材料も少ないのに鋼の鎧を短時間で作れる訳もない。


「なんだったら竹鎧にシーサーペントの皮でも貼り付けるとか。防御力上がるんじゃないか?」

「バカモン! そんな鎧に高級素材を無駄に使うなんぞ、余計に恥ずかしいわい」


 たくさんあっても、いい加減な使い方は許せないらしい。

 まあ、俺としても、あまりいいものにならないのは想像できたのでやらなかった訳だが。


「ウチはこれで十分ですモ」

「そうそう、ダンドも諦めて装備してくれよ。さっきの戦いでも兜があれば頬の傷は受けなかったろ」

「うむ、しかたないか」


 ダンドの兜はフルフェイスタイプで、眼から口にかけての部分にT字のスリットが入ったもの。ゴーグルとの接合にも気を使って作ってある。

 見た目はイマイチだが、コボルトの爪ぐらいなら数回は防いでくれたはずだ。

 俺も同じタイプの兜を作成して着けている。ゴブリン戦での和風兜はお蔵入りだな。

 ともかく、これで準備は出来た。


「さあ、いこ~」


 メルの号令で、俺達は大岩の根元に隠されていたはずの地下通路へと進む。



────────────



 地下通路とは言うものの、内部は岩を掘りぬいたままの坑道と大差ないものだった。

 壁や地面には凸凹が多く、歩きやすくはない。

 通路の幅も一人が剣を振るう程度の広さはあるが、槍などの長物は扱いにくい。俺も近接武器を短剣に変えてある。


 陣形はダンド、俺、ノエル、メル、アーヤ、シアの順だ。

 後方から敵に備えて盾役のシアを配置して、気をつけるように言ってある。

 ダンドは道案内と暗視能力から最前衛だ。俺が二番手なのはバレットランチャーで背後から援護できることもある。


 こうして俺達は一列に並んで地下通路を進んでいく。

 しかし、ゴーグルとマスクを装備した集団が地下を進む様子は、はたから見たらかなり異様だな。

 日本の夜道で会ったらテロリストとして通報されるかもしれない。


「その魔法の明かりは低く下げて歩くんじゃ。コボルト族も夜目は利くから目立つぞ」

「了解。ボクらノーム族も人族よりは夜目は利く方なんだけどね」


 ノエルはダンドの指示に従って、魔法の明かりを灯した杖の先を足元に向ける。

 まあ足元さえ照らされれば歩くのに支障はない。前方はダンドが、かなり先まで見通しているしな。

 最後尾のシアも腰ぐらいの高さまで松明を下ろしている。


 そのまましばらく地下通路を進んでいくが、通路は直線ではなく蛇行して進んでいる。

 突然ダンドが足を止めると、片手で背後の俺達に止まるような仕草をする。

 俺達が足を止めると、ダンドは一人で少し進んで止まる。姿勢を低くして前方を探っているようだ。


 やがてダンドは振り返ることなく、そのまま後ずさると俺の耳に口を寄せて(ささや)く。


「コボルトじゃ、数は三。その先に不自然な横穴がある」

「横穴?」

「最近掘られたものじゃろう。迷宮に繋がっているかもしれん」

「どうする、倒すか」

「もちろん退治するが、おそらく援軍を呼ぶじゃろう」

「援軍が来る前に奴らを倒す必要があるな」

「うむ。その後で横穴をお前さんのスキルで塞ぐのじゃな」

「ああ、任せてくれ」


 俺達は静かに後退すると皆と作戦を立てる。

 やがて全員が作戦を把握すると、武器を構えて、再び静かに前進していく。

 ノエルの杖には布を巻き、シアの松明は大楯の影に隠れるように持っているので、かなり暗い。

 うっすらと見えるダンドの背中だけが頼りだ。


 やがて、先頭のダンドの片手が上がる。

 そのまま通路の壁に身を寄せると、振り上げた片手を勢い良く振り下ろす。


 その合図で、ノエルは杖に巻いた布を剥ぎ取り、高く掲げる。

 同時に隊列を詰めていた最後尾のシアが進み出て、大楯に隠していた松明を前方に放り投げる。


「ウガ?」

「ウォン?」

「ウウウ、ウォォォン!」


 松明が通路の奥に落下するのと同時にコボルト達の喚き声が聞こえる。

 杖の明かりと投げた松明のお陰で、奥のコボルト三体の姿がなんとか確認できた。


 アーヤとメルが構えていた弓を放つ。

 他の者は弓の射線を塞がないように注意しつつ、前方に走る。


「うおぉぉ! これでもくらえぇ!」

「ウゴォッ」


 先頭を走るダンドのウォーハンマーがコボルトの一体に炸裂する。

 コボルトは腕を交差して受けようとしていたようだが、ウォーハンマーのハンマー側の打撃をもろに受けて吹き飛ぶ。

 腕の骨は折れたか、少なくともひびが入って使い物にならないだろう。


 叫びを上げていたとおぼしきコボルトは、アーヤとメルの弓の集中攻撃で倒されたようだ。

 俺は残りの一体に向けて、近距離から左手のバレットランチャーを叩き込む。


「ストーンバレット!」

「ウガッ」


 石弾はコボルトの腹に突き刺さり、その体勢を崩す。

 すかさず右手の短剣で脳天に斬撃を叩き込むと、コボルトは血しぶきを上げて倒れた。


 ダンドの方を確認すると、そちらも吹き飛んだコボルトに止めを刺していた。


「「「……ウォォォン、ウォォォン」」」


 だが、横穴の奥からコボルトとおぼしき叫びがいくつも聞こえる。


「奴らが来るぞ! 急ぐんじゃ!」

「ボクに任せて。みんな、ゴーグルとマスクは大丈夫だね」


 杖を掲げて洞窟の前後を警戒していたノエルが、腰に下げていた竹筒から催涙団子を取り出して横穴へと投擲する。

 催涙団子は、斜め下方向に延びた横穴の奥で天井に激突して炸裂する。

 暗くてはっきりとはしないが、炭の粉末とハバネロもどきの粉末が飛び散っているだろう。


「ウィンドブラスト!」


 さらに俺の風魔法が勢い良く穴の奥へと粉末を撒き散らす。逃げ場のない洞窟内でこれは効くはずだ。


「ウォォォン! ウォ、ウグァ、ガァッ、ガハッ」

「ゴバァッ、ガゲェッ」

「ウグフォッ、ブフォッ」


 よし、効いてるぞ。

 俺とダンドは横穴の少し奥に進み、やや狭くなった場所でクラフト倉庫の岩石をドンドン放出する。

 俺は必要量の岩石と土砂を放出し終えると、積み上がった岩石に『硬化』を施していく。


 積み上がっていく岩石の壁の向こうへ、ノエルはさらに催涙団子を放り込んでいる。

 それも『硬化』の合間に俺が風魔法で送り込んでやるので、コボルト達は手も足も出ないようだ。


 壁の隙間にはダンドが岩石を積み上げ、さらにシアが大楯を使って土砂を被せていく。

 そこに俺が念入りに『硬化』を施していくと、かなり厚く頑丈な壁が出来上がった。

 もう、壁の向こうのコボルト達のうめき声も聞こえない。


「なんちゅう無茶苦茶なスキルじゃ。これだけの硬度の壁を短時間で作りおるとは」

「これならコボルトが掘るにしても数日くらいは持つだろう?」

「そうじゃな。この壁を崩すより迂回したほうが早いぐらいじゃ」

「ボクらが潜伏した仲間と遭遇するまで持てば十分だよ。さあ早く進もう」


 ノエルの言葉で俺達は通路を警戒していたアーヤとメルに合流する。

 この先の鉱山都市周辺にメルの両親やドワーフ達が潜伏しているはず。

 早くメルを安心させてやろう。


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