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3-06 オーガ

 ノルグラスト帝国に占領された鉱山都市、そこに潜伏するノームとドワーフの仲間達。

 彼らを支援するためにやってきた俺達五人と、新たに増えた牛角族のシア。

 都合六人はドワーフ族のダンドの案内の下、鉱山都市への隠し通路の入口を目指していた。


 鉱山都市は、その大部分が山肌に掘られた多数の洞窟で構成される洞窟都市であり、複数の洞窟が内部でつながっている。

 もちろん港など地上の建物もあるが、生活に必要な部分は洞窟内で完結しているそうだ。

 洞窟は近くの鉱山などとも繋がっている為、数ヶ月以上地上に出てこないで地下生活する者もいるとダンドが教えてくれた。


 今向かっているのは、そういった鉱山都市から派生した洞窟の内の一つ。

 ほとんどは都市防衛のために入口は埋められているのだが、ごく一部だけ隠し通路として残されているらしい。


 ダンドもすべては把握していないが、戦士長としての立場から、そのいくつかを知っていた。

 最寄の隠し通路から鉱山都市へと侵入して、潜伏する仲間と合流するのが今の目的である。


 上陸してから二日目、今進んでいるのは岸から離れた高台の荒地で、周囲には岩がゴロゴロしている。

 どうも過去に火山の噴石が降り積もった場所のようだな。

 正面には鉱山都市のある山々があり、そのはずれにある小さな山の近くまで来た。


 山の麓の一角にある大岩の根元に、目的の隠し通路の入口があるらしい。

 だが、大岩の近くまで来た俺達の前に、やっかいなものが待ち構えていた。


 その身長はおよそ二メートル、あばただらけの黒いの肌と長い腕、毛むくじゃらの頭とその中央に生えるねじれた角、そして一切の黒目がない白眼(はくがん)の人型生物。

 迷宮の『はぐれ』魔物が大岩の周囲に二体もうろついていたのだ。


「なんと、やっかいな……。あれはオーガじゃぞ」

「強そうだな。ゴブリン何匹分ぐらいだ」

「ゴブリンごとき雑魚とは比較にならん。上位のホブゴブリンの二、三体で互角ぐらいじゃ」

「それはやっかいなんてもんじゃないな。避けられるか?」

「ダメじゃ。隠し通路に近すぎる。追ってこられたら最悪な事になるぞ」

「ここでやらないと危険が増す訳か」


 俺達は気付かれないように後退して、十分に離れた岩陰で作戦を練る。

 まずは戦う装備を確認する。


 ダンドは前衛として、ピッケルに似た形状のウォーハンマーを装備している。

 俺はダンドに鍛えてもらった鋼の槍とバレットランチャーを装備する。

 バレットランチャーはシーサーペント戦の経験から両腰に一丁ずつの計二丁を装備しているし、ノエルにも一丁を渡してある。


 シアにはホブゴブリンが使っていた大楯を渡してある。

 力はあるが戦闘経験のない彼女には、いざという時に後衛を守る盾役をやってもらう事にした。


「シアは戦うことに慣れてないだろうから、この盾で身を守る事に専念してくれ。君が盾で壁になってくれれば、後ろのみんなも不安なく攻撃できる」

「分かりましたモ」


 俺とダンドが前衛なので、彼女の出番は俺達が抜かれた場合のみとなるはずだ。

 盾と併用できる武器としてハンマーも渡したが、基本は身を守る事を優先でいい。


 アーヤ、メル、ノエルの三人は弓と魔法、そしてバレットランチャーでの後方支援である。

 女性陣は全員、煙幕団子と催涙団子を数個入れた竹筒を腰に下げている。

 もちろん全員にはゴーグルとマスク代わりの布を配布済みだ。


 ただし、今回は俺達から仕掛けるので催涙団子などは使わないつもりだ。

 あれは多数の敵をかく乱する場合の方が有効だろう。


 対するオーガの武器は棍のような長い棒である。

 どこで手に入れたのか分からないが、ゴブリンの骨製こん棒などとは違い、しっかりとした鉄製のように見えた。

 前衛の武器では俺の槍とリーチは互角だろう。


 まずは遠距離武器のある有利さを活かして、アーヤの弓で遠距離攻撃、中距離まで接近したところでメルの弓とノエルの魔法、そして俺のバレットランチャーによる射撃の後に前衛が戦いに入るというフォーメーションを決めた。


 俺とダンドの前衛陣は弓の射線を塞がないように左右に分かれて、姿勢を低くした状態で後衛陣より先行して進む。

 アーヤの弓の射程に到達するか、オーガに発見されるか、どちらかで戦闘開始だ。


 そろそろと進んでいくと、オーガの一体が不意にこちらを向く。


「ウガァ!」

「見つかったぞ! アーヤいけるか?」

「もう少しです!」


 叫びに反応して、もう一体のオーガもこっちを向く。


「ウゥゥゥ、ウガァァァァァ!」


 なにやら妙な叫びを上げるが、ゴブリンのようには突撃してこない。

 これは予想外だ。見つかった途端に向かってくるものだと思っていたが……。


「なにか変じゃぞ」

「しかたない。アーヤの弓の射程まで距離を詰めよう」

「はい」

「了解だよ」

「ういうい~」

「頑張りますモ」


 向かってこないなら仕方ない。弓で一方的に攻撃できる所までは距離は詰めないと。

 俺達はアーヤの弓が届くところまで小走りに進む。


「ここならいけます!」


 俺達を睨んだまま、棍を構えて動かないオーガ達が不気味だ。

 アーヤは弓を引き絞るとオーガへと撃ち放つ。


「ガァッ!」


 ガキン! 放たれたアーヤの矢はオーガの棍によって打ち払われる。


「なんて奴じゃ。一本だけじゃ通用せんか」

「おかしいぞ。なぜ向かってこない」


 その時、俺の疑問に答えるかのように獣の叫びが聞こえる。


「「「ウォォオーン!」」」


 大岩の影から三体の魔物が現れる。

 新たな魔物は犬の頭部に毛深い人型の肉体を持つ小柄な生物だった。


「おのれっ! あれはコボルトじゃ!」

「しまった! 増援を待っていたのか」


 コボルト三体の位置は俺達の斜め正面。

 奴らは先行していた前衛の俺達を迂回するように、後方の女性陣に向かう。

 同時にオーガ二体も俺達に向かって走り出す。


「ダンドはコボルトをやってくれ! 俺はオーガを押さえる」

「了解じゃ!」


 得物のリーチ的にもオーガの相手は俺がすべきだろう。


「弓はコボルトを狙ってくれ!」

「はい!」

「まかせて~」


 アーヤとメルに声をかける。

 コボルトは武器を持っていない。牙や爪で攻撃するのだろうが、オーガのように矢を打ち払えないだろう。


 この間にオーガ達は距離を詰めてきているが、逆に俺の射程だ。

 右手に握っていたバレットランチャーを構えて、数歩先行しているオーガに二発打ち込む。


「ストーンバレット!」

「ウガァッ!」


 二発目は外したようだが、初弾がオーガの肩に当たり、先行していたオーガは転倒する。

 どうだ、矢とは違って見切れない弾丸には対応できないだろ。


 さらに二体目のオーガにもバレットランチャーの残弾二発を撃つ。


「ストーンバレット!」

「ガッ!」


 驚いた事に二体目は棍を持ったまま両腕で頭部をかばいながら、姿勢を低くして向かってくる。

 今度は二発目のみが命中したが、腕を傷つけただけで転倒するまでは至っていない。

 連射すると二発目以降は無詠唱のために威力が少し落ちているんだ。


「こんちくしょう! 魔物のクセに根性据わってんな」


 俺はバレットランチャーを捨てると両手で槍を構える。もう接近戦の間合いだ。


 ガキン! 俺の突きをオーガが棍ではじく。

 続けて棍でなぎ払ってくるが、こちらも槍でいなす。

 さらに数合、棍と槍で打ち合うが、お互いにかすり傷を与えるだけで有効打はない。

 なんとか対応できているが、もう一体が起き上がってくるとヤバいぞ。


 横目でダンドの方を見てみると、ダンドもコボルト二体を相手にしている。

 なんと残り一体はシアが盾で地面に押さえつけている。

 押さえつけられたコボルトは矢を受けているようだ。


「ウガァァァ!」


 俺とオーガは槍と棍で組み合い、力比べになった。

 オーガの膂力は半端なく、押されかけるが、俺もレベルアップして力を増しているんだ。


「負けるかぁ!」


 何とか踏みとどまって気合とともに押し返す。

 だがオーガの肩越しに、転倒した方の一体が立ち上がって突撃してくるのが見えた。

 まずい、まずいぞ、これは。


石弾(ストーンバレット)!」


 その時、ノエルの呪句とともに放たれた石弾が突撃してくるオーガの頭に向かう。

 単発だが魔力を込めて狙いすまされたバレットランチャーの一撃は、オーガの脳天を貫く。


「ガッ……」

「ウガッ?」


 石弾に倒れるオーガに意識をとられた組み合った相手のオーガ。

 俺はその隙を見逃さず、奴の(すね)に蹴りを叩き込む。


「ウグッ」

「うおおっ!」


 体勢を崩したオーガに槍が突き刺さり、奴は動きを止めた。

 念のため二体のオーガに止めを刺し、ダンドの加勢に向かおうとするが、その時にはコボルト達もすべて倒れていた。


「みんな大丈夫か?」


 正面でコボルトと戦っていたダンドとシアが心配だ。


「ああ、これしきなんでもないわい」


 顔に二条の切り傷を受けたダンドが応える。出血もぬぐった後なのかほとんどないし、言葉通りのかすり傷のようだ。


「ウチも大丈夫ですモ」


 一体のコボルトを押さえ込んでいたシアが応える。

 複数の毒矢が打ちまれたコボルトを、大盾を使って動きを抑えこんだらしい。

 暴れるうちに毒矢が回って動けなくなったか。


 さらなる増援を警戒して周囲を見回すが、魔物が現れる気配はない。

 ギリギリだったような気もするが、なんとか無事に勝てたようだ。


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