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3-05 上陸

 翌日は早朝から南西の風が吹いていた。これなら今日は風待ちで待機しなくてもよさそうだ。

 今日の予定としては北上して、鉱山都市へつながる湾に進入する。

 そこからは東向きに鉱山都市へと進むのだが、他の船と遭遇する可能性もあるから慎重に進む必要がある。

 さらに、鉱山都市の港に入る訳には行かないから、適当な場所で上陸して陸路で近づく事になる。

 順調に行けば、今日の夕刻前には上陸できるはずだ。


 日の出少し前から、皆は出航の準備を進めている。

 近くで新鮮な湧き水も発見できたので、クラフト倉庫に大量に保存しておく。

 この後は食事の準備もしにくくなるので、携帯用の食事をまとめて作ったりしている。

 とは言っても、村から持ってきたパンに焼いた肉やソーセージ、茹で野菜などを挟んだものなどシンプルだ。

 クラフト倉庫に氷とともに保存すれば二、三日程度は持つだろう。


 シアも手伝っているが、旅の食事としては豪華な食事に驚きつつも喜んでいる。

 ガレー船の中では、かびた黒パンと臭い水、たまに豆のスープが出ればご馳走というレベルだったらしい。


「おいしいですモ。おいしいですモ」


 昨晩の食事もそうだったが、今朝も半泣きになりながら食事をモリモリ食べている。

 好きなだけ食べてくれて良いよ。シーサーペントの肉はまだまだ十メートル分以上残ってるし。


 シアの服は下着も含めて完成したので、今日は遭難者の面影はない。

 元々体力には自信があったようで、食事をとって一晩休んだだけで元気に動き回っている。


 実は、これにはシーサーペントの肉の効果もありそう。

 ノエルによると、強力な魔物の肉は滋養強壮の効果のあるものが多く高級肉でもあるらしい。

 内臓なども錬金術や薬の素材にされるものもあるそうで、割と貴重品だ。

 シーサーペントなど普通は逃げるべき相手なので、ほとんど退治される事はない。

 俺達はとても贅沢な食事をしてるのかもしれない。


「キュキュル~ おはよ~」

「キュッキュッキュッ~」


 メルが海に向かって呼びかけると沖からキュキュルの鳴き声が聞こえてくる。

 それを合図にするかのように、俺達は船に乗り込む。


「あのー、あれはいったいなんですモ?」

「あの子はキュキュル~ メルのともだち~」

「はぁ。ともだちですかモ……」


 船に乗り込んで沖に出た途端、近寄ってきたキュキュルにシアは目を白黒している。


「キュキュル~、あたらしいおともだち~、シアだよ~」

「キュキュキュ~」

「シアですモ。よろしくお願いしますモ」

「キュキュ~」

「よろしく~だって~」


 シアは律儀にキュキュルにも頭を下げて挨拶している。

 キュキュルも頭を下げるような仕草を返してる。


 さて、いい風だ。鉱山都市に向けて出航するか。



────────────



 出航してしばらく進むと、前方に内陸に向けて開けた湾が見えてくる。

 あそこから進路を東に進めば、鉱山都市近くまでいける。


「ここからは、他の船に注意しながら進むぞ」

「でも、この船の方が先に見つかるかもしれません。大きい船の方が遠くまで見えますから」


 さすがにアーヤは海洋国家の出身だけあって、水平線とかを理解してるのか。


「そうだな。見張りの高さが違うからこればっかりはなー」

「なら、メルが上から見張る~」


 メルがそう言うなり、ロープを体に巻いて帆柱をスルスルと登っていく。

 天辺付近で体に巻いたロープを帆柱に結びつけると周囲を見回し始めた。


「おーい、あぶないぞ~」

「へ~き、メルにおまかせ~」


 メルは周囲を見回しながらも、キュキュルに手を振ったりして余裕あるな。


「じゃあ、嬢ちゃんの頑張りに応えて、ワシらも出来る事をしようかの」

「そうですね」

「お手伝いしますモ」


 ダンド、アーヤ、シアはオールを用意して漕ぐ体勢をとろうとするが、それは止めておく。


「いや、今から漕ぎ始めて、いざという時に力がでなくても困るからやめとこう」

「トーマの言う通りだね。それにボクらの船が何者か知らないはずだから、捕まったりしなければ問題ないはずだよ」

「船を見かけたら早めに退避して、こっそり上陸する方針だな」


 ノエルの言う様に、他の船は俺達の素性を知らないはず。

 牢を脱走したダンド達が船で戻ってくるなど普通は考えないからな。


「よし、いざとなったらキュキュルも力を貸してくれ」

「キュキュ~」


 うむ、そのためにもエナジーチャージが必要だな。

 クラフト倉庫からシーサーペントの肉を取り出すと切り身にしてキュキュルに次々投げてやる。


「キュキュキュ~」


 キュキュルは肉を空中でキャッチして飲み込む。

 うん。これで元気百倍だ。



────────────



「ん~なにかみえる~」


 メルが北東方向を指差しながら声を上げてるが、帆柱の上にいるメルとは視点の高さが違うので見えない。


「どんなのだ、船か?」

「うーん、まだ遠い~。あっ、白い帆がちょっとみえた~」


 とりあえず、接触は避けたいので進路を南方向にとって退避する。

 この辺りでは風は西からなので横風になるから船足が落ちそうだ。


「ダンド、シア、左舷側のオールを頼む。俺は右舷側で漕ぐ」

「了解じゃ」

「まかせてくださいモ」

「ボクは舵を担当するよ」

「私も漕ぎます」

「アーヤは、しばらく風魔法で帆を押してくれ。横風で速度が出てない」


 アーヤが申し出るが、アーヤには短時間でも風魔法で押してもらうほうがいい。


「メル。あっちの船は見えるか?」

「うーんとね~、船のお尻がちょっと見えてきた~」


 よし、船尾をこちらに向けているなら急速に接近する事はないな。

 できれば気付かれる前に離れたい。


「キュキュキュ~」


 急な方向転換とアーヤの風魔法で、南に進みたいのを察したのか、頼まずともキュキュルが船尾を押し始めた。

 本当に賢いな。


「キュキュルありがとう。岸の近くまで頼む」

「キュキュル~がんばって~」

「キュキュ~」


 キュキュルの参加で船は南にグングン進んでいく。


「あ~、あっちの船見えなくなった~」

「そうか、あちらからは発見されてなければいいんだけどな」

「だけど湾が狭くなるから、またボクらと遭遇するはずだよ」


 ノエルの指摘はもっともだ。そろそろ船で進むのは止めたほうが良いかもしれない。


「しかたない。この辺りで上陸して徒歩で鉱山都市へ向かおう」

「そうじゃな。ここからならば山越えせずともいいはずじゃ。二日とかかるまい」


 岸に船を寄せて上陸する。ここで船はクラフト倉庫に収納してしまう。


「キュキュル、ここまでありがとう。助かったよ」

「キュキュル~ありがと~」

「キュキュキュ~」


 キュキュルにはお礼代わりにシーサーペントの切り身を、メルと二人で大量に投げてやる。

 カプッカプッカプッ、キュキュルは器用にキャッチする。


「ケプッ、キュキュ~」

「おなかいっぱいだって~」


 どうやら満足してくれたらしい。

 そしてキュキュルとは、ここで一旦お別れだ。


「キュキュル、ここに戻ってくるか判らないので元の海に戻ってくれ」

「キュゥゥ~」

「待ってるって~」


 うーん、この先どうなるか判らないから、待ちぼうけを食らわすことになるかも。

 なにか合図を用意するか。

 俺は長い竹竿を取り出すと岸に立てる。


「もし、俺達がここに戻ってきたら、この先に目立つ布を付ける。これなら沖からでも見えるだろ」

「キュキュ~」


「そうだな、十日だ。十日経っても戻らなかったら、元の海に戻るんだ」

「キュウ、キュゥゥ~」

「いくらでも待ってるって~」

「俺達は陸地を戻るかも知れないからダメだ。大丈夫、また会いに行くよ」

「会いに行く~」

「キュキュ~」


 なんとか納得してくれたらしい。

 全員が並び、キュキュルに手を振る。

 キュキュルはそれに応えるかのように、高く高くジャンプする。


「キュ~キュキュキュ~」


 皆はキュキュルのとの別れを惜しみつつ、鉱山都市に向けて陸路を進む。


 俺は生産チートを持つだけだから、どこまでメルの両親やドワーフ達の力になれるか分からない

 だけど、俺の出来る事を精一杯やるだけだ。


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