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1-04 ゴブリンとノーム

 一五〇センチもないだろう低い身長、あばただらけの灰色の肌、無毛の禿頭、長い腕、異様に釣りあがった細い目、眉毛も含めて体毛は一切見当たらない。

 腰にボロボロの皮を巻きつけた異様な風貌の人間……、いや、亜人と言うべきだろう。

 そんな生物が川原でウロウロしてるのを見つけた。


「ウワ……」

 驚きで小さなうめき声を発してしまったが、まだ距離もあるし、こちらは岩陰からのぞいているので気づかれてはいないようだ。

 あれはどうみても、第一村人発見!という感じじゃないなとバカなことを考えつつ、そろりそろりと退避をはじめる。


 グラ……ポチャン!

 踏んだ石が川に落ちて水音を立てる。逃げる事をあせって注意不足だったようだ。


「グァ……、ギィィ」


 こちらを振り返った亜人?が、その細い目を見開き、口角をあげ笑ったような表情でうなる。


「おわぁ!なんだあれ!」


 目を見開いた亜人の顔に戦慄する。

 なぜなら、その目の中には瞳孔や回りの虹彩がなく、白目のみしかなかった。


「ガァァ!」


 驚きで一瞬すくんだ俺に向かって、亜人は叫び声をあげて走ってくる。

 ここではじめて、亜人の手に白いこん棒のようなものが握られているのに気づく。

 慌ててこちらも手に持った石槍を構える。


 ガン!と亜人の振り上げたこん棒を槍で叩き落とすが、亜人はそのまま体当たりをしてくる。


「うわっ!」


 バランスを崩して倒れかけるが、体重差でなんとか持ちこたえる。

 さらに槍の石突の部分でなぎはらう。

 体勢を崩した亜人にすかさず蹴りを見舞う。

 地面に転がった亜人に槍の穂先を突きつけ脅しつける。


「おとなしくしろ!」


 亜人は四つん這いの状態でうなり声を上げているが、目前の槍の前では身動きできない。


「しかし、こいつはなんだ。どうすりゃいい?」


 迷った俺は、他に仲間がいないか心配になり、周囲を見回す。

 そんな俺の行動にスキを見出したのだろう。

 亜人は地面からこぶし大の石をすばやく拾い上げて投げつけてくる。

 だが、そんな膝立ちからの投石に勢いがあるはずもなく、かわすことに成功する。


「あぶねっ」


 俺が石をかわした隙に、亜人は腰のボロ布の中から小さな刃物のようなものを取り出し、再び体当たりしてくる。


「このっ!」


 なんとか槍を正面に向けて構えなおす。そのタイミングで突っ込んでくる亜人。


「グァァァ!」


 槍の穂先は、体当たりの勢いのままに亜人の胸に突き刺さる。

 そのまま地面に崩れ落ち、数度けいれんした後に絶命する。


「うう……、くそっ」


 ほぼ自滅とはいえ、人型の生き物を殺した事による不快感がこみ上げてくる。

 そんな俺の目の前で、亜人の身体が半透明になり消えて行く。

 後に残ったのは、腰のボロ布、そこから取り出した錆びたナイフ、弾き飛ばされた白いこん棒、そして豆粒大の半透明の石だけだった。


「消えた!なんだこりゃ!まるでファンタジーだろ!まさかあれってゴブリンとかいう奴か」


 こりゃ異世界の定番モンスター、ゴブリンを倒したっていうことなのか!

 そういえば、奴は死ぬ時にも血をあまり流していない。

 消滅した事といい、普通の生き物ではないのか?


 そんなことを考えつつ、亜人の残した半透明の石を拾い眺めてみる。


「ゲーム的に言えば、これがドロップアイテムなのかね」

 石はいびつな球形にうっすらと黒みがかった半透明の色合いで、サイズはパチンコ玉よりもやや小さい程度。

 たぶん消えた瞬間を目にしていなければ、その存在に気が付かなかっただろう。

 今のところ錆びたナイフの方が有用だけど、何に役立つかわからない。石や腰布も拾っておくか。ゲッ、こん棒は何かの骨じゃねえか。


「ほぇ~。ゴブリンやっつけた~」


 背後から聞こえる幼い声に慌てて振り返る。いつのまに現れたのか、そこには小さな子供が木の陰から覗いていた。子供はさっきのゴブリン?よりも小さく幼稚園児程度の年齢にみえる。髪は長めのボブカットでどうやら女の子のようだ。目がくりくりと大きく、やや丸顔の幼女はとても愛らしい。

 幼女は緑の三角帽子をかぶり、ふわっとした黄土色のワンピースのようなものを着ている。コートからはみ出した生足の先には、先端が弓なりに尖ったブーツを履いている。胸からは松ぼっくりのような木の実を二個、ポンポンのようにぶら下げている。もし衣装のすべてが赤かったら、クリスマスの妖精だ。ケーキの飾りにのっていそう。


「おにいさんはいいひと~」


 ニコニコ微笑む幼女はトテトテと歩み寄ってくる。


「君はだれ?どこかに大人の人はいないの?ここはあぶないよ」


 こんな危険な場所に幼女一人はありえないだろう。


「ついてくるの~」


 幼女は、俺の問いかけに一瞬首をひねるとそう答えて、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように森の奥へと入っていく。

 意外なすばしっこさに驚いて慌てて追いかけるが、さらに身体能力が上がっているようで楽々と追いかけることができる。

 やがて少女は大木の前に立つと、その幹をとんとんとリズミカルに叩く。すると何ということか、突然大木の幹に大きなウロが、口を開ける。

 幼女はこちらを振り返り手招きをするとその暗いウロの中に飛び込んでいく。


「マジか。不思議の国のアリスかよ」


 仕方なく俺も、大木の暗いウロの中に飛び込む。


「うわっ」


 一瞬の浮遊感──飛び込んだ先、そこは大木の中ではなく巨大な地下空間だった。

 天井には石化した木の根が複雑に絡み合い、その隙間からは糸に吊るされた繭状の発光体がいくつもぶら下がり、地上を照らしている。

 巨大なキノコのような形をした家が何軒も立っている。家の周りには、例のサルナシもどきの木が植えられている。

 童話の世界のような、幻想的な光景が広がっていた。

 振り返って、入ってきたウロを確認しようとするが、そこは石壁であり丸い魔法陣のような図形が描かれているだけだった。


 おや、キノコの家の中から小さな人がこっちを覗いている。どうやら警戒されているようだ。

 呆然としていると、小道の向こうから、ずいぶんと小柄な老人がやってきた。


「ほい、じいちゃん、渡り人のお兄さんを連れてきた~」

「ふむ、メルンや、見極めたか?」

「うん、だいじょーぶ~」


 老人の問いに幼女は答える。この老人、異常に背が低く、幼女とさほど差がない。小学生並みの身長だ。そして、ふさふさのあごひげは地面に付きそうな長さだ。まるで妖精だな。


「若いの、お主、自分の身に起きたこと覚えておるかな?」

「はい、雷に打たれて気を失って気づいたら、この森にいました」


 日本人には見えない彼と普通に言葉が通じる事に驚く。ともかく老人には丁寧に答えておくべきだろう。


「うむ、お主は渡り人。異世界より世界の狭間を超えて、この地に流れ着いた者じゃ」

「おお、やっぱり異世界転移きたー」


 思わず興奮して、大声を上げてしまう。


「こりゃ、しずかに話を聞かんかい。とにかく、おぬしは巨大な力に巻き込まれて世界の狭間に落ちた。世界の狭間の中で消えていく運命だったお主を、我らが英霊ポーロ様がこの世界へと救い上げてくださったのだ」

「ちょちょちょっと待って。俺は死にかけてた?」

「いんや、もっと悪いわい。魂の消滅。未来永劫輪廻の輪から消え失せてしまうということじゃ。じゃが、お前のように運よくこの世界に流れ着くものがいる。そういった人間を渡り人と呼ぶのじゃ」

「この世界に召喚されたっていうことですか?」

「違うぞい。召喚ちゅうのは人間どもがやる異世界からの人さらいじゃ。お主はポーロ様に救われて、力も分け与えてもらえたんじゃ」

「力ってあれ……。粘土を作る力のことでしょうか?」

「それだけではないじゃろう。わしらと普通に会話できとるじゃないか。他にも色々と加護を貰ってるんじゃないのか?」


 そういえば、身体能力は上がってるな。しかし加護といってもわからんよな。

 自分の身体を眺めて、首をひねる。


「わからんのか。ならば、魔力の流し方を教えてやろう。それで己を知れるはずじゃ」


 そう言いつつ、老人は左手の掌に、右手の拳を打ちつける。


「まずは両手を合わせる。心臓から魔力が両腕を流れて、円を描くように巡る様を思い浮かべるのじゃ」


 老人のように両手を合わせて、心臓からの力をイメージすると確かに何か温かいものが流れるような気がする。


「まずは魔力を知ることができたようじゃな。今度は手を額の両側につけ魔力を循環するのじゃ。そして目を閉じて心静かに己と向き合うのだ。さすれば、お前の世界の(ことわり)にて力を診る(みる)ことができるじゃろう」


 なるほど、頭に魔力を流すのか。

 目を閉じ、左右のこめかみに手を当てて魔力を巡らせるイメージをする。

 すると、しばらくして、まぶたの裏にゲームのステータス画面のようなものが浮かんでくる。


────────────

名前 : 鬼界 冬馬

種族 : 人族

状態 : 正常


Lv1

HP : 98 / 110 (100+10)

MP : 65 / 105 (100+5)


スキル

 言語理解 Lv3

 環境適応 Lv2

 身体強化 Lv1

 槍術 Lv1

 魔力操作 Lv1


継承スキル

 クラフト

  神粘土 Lv1

  分析 Lv1

  変形 Lv1

  加熱 Lv0

  倉庫 Lv0

  植物知識 Lv0

────────────


「おお!これが俺のステータス」

「おぬしのいう『すてぇたす』というものをワシらは知らん。力の見え方は人それぞれらしいからな」

「なるほど、だからゲーム風……。大丈夫です。俺の国の人間なら、これが理解できます。ありがとう、おじいさん」

「ワシはラルド。ノーム族の集落の長をまかされとる。こっちは孫娘のメルン」

「俺は鬼界冬馬(キカイ トーマ)です。冬馬トーマと呼んでください」

「トーマじゃな。もちっと詳しい話をしたい。付いて来とくれ」


 俺は生きていくために、彼らからもっと色々な事を教わる必要がありそうだ。


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