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3-04 新たな仲間

 牛系獣人のフリーシアが語ったエルフ達の境遇にアーヤがつぶやく。


「そんなことになっているなんて。これでは何のためにお爺様が投降したのか……」


 同胞の可能性が高いエルフ達の事は気になるだろう。この件も鉱山都市で確認しないとな。


「あ、あのウチも連れて行ってくださいモ。もう皆様にすがるしかないんですモ。なんでもしますモ」


 アーヤに気をとられて放置気味だったが、その間にフリーシアも心を決めたのか、同行を懇願してくる。


「そうだね。ここに置いていったりはしないよ。それに俺達も戦うと決まったわけでもないし」

「ワシは戦うぞ! 奴らを追い出すんじゃ!」

「メルもたたかう~」

「まったく……、見境なく飛び出すのはカンベンしておくれよ」


 気勢を上げるダンドとメルにノエルが苦言を呈している。


「おいおい、慎重に動いてくれよ。人質がいることを忘れないでな」

「む……、わかっておる」

「ほーい」


 頼むぞ、ホントに。


「ありがとうございますモ。力仕事は得意ですモ。何でも言いつけて欲しいモ」

「うん。頼りにしてるよ。危ない事はさせないつもりだから」


 力はありそうだけど、おっとりしたタイプの彼女に戦闘は無理だろう。


「いいえ、ウチはわかったモ。もう争いを避けてばかりでは帝国の奴らに食い物にされるばかりですモ。ウチはもう逃げませんモ」

「そうか。戦う覚悟をしたんだね」

「ですモ!」


 戦いには向かないような彼女だが、暴虐に立ち向かう覚悟をしたんだ。その決意は尊重しよう。


「ところで、フリーシアさんの服とかどうにかしませんか?」


 落ち着いたタイミングでアーヤが大事な事を言ってくれた。

 フリーシアの服はボロボロ、色んな所が見えそうでヤバいんだよ。


「ウチの事はシアと呼び捨てにしてくださいモ。見苦しい格好ですいませんモ」

「見苦しくはないけど、その服はもうボロボロだから着替えよう。用意するから、その間に食事でもどうぞ」


 シアには、スープ以外にも食事を勧めておく。回復魔法で傷は癒えているせいか、食欲はありそうだ。


 俺は焚き火の反対側に移動してアーヤを呼んで小声で話しかける。シアの服を見立ててもらうためだ。


「シアの服だけど、アーヤの服では着れそうもないよな?」

「はい。私の服では大きさがまったく足りそうもないです」


 そうだよな、サイズが違いすぎる。俺の目線は自然とアーヤの胸元へ下がっていくが……。


「……トーマさん」


 まずい、まずい。アーヤの声音に少しだけ険があるような気がするぞ。

 別に小さ目とか言ってないからね。


「あ、ああ、そうだな。仕方ないから上着は俺の予備でいいか。下はどうかな?」

「いえ、上下ともに無理かと。胸が違いすぎます」


 アーヤの見立てでは、俺と身長は近いが上下とも無理らしい。

 シアは大柄で胸も腰も出るとこは出てるから、男物では無理か。

 俺もこっちに着てからは、かなり筋肉も付いたが、俺の大胸筋とシアの豊かな果実では比較にならん。


 別にシアが太ってるとは思わないが、ふくよかで豊かな胸と合わせて母性を感じるタイプだ。

 なんとなく乳牛のホルスタイン種を連想してしまうのは仕方ないだろう。

 顔も童顔の丸顔なので、美女という感じではないが愛嬌があるし、保母さんとか似合いそう。

 顔を黒塗りにしたりしたとはいえ、これでよく男装が通用したもんだ。


 仕方ないので手持ちの布を、シアの体型に合わせてアーヤに裁断してもらおう。

 裁縫道具はあるが丁寧に縫う時間が惜しいので、俺のスキルで『接合』することにする。


 残念だが、俺が採寸役をするのは諦めた。

 手持ちの布、皮、はさみなどをアーヤに渡して任せる事にする。


 しばらくして、アーヤが裁断した布を持ってきてくれたので、本来は縫うはずの部分を『接合』して服に仕上げる。

 なぜか下着は含まれてなかったので聞くと、それだけは女性陣で頑張って縫うらしい。

 ふーん、まあいいけどね。

 別にサイズを確認したかった訳ではないよ。……いや、ほんとに。


「ありがとうございますモ。ウチにこんな立派な服を」


 シアは感激して、ぺこぺこと頭を下げている。


「本当はもっとかわいい服にしたかったんですが、時間がないのと船では動きやすくないと」

「ウチには、これで十分ですモ」

「いずれ、もう少しいい服を用意するから」


 シアはアーヤの言葉に遠慮しているけど、代えの服もいるし、どこかで調達しよう。

 今は動きやすさ優先でシンプルな服だからね。

 せめて水兵服のようなネクタイでもあると大分違うんだが。いや、水兵服というか、日本人的にはセーラー服がいい。

 女性陣には是非着て貰いたい。うん、夢がひろがるな。


「それと、その(かせ)は邪魔だろう。はずしてしまおう」


 シアの首と足首の鉄の枷に触れると粘土化して引きちぎる。


「モモッ! 鉄の枷を引きちぎるなんて、トーマ様は怪力のスキルでも持ってますかモ?」

「怪力じゃないけど、スキルのお陰だよ」

「凄いモ。牛角族一の豪力持ちでも外せそうもない枷だったのに」

「まあ、詳しい説明はいずれ追々とだな」


 スキルの話はあんまり広めたくないからね。


「トーマさん、大鍋に水を出してもらえませんか」

「うん、大鍋も水も持ってきてるけど何するの?」

「せっかく火を焚いているのでお湯を沸かしたいんです。久しぶりの陸地なので体を拭きたいなと思って。シアさんも漂流で体が冷えてるはずですし」

「ああ、そうか。気が付かなくてゴメン」

「何でもトーマさんに頼りきりで、すみません」


 うーむ、我ながら気が利かなかった。

 男は船上で水でも浴びれば良いだろうが、女性は湯で体も拭きたいだろう。潮風で髪が痛みそうだし。

 そういうことなら、いいものがある。


 船を建造したときの端材で、大きなタライを作ってあるんだ。

 獲物の解体にも使えるかと思って、木製で頑丈に作ってあり、竹の(たが)も嵌めてある。

 だいたい直径百二十センチ、深さ六十センチぐらいというところか。

 タライ舟にも使えそうなサイズなので十分浴槽代わりになる。

 ちなみにワンルームアパートのユニットバスなんて、これよりも狭いのあったんだぜ……。


「よーし、これを使おう」


 焚き火から離れた場所に、クラフト倉庫からタライを出す。

 タライはこっちの世界にもあるんだね。樽があるんだから当たり前か。

 樽から蓋が無ければ桶だし、浅い桶がタライみたいなもんだから。


 明かりも必要なのでオイルランプを出す。

 オイルランプは村にも数台存在してたので、手に入れたガラスを使って似たものを作った。

 灯油もイノシシの(ラード)から『抽出』して用意してある。


「洗い場代わりですか。用意が良いんですね。でも、お湯を沸かす鍋はどこに?」

「いや、これは浴槽にするんだよ」

「えっ、こんなに、お湯を沸かすの大変ですよ」

「そこは何とかなるから」


 クラフト倉庫からタライに水を注ぐと、右手をタライに入れ、クラフトスキルで『加熱』する。

 以前、ボート一杯の水を『冷却』したのに比べれば大した事はない。

 しばらくするとタライの水は、いい感じのお湯になった。


「すごい! こんな一杯のお湯が簡単に」


 地面にスノコを敷いてやる。これも獲物解体時に土で汚れないように用意していたものだ。

 さらに別の樽にも水を出してお湯にしておく。桶も必要だな。

 他にも手ぬぐいなど必要そうな物を出しておく。


「まずは女性陣からどうぞ」

「ありがとうございます。この島に来てから入浴なんて初めてです」


 アーヤがとても喜んでいる。元貴族の令嬢にはお湯で身を清めるだけの生活はきつかっただろう。

 アーヤの喜ぶ声に、他の皆も集まってきた。


「これは、お風呂かい。うれしいね」

「わ~い、お風呂ひさしぶり~」

「これが、お風呂ですかモ。ウチは初めて見ますモ」

「なんじゃ風呂か。樽が出てたので酒でもあるんかと思ったぞい」


 いや、そんな期待をするのはドワーフだけだろう。


「まずアーヤで、みんなも順番に入ってね」

「すいません。私が先で」

「小さいメルが次に入ると良いよ。体の大きさで、すまないけどシアはボクの後ね」

「とんでもないですモ。ウチなんかが、お風呂なんて。しかもトーマ様を差し置いてなんて」

「いいから気にせず、先に入ってくれよ。」


 そう声をかけて、俺とダンドはその場を離れ焚き火に向かう。

 どうもシアは俺をリーダー認定してるのか、やたら遠慮してるな。


 しばらくして、女性陣のキャッキャと騒ぐ声が聞こえてくる。

 こんな余裕も今日が最後で、明日は鉱山都市に近づくから十分英気を養って欲しい。


 たっぷり時間をかけて女性陣が入浴を終えると、今度は男達の番だ。


 ちなみにタライは俺には小さかった。

 体を湯に沈めるには足を外に出す羽目になったけど、ワンルームのユニットバスに浸かろうとした時よりマシだった……。

 あの時は浴槽から体が抜けなくなるかと思ったもんだ。

 とにかく、今度はでかい風呂桶を作っておく。ぜったいにだ!


「お先に風呂を使ったぞ。お湯はまた温めたからダンドも入れよ」

「ワシはええわい。体なぞ数ヶ月洗わんでも平気じゃわい」

「……」


 聞いてるこっちが、体痒くなるわ!

 俺は黙って樽のお湯をダンドにぶっかけて、タライに押し込んだのだった。


 さて、みんな風呂を堪能したようなので、シェルターまで戻って休む事にする。

 カマボコ型のシェルターを見たシアは怪訝(けげん)な表情をしていたが、特に何も言わなかった。


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