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3-02 航海

「キュウ、キュウ、キュウ」

「あはは~キュキュル~たか~い~」


 メルが水しぶきと共に空中に舞う。

 一角白鯨のキュキュルが、メルを頭で放り上げて喜びを表現しているんだろう。


 俺達の危機に駆けつけてくれたキュキュルのお陰でシーサーペントは倒すことできた。

 キュキュルの参戦後もしぶとく暴れていたが、俺のバレットランチャーに残った目も潰され、ダンドの石槍を何本もくらうとやっと動きを止めた。

 止めとばかりに銛を打ち込まれて息絶えた後、(むくろ)は船に係留されている。


「ふう、今回はヤバかったな」

「いやぁ、ボクはトーマといるといつもこんな目にあってる気がするよ」

「でも、凄いですよ。数人でシーサーペントを倒したんですから」

「ワシらよりも、あのクジラの手柄が大きいがな」


 アーヤは賞賛しているが、ダンドの言うとおりキュキュルの参戦が大きいな。

 キュキュルの水弾が動きを抑え込んでくれたお陰で、俺達の攻撃が決まった。

 もしも、シーサーペントの攻撃が船を襲っていたら、俺達も落水していたかも。


「ところで、あの大海蛇(シーサーペント)はどうするんじゃ? 結構なお宝じゃぞ」

「そうなのか? 食うのか?」

「もちろん肉も食えるが、それ以上に牙や皮が貴重な素材じゃ」

「シーサーペントの牙は『海蛇の(ほこ)』という有名な武具となって物語にも出てきました」

「その通りじゃ、皮だって良い防具の素材となるんじゃぞ」


 なるほど、ダンドやアーヤによるとかなりの価値があるみたいだ。

 しかし、海蛇ねぇ。蛇って牙が沢山生えていないよね。

 たしかに体長もキュキュルの倍ぐらい長いし、くねくねしてるから蛇の魔物にも見えるけど、俺的にはウツボ系の魔物説を押したいな。


「魔石だって相当なものを持っているはずだよ。ボクは頭と内臓を解剖して調べたいけどね」


 ウゲッ、狭い船の上で解剖するのはカンベンして欲しい。

 だけど、こんな大物を引きずっていくわけにもいかないし、クラフト倉庫に収納できるか?


 ともかく、クラフト倉庫への収納を試してみる。

 船上から水面までは手が届きにくいので、以前に倒したゴブリンの杖を取り出すと、杖の先で水面に円を描く。

 魔法の杖は魔法やスキルの発動地点を延長してくれるからだ。


 開いたクラフト倉庫の漆黒の空間に杖を触れさせたまま、その範囲を広げていく。

 漆黒の空間はシーサーペントの頭から胴体へと飲み込んでいくが、七割ぐらいを飲み込んだところで止まってしまう。

 うーん、おおよそ十メートルぐらいが今の限界のようだ。


「これは困ったな。胴体が長いから入りきらないぞ」

「そりゃ、こんな小船で狩る魔物じゃないからの。ならば頭と尻尾を切り落としたらどうじゃ?」

「しかたない。切り身にするか。おーい、キュキュルー!」


 俺達だけでは切るのにも苦労するのでキュキュルに手伝ってもらおう。


「キュキュ?」

「な~に~? とーま~」


 メルを頭に乗せたまま、キュキュルがやってくる。


「シーサーペントを切り分けたいから、まず頭を船に乗せるのを手伝ってくれないか」


「キュキュ~」

「りょ~かい~だって~」


 うん、俺もなんとなくキュキュル語がわかるようになってきたよ。


「オーエス、オーエス」

「そりゃぁ~、ひっぱれ~」

「オーエスって、なんだい?」

「オーエスです」


 俺の掛け声に合わせて、銛につないだロープを皆が引く。もっとも合っているのは力だけで、掛け声は合ってないけどな。


「お~えす、お~えす」

「キュッキュッキュ~」


 海側からはキュキュルがシーサーペントの頭を押している。メルは掛け声だけで役には立ってないな。


 ドーンと船の上にシーサーペントの頭が乗ると、それだけで船がぐぐっと沈み込むな。

 さっさと頭を切り落とそう。

 指先に神粘土スキルを発動して、切れ目部分をなぞって柔らかくする。

 ナイフでは長さが足りないので短剣で切断していくが、それでも一度では断ち切れないので数回繰り返す。


 なんとか頭部が切断できたのでクラフト倉庫に収納する。

 続いて尻尾も同様に船に乗せて切断する事が出来た。


「キュキュルありがとうな。尻尾切れたけど食うか?」

「キュキュキュッキュ、キュゥゥ~」

「大きいから~無理~だって~」


 確かに、シーサーペントのウツボのような歯と比べれば、キュキュルの歯は小さいな。

 小魚は丸呑みしてたし、川の魚はそこそこでかかったけど、ほとんど噛んでいなかった。

 よし、切り身にしてやるか、

 切断部分から肉をナイフで大きく切り取る。一キロぐらいはありそうだけど大丈夫だろ。


「ほい!」

「キュキュ~、キュムキュム」


 切り身をキュキュルに投げると、口を開けて上手にキャッチする。

 そして数回、口をモグモグさせると飲み込む。


「キュキュキュ~」


 うん、俺にもわかるぞ。まいう~ってな感じだろう。

 今回の功労者だからな。好きなだけ食ってくれ。


「ケプッ、キュキュ~」


 十回も繰り返すと、さすがにキュキュルも満足したようだ。

 じゃあ、残りは収納してしまうか。


 残りの尻尾や胴体も切り分けたお陰で、何とか収納する事が出来た。

 ノエルによると魔物の肉は残留魔素のせいで強い奴ほど腐りにくいそうなので、しばらくは持ってくれるだろう。



────────────



 キュキュルの合流によって航海は順調に進んでいる。


 メルはご機嫌でキュキュルに乗っているし、さらにキュキュルは船を押してくれたりもする。

 さすがに前回のボートとは違って大変だろうと無理をしないように言っているのだが。

 むしろ遅いのが待ちきれないのか?

 風向のせいで遅い時には後ろから押してくれる。


 この船はヨットとは違い、風上に斜めに切りあがって進む事が出来ない。

 向かい風なら島影で風待ちする予定だったけど、キュキュルが押してくれるなら予定よりも早く着きそうだ。


 もちろん休息は必要なので、夜は島影に碇を下ろして休んでいる。

 夜の海では暗礁にも気付けないし危険だからな。

 水や食料は十分に収納されているので上陸の必要もない。

 出航してから三日目の朝には航程の七割近くまで進んでいた。


 ダンド達が鉱山都市からノームの里に向かった時は、二十日近く掛かった事を思えば格段の早さである。

 ダンド達は未開ルートである事と出現する魔物に苦しめられたそうだ。

 本来、ノームの里と鉱山都市は山道ではあっても六日程度で着くらしい。


 この様子なら今日中には鉱山都市へと続く湾の中へ入れそうだ。

 そう思って進んでいたのだが、昼頃には風が強い向かい風に変わってきた。

 風の強さに帆は収納して島影に向かおうとするが、この周辺は一直線の浜になっていて船を退避できそうな場所が見当たらない。


「キュキュ~、キュッキュッキュ~」

「キュキュルが押すって~」


 うーん、風が強すぎるから無理はさせたくない。


「いや、無理して進むより上陸して船は収納してしまおう。キュキュルには、また頼る事もあるだろうから力は温存してくれ」

「キュキュ~」


 浅瀬の手前までキュキュルに押してもらうと、そこからはオールで船を寄せる。

 腰ぐらいの深さになったところで海に入ると、前に作ったボートを出す。

 他の皆を乗せるためだ。俺がぬれるのは仕方ない。


「いい心がけじゃ。若者は楽をしたらいかん」

「皆でぬれる必要ないからね」

「メルはキュキュルといっしょだったからぬれてる~」

「すいません。私達だけ……」


 ダンド、ノエル、メル、アーヤがボートに乗り込む。

 まあ、良い。実はダンドはカナヅチだと見ているからな。


 船を収納すると、ボートを押して海岸へ向かう。

 やがてボートは砂利交じりの砂浜へ乗り上げた。


「やはり揺れない地面は安心するのう」

「逆にボクはまだ揺れてるような気がするよ」

「トーマさん、ありがとうございます」


 俺も陸地が揺れる感じするな。


「キュキュル、ありがとね~」


 メルの声に合わせて、皆で手を振ると沖合いからキュキュルの声が返ってくる。


「キュキュキュ~」


 今夜はこの辺で体を休める事が出来るようにキャンプ地を探す。

 いい具合に風を避けられる木陰を見つけたので、前回同様にカマボコ型のシェルターをクラフトスキルで作り出す。


「まったく、なんというデタラメなスキルじゃ」

「ほんとにね。でも、ボクはもう驚かないよ」

「信じられない。こんな土壁が一瞬でできるなんて……」


 もはや、アーヤ以外はあきれたような感想だな。


「メルは貝掘りに行ってくる~」


 潮干狩りセットを持ったメルは砂浜へと駆けていった。

 俺はかまどでも作りますかね。


 だが、しばらくしてメルが息を切らせて帰ってきた。


「トーマ~、誰か死んでる~」


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