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2-18 改良

「この(ナタ)を打ったのはだれだぁ!」


 鍛冶場に置きっぱなしだった鉈を持ってヒゲモジャのおっさんが出てくる。

 どこぞの食通のような傍若無人な事を言ってるのは、里に一度戻ったノエルが連れて来たばかりのドワーフのおっさんだ。

 鉱山都市に戻るためにノームの里から付いて来たらしいが、村に着くなり鍛冶場に向かうあたりドワーフらしい。

 背は小さいながら、がっしりとした体型で体力はありそうだ。

 昨日、今日と村の間を急いで往復したノエルが疲労困憊しているのを尻目に元気一杯だからな。


「ああ、その鉈なら俺が昨日作ったものです」

「おぬしが?」


 おっさんドワーフの眼光が怖い。


「ええ、素人なんでドワーフの職人さんから見れば半端な物かも知れませんが……」

「いいから、ちょっとこい」


 おっさんドワーフに鍛冶場に連れ込まれる。


「この鉈に使っている鉄はどうやって手に入れた?」

「えーと、それはたしかー」


 俺の躊躇(ちゅうちょ)を見て取ったのか、おっさんドワーフは鉈の異常な点を指摘する。


「この鉈は不良品じゃ! 固い木を切れば刃がすぐにつぶれてしまう。(はがね)としての鍛え方が不十分なんじゃ」


 うん、その辺はある程度分かっていた。俺が作ったのは"鉄"で、"鋼"としては不十分なもの。

 クラフトスキルでは"鉄"を完全に『精錬』できている。

 しかし、作った事のない"鋼"はイメージが不完全なせいか、硬度の低い鋼のようなものになってしまっている。


「ドワーフならば不完全な鉄の鉈は打たん。じゃから人族がくず鉄を鉈に打ち直したのかと考えたのじゃが……」


 再び、おっさんドワーフの目が光る。


「違う、違うんじゃ! この刃の鉄はあまりにも高品質でくず鉄なんかではない。鉄としての品質は鉱山都市のものより上かもしれん」


 おお、"鉄"についてはドワーフのお墨付きを得たぞ。


「高品質な"鉄"で打たれた鉈というチグハグなものが、なぜこの村に? ここへの道中でノームの娘からは、ワシらの鉄製品を卸していた村と聞いたのじゃぞ」


 さて、どう答えたもんだろう? スキルの事を教えていいものか?

 鉱山都市への同行者ならスキルを隠し続ける事は不可能かもしれない。


「……しかたない。これを見てくれ」


 あきらめてスキルも見せてしまう事にする。ついでに口調も素に戻そう。

 鉄鉱石と炭を取り出すと目の前で『精錬』スキルを発動する。

 やがて、鈍く輝く鉄片が鉄鉱石の上に生み出されていくと、それを見つめるドワーフの目が丸くなる。


「……なんじゃと。炉もなく熱も加えず"鉄"が生まれるなど……。小僧、おぬし何者じゃ?」

「これは俺のスキルだ。それと俺もいい年した大人なんだ。小僧じゃなくてトーマだ。」

「ダンドじゃ。……このようなスキルがあるとは世界は広いな。やはり旅を続けるべきだったか」


 おっさんドワーフのダンドか。

 ちなみに世界回っても、俺みたいなスキル持ってるやつは、たぶんいないぞ。


「よし、おぬしの技を見せてもらったからには、ワシの技も見せてやろう。鉄の道具を全部出せ。鋼に鍛えなおしてやる!」


 自分の鍛治工房でもないのに自由だな。

 まあ、鋼を鍛える技には興味がある。是非とも、その技、盗ませてもらおう。



────────────



 ダンドによる鋼の鍛えなおしは、炭での加熱とハンマーでの叩きや焼入れなど、技の集大成であった。

 技術として盗もうと思えば、どれだけの修練が必要なのだろう。

 しかし、助手として手伝わされた結果、クラフトスキルの『練成』で"鋼"を鍛えられるようになった気がする。

 もし、ここで簡単に鋼を作って見せたら、ダンドがチートスキルの理不尽さに何をするか分からんので自制する。


 ともかく、ダンドのおかげで、鉈などの工具に加えて、以前作った短剣、槍、ナイフなども鋼鉄製になった。

 もちろん針金や釘など、鉄のままの方がいいものはそのままだ。


「やあ、さっそくダンドにつかまっていたんだね」


 全部作り終えた頃、鍛冶場へノエルが顔を出した。

 こいつ、この事態を予想していたな。


「鉱山都市に向かう道のりを検討したくてね。人族の持つ島の地図とノーム族の地図を照らし合わせてたんだ」

「ワシらの来た道ではいかんのか?」

「いや、それって山越えの道なき道をかき分けて来たって話でしょ。すごく時間掛かるし、まともに道案内できるの?」

「うーむ、少々あやしいかもしれん。じゃが昔からの細い山道は帝国軍が押さえとるぞ」


 ダンドの道案内は当てにならなそうだ。

 そもそもノエルの話では、鉱山都市から脱出したノームの数名とダンドがノームの里まで伝えに来るのも時間が掛かっているし、ずいぶん苦労もしたらしい。

 ともかく、二つの村の情報を集めた地図を眺めてルートを検討してみよう。


「鉱山都市は名前の通り山に囲まれた場所にあるんだな。そして西側の広い川が都市から海まで繋がっているわけか」

「それこそが鉱山都市の利点なのさ。鉄製品を輸出するのにとても便利だからね」

「今回は皮肉にも帝国兵を送り込むのに使われたわけじゃがな」


 ノエルが鉱山都市の利点を解説して、ダンドがその結果を自嘲する。


「ドワーフ達は都市の防衛を考えてなかったのか?」

「そんなわけあるかい。川を見下ろす砦には投石機(カタパルト)弩砲(バリスタ)が据えられて軍船を沈めるはずじゃった」

「けれど、帝国の船は見逃された訳だね」


 ノエルが的確につっこむ。


「やつらは卑怯にも交易船に兵士を隠してきたんじゃ。交易を開始するための贈り物と称した大量の酒樽の中に!」

「……ああ、なるほど」


 トロイの木馬的なエピソードなんだが、なんだろう、とても納得できるな。

 ドワーフ達が嬉々として酒樽を運び入れる姿が目に見えるようだ。

 まあ、鉱山都市陥落の経緯は置いておこう。


「メルはね~、こ~いくといいと思う~」


 いつの間にか、メルが鍛冶場に入ってきていたようで地図に指を這わす。


「なに言ってるんだ。このちっこい嬢ちゃんは? そりゃ海の上じゃねーか」

「嬢ちゃんじゃなくて、メルだよ。トーマのボートで海からいこ~」


 メルの指は、川を南下し島の西側の海を回って、鉱山都市の西側の湾を遡るルートを示していた。

 ボートの存在を知らないダンドが否定するが、意外に悪くないかも知れない。

 沖に出られるような船ではないが、海岸伝いに進む分には危険も少ないだろう。

 少なくとも道案内の不確かな山越えルートよりはマシだ。


「うん、意外に悪くないかも知れないな」

「そんな船があるのかい?」


 問いかけてくるノエルに頷いて見せると、鍛冶場の床に指で巨大な円を描いてクラフト倉庫を発動する。


「なんじゃあ、この黒い穴は?」

「俺のスキルでアイテムボックスみたいなもんだよ」

「何を馬鹿な事を。アイテムボックスでこんなデカイ穴が開くわけが……」


 ダンドは否定しているが、これはイノシシを倒した後に発見したクラフト倉庫の使い方だ。

 地面や水面に円を描くことでクラフト倉庫が開くから、自分の手で空中の穴に出し入れすることなく収納と取出しが出来る。

 これがなければ、竹林でイノシシを解体する羽目になっていたはず。

 このスキルもイノシシを出すときに一部の村人には見られているし、ダンドに隠す必要はないだろう。


「おお! 穴から小船が出てくるだと……」

「へぇ、これがトーマが作った"ボート"という船か」


 黒い穴の上に浮かび上がってきたボートを見て、ダンドは驚いているが、ノエルは慣れたもんだな。


「まったく、おぬしのスキルは驚かされてばかりじゃ。じゃが、この小船はずいぶんと妙な造りをしておるな」

「あいにく造船も素人でね。一応、俺の国の船に似せて作ったんだが」


 俺の言葉を聞いているのか、いないのか、ダンドはひたすらボートを触り、叩き、穴が開きそうなほどに見つめている。


「……この材料は竹か? なぜ、こんなに平らに滑らかにできる? どうやって接合しておる?」


 さすがにドワーフには、クラフトスキル製ボートの異常さを隠せないようだ。

 もう面倒だから全部教えてしまおうか。

 代わりにドワーフ技術の教えを乞うた方がスキルアップに有効だろう。



────────────



 俺のクラフトスキルについて説明した結果。


「そんなスキルは反則じゃあああ! 長年研鑽を積んできた職人たちに謝れぇぇ!」


 鍛冶場にダンドの魂の叫びが響き渡る。

 うん、俺もチート(ずる)だと思うけどね。


「まあまあ。別にトーマがインチキして手に入れたスキルじゃないんだし仕方ないよ」

「トーマ、スキルでみんな助けた~」


 ノエルとメルのフォローが素直に嬉しいな。


「……ふーむ、まあ、そうじゃな。ワシが間違っておった。いかなる神が与えたもうたのか知らんが、天恵(スキル)とは本人には選択の余地もないものじゃろう。その天恵で何を成すか、それこそが人の真価じゃな」

「納得してくれたようで助かる。それで本題だが、この船を改良したい」

「確かに、この船では、ちと小さいな」


 現状、鉱山都市に向かう人は、俺、ノエル、メル、ダンド、アーヤの五名なので定員オーバーだ。

 ここはひとつ、もっと大きく頑丈な船を作ろうじゃないか。



【鉱山都市への海路】

挿絵(By みてみん)


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