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2-17 備えは大切

石弾(ストーンバレット)!」


 弾丸発射機(バレットランチャー)から呪句(スペルワード)の詠唱と共に石弾が発射される。

 石弾は(あやま)たず、十メートル以上先の倒木を打ち砕く。


「よし! これは使えるぞ!」


 石弾は石爆(ストーンブラスト)よりも遥かに高速で、弾丸の軌道を眼で追うことも無理だ。

 石爆の呪文では無駄になっていた運動エネルギーが小さな石弾に込められた結果だろう。

 また、銃身によって弾の発射方向を制御できるので狙いも遥かにつけやすい。


 そして俺にとっては呪句(スペルワード)は魔力開放の掛け声に過ぎないので、バレットランチャーに合った呪句(スペルワード)に変えている。


 バレットランチャー用の石弾は神粘土スキルで作る必要があるので、まさに俺専用の武器だな。

 石弾は先に専用の型枠を作ってあり、そこに砂を流し込んで神粘土スキルを発動することで量産している。

 これは重量や形状を均一に作るための工夫だ。

 弾丸がバラバラな重さや長さでは命中精度が落ちてしまうからな。


 なお、石弾は銃身の上部装填口から斜めに差し込む必要があるので再装填はそれなりに時間が掛かる。

 今は時間もないので無理だが、この欠点はいずれ改良したいな。


 バレットランチャーはひとまず完成として同型をもう数丁製作するつもりだ。

 あとは鍛冶場で色々な工具を準備しよう。



────────────



「アハハハ~」

「まてーメルー」

「にげろー」


 鍛冶場に戻る途中、村の広場周辺では子供達の遊ぶ声が聞こえてくる。

 砂場だけでなく、追加で水鉄砲も人数分作ってやったからな。

 元気に村内を走り回っているようだ。


 しかし水鉄砲はいいが、メルにバレットランチャーを持たせるのはどうしたもんかな。

 俺の感傷に過ぎないのだろうが、幼女に銃に似た武器を持たせるのは気が進まないな。

 もちろん必要な状況になれば躊躇せずに渡すが……。


 結局のところ、俺以外の女子供が積極的に敵の前面に立つ状況を作りたくないんだ。

 彼女達用に、かく乱用の道具を用意しよう。


 かつて煙幕代わりに灰を詰めた泥団子を作って、ゴブリン達に使った事がある。

 今考えているのは、それを応用した催涙弾のようなもの。


 だが、それを作る前に欲しい素材があるんだが、さてどうしたものかな。

 ふと思いついて砂場に向かうと、予想通り男の子とメルは水鉄砲で遊んでいるが、女の子は砂場で遊んでいる。


 そこでクラフト倉庫から海で集めた砂利を取り出すと砂場のミンディとコルンに声を掛ける。


「ねぇ、君達。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」

「はーい。なんですか」

「なーにー」


 竹筒に山盛りの砂利を何本も取り出す。


「この砂利の中から、こういう透き通った石を探して欲しいんだ」

「はーい、でもこっちの青い石とか、もっと綺麗な石もあるみたいですよ」

「きれいないし~」


 摘み上げた透明に近い小石を見せながら言うと、ミンディはもっと綺麗な石の存在を教えてくれる。


「いや、俺が欲しいのは、できるだけ透明に近い石なんだ。綺麗な石は君達にあげるから頼めるかな」

「はい、お手伝いします」

「おてつだいする~」


 ミンディとコルンは良い返事をしてくれる。


「なになにー、なにしてるのー」

「おもしろいこと?」

「メルもやる~」


 興味をもったのか、男の子とメルも寄ってくる。


「この砂利から透明な石を探す手伝いを頼んでいたんだよ」

「へぇー兄ちゃんには色々貰ったからオイラ達も手伝うよ」

「うん、やるよー」

「メルだってお手伝いするよ~」


 最年長のヤッド、ハーフエルフのミラール、そしてメルまで探してくれるらしい。必要量がすぐ集まりそうだな。


「ありがとう助かるよ」


 実は報酬代わりに、砂利の中には綺麗な石をスキルでビー玉のように丸めた玉石を混ぜてある。

 仲良く分けて欲しい。


 俺は一人で鍛冶場に戻ると、コツコツ作成していた鉄片や針金を材料に鉄製の工具を作る事にする。

 (ナタ)(のこぎり)、ノミ、かんな、釘、金槌、(きり)、はさみ、針、曲尺(かねじゃく)墨壷(すみつぼ)など大工道具を中心に作成する。

 俺ならばスキルで可能な事も、人と協力して作業するには工具が必要だからな。


 どれだけ便利なスキルでも、人が一人で成し得る事には限界があるんだ。



────────────



 工具の作成を終えて外に出ると、ちょうど子供達も砂利の選別を終えていた。


「透明な石いっぱいあった~」


 メルが竹筒に一杯の小石を見せてくれる。


「きれいな石もいっぱい~」


 コルンちゃんが両手に一杯のカラフルな小石を見せてくれる。

 うん。スキルで丸めた玉石も見つけ出したみたいだ。


「まん丸で石じゃないみたい」


 ミンディちゃんは綺麗な玉石を摘み上げてニッコリしている。


「いいのを見つけたね。大事にするといいよ」

「はい、宝物にします」

「きれいな石はたからもの~」

「石もいいけど、オイラには宝といえば武器だな」

「水鉄砲もいい武器だよー」


 ミンディちゃんとコルンちゃんは女の子らしく玉石を宝物にするようだ。

 最年長のヤッド君は武器が欲しいのか。

 ハーフエルフのミラール君は水鉄砲で満足らしい。


 男の子には竹製の弓矢と竹刀でも作ってやろう。

 彼らもいずれは村を守り、狩りをするはずだからね。


「これだけあれば十分だよ。みんなありがとう」


 子供達にお礼を言って鍛冶場に戻る。

 この透明な小石はおそらく水晶や石英の欠片。これを材料にガラスを作りたいんだ。


 水晶の欠片を台の上に広げると神粘土スキルで粘土化して一つにまとめる、

 やはり多少は不純物も混じっているのか濁りがあるので、スキルで不純物を『抽出』する。

 抽出した不純物は水晶粘土の端に集まってきたので、その部分を取り除く。


 残った水晶粘土を小分けにして丸めて『硬化』すれば、数個の透明な水晶玉が完成だ

 別に水晶玉で占い師ごっこがしたいわけじゃなく、これはあくまでガラスの素材。


 ガラスを使って作りたいのは防塵ゴーグルだ。

 女性陣向けに催涙弾のようなアイテムを作りたいのだが、自分達をそれから守らなくては話にならない。


 まずレンズを作らなければならない。予備も含めて五本分、最低十枚のレンズを作ればいいだろう。

 水晶玉の一つを再び粘土化して、小分けにする。十数枚分のレンズを作るだけの分量になった。

 小分けにした水晶粘土の塊を平たく伸ばしてレンズ状に『変形』して『硬化』すればレンズは完成だ。


 ここでも地味に『設計』スキルは働いている。

 度のないレンズとはいえ、均一で歪みのないレンズの大量生産に脳内の設計図が有効だ。


 残った水晶粘土の塊は予備のレンズ二枚と大型の凸レンズ二枚に加工する。

 凸レンズは木製の枠をつけて、虫眼鏡の完成だ。一本は子供達にあげることにする。


 さて、ゴーグルのベルトとフレームの素材は何がいいだろう。

 ベルトは皮製でいいだろうが、厳密には革が必要だ。

 日本語では同じ読みだが、これは加工前と加工後の違いで、素材としての皮は硬化防止や腐敗防止のために革へと加工する必要がある。

 この加工を(なめ)すといって、現代では化学薬品などで処理されている。


 過去には、動物の脳や植物のタンニンなどで処理されていたらしい。

 イノシシの脳でも加工できるだろうか? 植物のタンニンはどの木からとれる?

 タンニンはお茶とかにも含まれていたよな。渋みとかがそれなのか。


 うーん、今は革は諦めて、皮の状態で使用する事にする。

 ただし、俺には神粘土スキルがあるので、皮も良く捏ねて成形すれば硬化するのを遅らせるのでないか。

 いずれ職人に革なめしの方法を教えてもらうか、試行錯誤してスキルを得られるようにしよう。


 フレームは木材でいいかと考えていたが、良い素材を思いついた。

 以前狩ったピラルクもどきのウロコが軽くて丈夫そうだ。

 このウロコ、普通の魚のウロコとは違い、甲殻と表現してもいいような質感なんだよね。

 これで文字通りの魚燐甲、スケイルアーマーとか作れそうだ。


 ウロコを何枚も取り出して粘土化する。形をフレーム状に成形してレンズをはめてから硬化する。

 うん、良い具合だ。重さや強度も問題ない。

 さっそく、フレームにスリットを開けて皮のベルトを通せばゴーグルの完成だ。

 ちなみにベルトのバックルにもウロコを粘土化して成形したものを採用している


 やっと準備が整った。

 これから作るものには、製作時にも注意が必要だからな。


 まず、炭を細かく砕いて袋に入れて、スキルで『粉砕』する。

 可能な限り細かくした炭の粉末は、空気中でよく拡散してくれるだろう。

 これをスキルで作った泥団子に入れてやれば、ゴブリンにも使った眼くらましの煙幕泥団子になる。

 前回よりもスキルが向上した分、良い出来に仕上がっていると思う。


 これに加えて今回作るのは、これを改良した催涙弾というか催涙団子。

 まず、作ったばかりのゴーグルを装着する。


 次に取り出すのは大量に集めたハバネロもどき。

 これを乾燥させて唐辛子粉末にして炭の粉に少量混ぜてやれば、敵は目を開けていられなくなるだろう。

 実際、熊対策用に唐辛子スプレーなども使われているぐらいだから効果は保証付きだ。


 煙幕団子と催涙団子の両方を大量に作成する。

 これで、敵を殺すことなく無力化できるぞ。


 だが目の保護に気がついてゴーグルを作ったのは良かったが、鼻の保護を忘れていた。

 鼻がムズムズし始めてから慌てて鼻と口を覆うように布を巻いたが、時既に遅し。

 製作中に漏れた唐辛子の粉は鼻の粘膜を侵していた。


 俺は盛大にくしゃみ、鼻水、涙を流して、新兵器の犠牲者一号になるのであった。


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