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2-16 新たな力

 俺の作ったヴィーナス像(アーヤ)がメルによって公開されてしまったことで、場がおかしな雰囲気になりかけた。

 さらに海の女神の生誕像と聞いた重鎮の皆が村の守り神として祭ろうと言い出すし。

 元々の国が海洋国家であったためか、実際に海の女神は信仰の対象の一つになっているそうだ。


 さすがに恥ずかしがったアーヤが必死に止めたので諦めてくれた。


「じゃあ、これはアーヤにあげる~」


 メルが像をアーヤにあげるというが、さすがにこの状況で像を俺の懐には戻せないから仕方ない。


「ええっそんな、いいんでしょうか?」

「それじゃあ、アーヤはトーマが持っていたほうがいいかな?」


 遠慮するアーヤにノエルが問いかけるが、その言い方はずるいだろう。


「え、えーと、では私が預かるという事で……」


 まあ、それが無難だろう。

 それに、もっと大事な話があるんだよ。


「――という状況がノームの里に戻った者から伝えられました」


 先程までとは打って変わった固い口調で、ノエルが帰還者達の報告を説明する。


 帝国による鉱山都市への侵略から端を発した現在の状況は、ここにいる全員にとって良くない。

 占領からミスリル増産のために強制労働と、そのための人質の女子供。

 さらに交渉に向かったノーム族までも人質に捕らえられた。


 唯一の救いは捕らえられたノーム族が牢にいた少数のドワーフと共に脱走できたことか。

 今回の帰還者は状況を伝えるためにドワーフ一名を含めた半数の軽傷者だけがノームの里に戻ったらしい。

 他のメンバーは重傷者の治療と監視のため残ったそうだ。

 そこにはメルの両親も含まれているが無事というのが不幸中の幸いといったところ。


 メルは黙って聞いているが、その目に涙が溜まっているのはわかるよ。


「メル、助けに行く!」


 メルがうるうるさせていた目を拭って、はっきりと宣言する。


「ご両親はメルには里で待って欲しいと考えているとボクは思うけど」


 ノエルがやさしくメルを(さと)す。


「メル、行く!」

「……そう。わかったよ」


 メルの強い決意にノエルも反論はしない。


「ボクも何とか長老を説得して一緒に行こうと思う。別に戦いになると決まったわけでもないしね」

「じゃあ色々と準備を始めないとな」


 ノエルと俺の言葉に表情を明るくさせたメルが見上げる。


「いいのかい? 人族の大国と敵対関係になるかもしれないよ」

「俺の国には『義を見てせざるは勇無きなり』って言葉があってね」


 ノエルも俺に忠告してくれるが、いまさらの話だろう。

 困っている友人を見捨てて、大国にすり寄るようなマネはできない。

 一度は死んでいたかも知れない命だ。思い通りに使うのも悪くない。


 気になるのは話を聞いた村の人々がどうするか?

 今のところ、この村に直接的な被害はない。

 もちろん間接的にはノーム族の鉱山都市との交易が止まった事で影響は受けているが。

 しかし、彼らの過去を知れば、この村が今後安全だとは思えない。


 別にノーム族としては、コルニア村に行動を促してはいない。

 やぶへびになる可能性もあるだろうし、この村の戦力では自衛だってギリギリだ。


 村の重鎮三人は黙して語らない。それぞれ考え込んでいるようだ。

 先日は鉱山都市への偵察を提案していたエルフのソリュードさんも今回は語らない。

 ノエルの話で状況はある程度分かったし、無理に同行する必要はないだろう。


「お願いです。私も連れて行ってください」


 考え込んでいたアーヤが顔を上げると迷いのない口調で告げる。


「ア、アヤナ様、そんな無茶な……」

「お嬢様が行かれるぐらいなら、(それがし)こそが行くべきでしょうぞ!」

「危険すぎる。偵察には我が行く」


 当然ながら村長イサロイ、騎士ヤーゴル、魔術師ソリュードの三名は止めるが、アーヤは宣言するかのように続ける。


「私達は先日のゴブリン騒動の時や、それ以前からノーム族に助けられています。そしてトーマさんにも先日来よりずっと助けてもらってばかりです。なのに自分達の都合だけで引きこもり続けるのは間違っています。この島の友人として、また盟友として共に行動すべきなのではないでしょうか」

「ならば、他の者を、その任に当てましょう」


 アーヤの言葉にイサロイさんが提案する。


「いいえ、今ここにいる村の者や戦士の方々は村の守りのために引き抜けません。私ならば抜けても戦力に影響はありませんし、気心も知れています。正直、足手まといとも思いますが、私はただ血筋のみで『姫様』と呼ばれるのではなく、相応の責任を担いたいのです」

「姫様、なんと立派な、御志(おこころざし)……」


 騎士ヤーゴルさんが涙を流して感動している。正直暑苦しい。


「地位には責任も伴うというのは、立派な考えですが……。むしろ、ご迷惑なのでは?」


 村長さんが、同行を断って欲しいと言わんばかりの目でこちらを見てきてるな。


「私なら問題ないです。彼女も自衛ぐらい出来るのは前回のゴブリン騒動のときに知っていますし」

「ボクも彼女なら大丈夫だと思うよ」


 あえて空気は読まずに答える。ノエルも分かってて言ってるな。


「くっ、ですが……」


 村長さんが、やや恨みがましい視線を向けてきているが知らんよ。


 それに本人がそこまで考えているのは分からないけど、同盟者に対して旗色を鮮明にするために共に行動するという行為は、政治的に言えば正しい。

 ノーム族は気にしないだろうけど、これが国の問題であれば同盟者としての信用に傷がつく。

 彼女が危険に身をさらすのも、高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュで、立派だと思うし。

 どこの世界でも後方から動かずに勇ましい事を叫ぶ(やから)が尊敬を得る事はないからね。



────────────



 とりあえず、ノエルの報告は終わったので、準備のために退席させてもらう。

 アーヤと村の重鎮達は、まだ相談があるらしいので会議を続けている。


 ノエルは里への連絡と前回の塩の対価に貰った布や食料などを持ち帰るために一度戻るらしい。

 イノシシの肉も大量なので持ち帰れるのか心配だったが、大量の物を収納できるアイテムバッグを持ってきているそうだ。

 ノーム族の宝で希少なアイテムなので普段は持ち歩かないが、交易などの時には持ち出すらしい。


 そしてノエルは肉や塩なども詰め込んだアイテムバッグを持って、ノームの里へと帰還していった。


 さて、俺は鉱山都市への遠征に備えてクラフトをすることにする。

 この村にも簡単な鍛冶場はあるので、交渉して貸してもらった。

 素材なんかも自由に使っていいらしい。

 塩やイノシシ肉のおかげで、村の人はかなり好意的なので助かる。


 ここで作りたいものは武器。

 出来れば例の牙イノシシを倒せるような武器が欲しい。

 とはいえ武器を扱うのは俺なので使いこなせるかどうかが問題だ


 そこで考えたのが魔法を補う武器。

 現状使い勝手の良い攻撃魔法として石爆(ストーンブラスト)がある。

 攻撃力もあって敵の足を止める効果も高い。

 欠点は命中率の低さから近距離にしか使えない事、地面の石などを飛ばすため使える場所が限られる事。


 メルが両手で投げた岩を直後に魔法で弾き飛ばしたのを見たが、俺も真似しようとしてもうまくいかない。

 十回に一回程度は成功するのだが、これでは戦闘に使えない。


 そこで手の平にのせた石に魔法を発動して酷い目にあった。

 成功はしたが、俺の手の平にも発動時の衝撃が伝わってきたのだ。

 出血こそしなかったものの、手が真っ赤に腫れ上がり痣になりかけた。


 ならばと考えたのが、石を器具に載せて魔法発動する方法。

 (げん)による石弓ではなく、土魔法で発射する石弓を用意すればいいのだ。


 形状は(げん)を使わないので自由に設計できる。

 連射できるように、形を揃えた石の弾丸を複数装填できるようにしたい。

 狙いをつけやすい様に持ち手も欲しいなどと検討を重ねていくと、やがて銃に似たものになっていく。


 脳内で設計を進めていくのだが、その図がはっきりと脳裏に描かれていく。

 なんというか脳内設計図というべきものが記録されていくのが分かる。

 ハッとしてステータスを確認してみると、やはりクラフトスキルに『設計』スキルが派生していた。

 そういえば先日ボートを作ったときに砂浜に設計図を描いていたが、イノシシ戦のレベルアップでスキルとして覚醒したのか。


 ともかく、このスキルは役に立つぞ。

 ワンオフのカスタム品なら職人の勘でもいいが、精密なものを量産する場合に設計図は必須だからな。


 さっそく脳内の設計図で開発を進めていく。

 形状は、ごつい大型拳銃に似た形だが、弾倉はなく銃身の後ろ半分に直列で石弾を詰める。

 リボルバーやオートマチック拳銃のような弾倉による装填機構は、まだ難しい。


 土魔法の石爆(ストーンブラスト)で発射するので、本来は引金(トリガー)も不要なのだが付けた。

 実は引金(トリガー)ではなくストッパーの役割を持っている。

 つまりは銃身に詰めた石弾が下を向けた時に落ちないようにしたもの。

 発射の時だけ引金(トリガー)を引いて魔法発動しなければならない。

 しかも銃身の後部部分はスリットが入っている。

 これは残弾を確認する意味と、魔法発動のため弾丸を視認しなければならないからだ。


 そして、銃身(バレル)、グリップ、引金(トリガー)、トリガーガードの四種の部品で構成される銃モドキが設計された。


 しかし銃に似ているが、実は石弾を保持しているだけの発射機(ランチャー)に過ぎない。

 そうだな、銃と称するのはおこがましいので弾丸発射機(バレットランチャー)とでも呼ぶべきか。


 石弾はクラフトスキルで銃弾のようなものを作る。

 金属が豊富に使えるようになれば金属弾にして、銃身(バレル)にライフリングを彫ってもいいかもしれない。

 石爆(ストーンブラスト)の魔法と違い、発射地点が固定され、弾丸が小さく均一になる事で命中率や弾速が向上するのを期待している。


 いよいよ脳内設計図に従い、手持ちの素材を『変形』してバレットランチャーを作成する。


 銃身(バレル)引金(トリガー)は鉄製、銃身内部にはバネを入れて弾丸が次々発射位置に押し出されるようにする。

 これは神粘土スキルのおかげで、鉄も粘土のように自在に加工が出来るので可能な芸当だ。

 もし鍛治師が銃身を削りだすなら相当な技術が必要なはずだから。


 グリップとトリガーガードは木製でいいだろう。

 木材を粘土化して滑らかに仕上げておく。


 しかし、銃身の長さと装弾数が比例するのが欠点だな。現状では弾頭長を短めにしても四発が限界だ。


 ともかく、バレットランチャー試作一号の完成だ。

 さっそく試してみよう。


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