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2-14 土産

 両親がノームの里に未帰還と聞いて、メルがしょんぼりとしてしまった。

 無事らしいという言い回しになんか嫌な感じがするな。

 後で詳細を教えてもらう事にしよう。


 そんな珍しくしょんぼりとしたメルの元に、小さな女の子が走ってくる。


「メルちゃーん、おかえりー」

「あっ、コルンちゃん、ただいま~」


 あれはフラフープがうまく出来なくて泣いていたコルンちゃんか。

 サイズ的に親近感がわくのか、メルになついていたもんな。


「フラフープでクルクルしよー」

「……うん、あそぼ~」


 コルンちゃんに誘われて、メルは離れたところにいる子供たちのほうへ走っていった。


「トーマ、なんだかメルが幼児化してない?」

「あーそうだな。精神年齢的に近いのかな」

「里にはメルの同世代はいないせいかもしれない」

「なるほどな」


 それとも両親の詳細がわからない不安で幼児化しているのか?

 もっとも、あれが素の可能性もある。


「ところで、この牙イノシシだけど何処で捕ったんだい?」

「海岸に近い竹林だけど、あの時は――」


 ノエルにイノシシを倒した状況を説明する。


「ふーん、こいつはね、迷宮の魔物なんだよ」

「えっ、この通り死体が残ってるし、眼も白眼でないぞ」

「うん。正確に言うと迷宮の魔物が地上で野生化して子孫を残した二世代目以降だね」

「はい。普通のイノシシは、ここまで危険で長い牙を持っていませんよ」


 ノエルの指摘にアーヤも賛同する。


「じゃあ、これって食えないのか? 少し食っちまったぞ」

「いや、それは大丈夫だよ。野生の魔物は食べられる」

「それ以前に、そうそう狩れるものではありませんから。本当にトーマさん凄いです」

「うーん、あれは半分運で自慢できる勝利ではないからなぁ」


 もう一度同じ事をやれと言われても願い下げだ。

 俺のスキルは生産能力特化だから魔物とガチンコバトルなんか出来ない。


 だけど今回みたいなラッキーがいつも期待できない以上、対策は必要だな。

 ゴブリン対策に毒矢を作ったように、何か武器を用意しないと。


「ところでトーマさん、塩の代価に何をお渡しすればいいですか?」

「うーん、じゃあ丈夫な布がほしいな。帆布(ほぬの)になりそうなやつ」


 帆布ってジーンズを作れるんだよね。他にも用途はあるけど。

 クラフトスキルで丈夫な帆布を素材から作るのは手間が掛かりそうだからね。


「それとイノシシの解体は未経験なので教えて欲しい。もちろん、この村とノームの里にも分けるよ」

「ありがとうございます。村のみんなも喜びます」

「ご馳走だねぇ。これは里への良い土産になるよ」


 イノシシはかなり美味いみたいだ。苦労した甲斐はあったな。

 さっそくアーヤが村のおばちゃん達に声を掛けにいったようだ。


 しばらくすると村の男達が大きなテーブルや板を運んでくる。

 大物なので広場で解体するようだ。


 俺や若者たちでイノシシを持ち上げて、板の上に乗せる。


「なんか、このイノシシずいぶん冷たくないか?」

「井戸水にでも漬けていたんか」


 イノシシは凍らせて収納していたせいか、かなり冷たい。

 やはり水魔法では物を凍らせる魔法はないのか?


 とりあえずイノシシの頭を落として皮を剥ぐらしい。

 男達が中心になって作業を進めていく。

 俺は邪魔になるので基本的に見学だ。今後に備えて覚えておこう。


 彼らは苦労しながらも頭と足を切断する。

 死体とはいえ魔物なのでなかなか刃が通らないみたいだ。


 皮に傷を入れるのも苦戦しているようなので手を貸すことにする。

 まず切れ目を入れる場所を教えてもらう。

 自分のナイフを取り出すと、切れ目を入れる場所を指でなぞりながらナイフを入れていく。


「おお、あの固い皮がスイスイ切れていくぞ」

「すげえな。あのナイフ相当な業物なのか」


 彼らにはナイフの性能のように見せてるが、種明かしをすると指でなぞったときに神粘土スキルを微弱に発動して柔らかくしている。

 腹から足へとつなぐ切れ目が入ったので、みんなで剥がしていく。

 剥がしにくい場所では、こっそり神粘土スキルを発動している。


 その後は、部位ごとに切り分けていくのだが、ロース、バラ、ヒレ、モモなど大量だ。

 とりあえず一通りの部位を貰っておくが、大半は二つの村へ譲る。

 ただし、凶悪な牙、皮、油になるラードだけは今後のクラフトにも使いたいので多めに貰っておく。


 そして収納していた内臓なども取り出して渡す。


「おお、アイテムボックス持ちだったのか」

「すげえな。万人に一人いるかいないかってスキルだろう」

「そのせいか、この内臓、鮮度もよさそうだ」

「何いってんだ。アイテムボックスでも時間が経てば腐っちまうんだ。狩ったばかりなんだろう」


 いい加減隠すのも難しいので、村人たちの前でクラフト倉庫から取り出して見せた。

 なるほど。クラフト倉庫以外にもアイテムボックススキルがあって、やはり時間停止効果はないらしい。


「それと血の腸詰(ソーセージ)を作ってみたんだけど」


 ついでにブラッドソーセージも出してみる。


「おお、ほんとかよ。何年ぶりだ」

「この村を作ってから腸詰(ソーセージ)なんで食うのは初めてだぞ」

「生きてて良かった~!」


 いや最後の人、大げさ過ぎだろ。


「俺も初めて作ったんで、あんまり期待しすぎないで欲しい。それに血の腸詰(ソーセージ)はクセがあるから好みによるぞ」

「いやいや、どう見ても立派な腸詰(ソーセージ)だし、俺はこいつが好物だったんだ」


 話を聞いてみると、牧畜が軌道に乗ったのも最近だし、元々が農民でない人達なのでソーセージは作ってなかったそうだ。

 狩りの獲物では現場で血抜きするから、血のソーセージは普通は作れない。

 村人全員で肉を分け合うから保存用にソーセージを作る必要と余裕はなかったようだ。


 では、せっかくの大物なので普通のソーセージも作ってもらおう。


 おばちゃん達も参加して、解体で出たくず肉やその他の食べにくい部分などを細かく刻んでもらう。

 刻んだ肉に塩と香辛料を入れてよく練る。

 ここでの香辛料の組み合わせは、おばちゃん達にまかせた。

 腸にひき肉を充填する器具もなかったので、前回作ったものを渡しておく。

 おばちゃん達がワイワイ言いながら、あらびき肉を小腸につめていく。


 後は茹でれば完成だな。もちろん燻製すれば保存性もあがるし、さらに美味い。


「いやぁ、あんた凄いね。狩りだけでなく料理の腕も大したもんじゃないか」

「内臓の処理もいいね。ウチの男どもはいいかげんなんで大腸なんか食えないことがあるから」


 うん……、テッチャンとかシロコロ好きなんだけど、処理のいいかげんな大腸は食いたくないな。

 だから念入りに水魔法で内容物を吹き飛ばしておいた。

 豚の(タン)やカシラなんかも美味いんだけど、ここではどういう扱いなんだろう。


 それに、おばちゃん達は褒めてくれるが、元々農民じゃない人たちばかりだからね。

 ここまで村を開拓しただけでも立派なもんだ。



────────────



 料理はおばちゃん達でやるそうなので、やや元気をなくしていたメルの様子を見に行く。


「これでね~こうやって~貝を掘ったの~」

「綺麗な貝殻だね」

「コルンにもやらせてー」


 メルが村の子供たちに貝殻を見せていた。

 リュックから例のミニバケツと熊手を取り出して遊んでいる。

 でも広場の土だから固いだろうし、泥だらけになりそうだな。


「うん。ここら辺ならいいかな」

「トーマ~なにするの~」

「砂場を作ってやろうかと思ってね」

「すなば~?」


 広場の端を四角に掘って、そこに海砂を小山になるぐらい出してやる。

 普通の海砂(うみずな)も素材として大量に確保してきたからな。


「ふぉぉぉ! 海とおんなじ~」

「「「すごーい!」」」

「海って砂がいっぱいなんだ~」


 コルンちゃんの勘違いが悲しいな。近いのに海を見たことないのか。

 ついでに人数分のミニバケツと熊手を作ってやろう。

 ああ、スコップもいるか。


 海で集めておいた貝殻からホタテに似たものを選び出し、蝶番(ちょうつがい)部分に目釘穴を縦に二つ開けておく。

 それに細い竹を柄として取り付け、竹と貝殻の目釘穴に竹釘を挿して、スキルで『接合』して抜けないようにすれば完成だ。

 コルンを含めて四人の村の子供達用の遊び道具を作ってやった。


 ここにいるのは、一番年長の少年ヤッド、その次の年長少女ミンディ、次にハーフエルフの少年ミラール、最後に一番年少のコルンだ。

 年上の三人が日本の小学生ぐらいで、コルンが幼稚園児ぐらいに見える。


「へぇ、おもしろいことやってるね」


 いつの間にかノエルもやってきた。


「ああ、俺の国では、こういう子供の遊び場があるんだ」


 村の子供たちは危険な外にはあまり出られないみたいだし、これぐらいいいだろう。


「みんな~ちょっと目をつむって~」


 メルが海で拾ってきた綺麗な貝殻をこっそり砂に埋めている。


「なるほど。宝探しか」

「みんなも貝掘りしたいって~」

「いいのか。せっかく集めた貝なんだろ」

「いいの~みんなで遊ぶ~」


 そうか。じゃあ俺も海で作った人造真珠もどきを出そうか。


「ちょ、ちょっと! 何を埋める気だい!」


 倉庫から人造真珠を取り出して砂に埋めようとするとノエルが俺の手を止める。


「ああ、きれいだろ」

「いやいや、きれいだろ、じゃないよ。真珠なんて高価なものを遊びに使うなんて」

「いや、これ偽物だから」

「は? いや……これは……。真珠にしか見えないけど……」


 ノエルは人造真珠を手に持って、しげしげと眺めている。

 まあ、成分的には、ほぼ近いものだからね。


「でも、その反応を見ると止めたほうがよさそうだ」

「当たり前だよ。子供が持っていたら揉め事を呼ぶだけさ」


 しかたない。海で沢山集めた貝殻の中で比較的綺麗なものを選び出す。

 メルが厳選した綺麗な貝がアタリで、俺の微妙な貝はハズレってことでいいだろう。


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