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1-03 ブッシュクラフト

 夜の闇の中、パチパチと燃える焚き火を眺めながら、眠気に耐える。

 横になって眠りたいが、どんな危険があるかわからない。

 大岩を背後にしてるので、警戒は前方だけで済む。火も焚いているので、多少は安全だと信じたいな。


 そうだ、スキル『神粘土』能力を試して時間をつぶそう。

 ずいぶんと時間もたったのでMP的なものも回復しているだろう。

 気になっていたんだ、この能力は石にしか作用しないのか? 元々、粘土だったらどうなのだろう。

 地面から土をほじくり出して粘土となるように捏ねてみる。すると、昼間の石よりもすんなりと波紋が流れ、あっという間に土は粘土に変化する。


「これは石より簡単なのか?」


 せっかくなので捏ねた粘土はツボのように整形して、固まるように念じてみる。

 波紋が流れ、粘土のツボは固くしまった状態に変わり、水分も抜けたようだ。


「素焼きの土器に近いかな。焚き火で焼いてみるか」


 ツボを囲んで火が均等にまわるよう、焚き火をいじってやる。

 夜は長いんだ。じっくりと焼きながら、この調子で色々検証してみよう



――――――――――――



 検証の結果、様々な事がわかった。

 この能力は素材の密度や形状を変化させることができる。また、俺の意思で変化をコントロールもできるようだ。

 例えば、剥がした木の皮で作った雑なロープもどきを、丈夫なロープをイメージしつつなぞるだけで、丈夫なロープへ変化した。

 元になる素材さえあれば、かなりの物が作れそうだ。

 その一方、できない事もある。元素材と異なるものに変化は出来ないのだ。

 石を粘土化・整形して石のナイフはできたが、土から石のナイフは出来ない。土からは素焼きの土器みたいなものしかできなかった。

 面白いのは木の粘土化だ。薪用の倒木を粘土化すると、木の香りのするふんわりした粘土になった。コネコネして固めると不恰好だが木のコップになる。

 木の皿やまな板なんかも作れそう。そういえば木質粘土ってものは日本にも存在してたな。ただこっちは無添加で木材一〇〇%だ。とってもエコである。

 まさに自由自在なブッシュクラフトにテンションが上がる。


「よし、次は壁を造ってやる。安全な家で眠りたい」


 どこぞの錬金術士のように地面に両手を当て、周囲を一気に粘土化して、壁になるようにイメージする。

 地面に波紋が流れて広範囲の地面が泥濘と化す。そして地面がムクムクと盛り上がり始めていく。


「おおおぉぉ……くっ」


 巨大な壁へと変わるかと思えたその瞬間、俺は意識を失った。



――――――――――――



 チチチチ、鳥の鳴き声に目が覚める。

 壁になりそこなった粘土の小山の前で、俺は目覚める。

 やってしまった。ついテンションを上げすぎてMPの残量を気にせずに使いすぎてしまった。


「やばかった。何やってんだ俺……」


 何事もなかったから良かったようなものの、気絶中に何かに襲われでもしたらひとたまりもなかったところだ。

 能力の使いすぎは最終的に気絶する。このことはしっかり頭に入れておかないとな。


「とにかく今日は安全な寝床を作らないと」


 昨日捕った魚と木の実の残りで簡単な朝食を済ますと、今日の行動方針をシェルター作成と決める。

 普通こういった場合、倒木や木の葉を集めてシェルターを作るのが普通。だが俺の能力を考慮に入れた場合、もっといい方法がある。

 崖を粘土化して浅い洞穴を掘ればいいんじゃないかな。冬山遭難時の雪洞を土壁に作るイメージだ。


 昨晩の気絶の経験は無駄ではなかった。実は粘土化だけならかなりの広範囲にわたって成功してたんだ。

 つまりは土壁を作ろうとして、大量の土を隆起させようとしたためにMP切れを起こしてしまった。

 だったら今度は粘土化だけにして、後は人力で掘ってやればいい。


 まずは穴を掘るために、石をシャベルの先端部分の形に粘土化、整形する。そこに木の棒を取り付けて、元の石に戻せばシャベルの完成だ。

 神粘土スキルも、このやり方なら消耗が少ない事は感覚的にわかるようになってきた。

 さてシャベルを担いで、横穴を掘るのに良さそうな斜面を探しにいこう。



――――――――――――



 小川から大して離れていない場所にいい具合の急斜面を発見することができた。斜面は固くしまっていて、周りに落石などの崩れた痕跡も見当たらない。


 斜面を粘土化してザクザクと掘り進めていく。入口はあまり大きく掘らない、かがんだ状態で出入りできれば十分だ。奥行だって二メートルもあればいいだろう。

 とりあえず今晩安心して寝れる場所が欲しい。

 掘り出した粘土は、平たく固めて扉の代わりとする。これは入口を塞ぐ蓋みたいなものだ。内側に持ち手になる部分を作っておく。

 寝るときは内側から横穴に立てかける予定だ。多少出入りに不便だが、今はこの程度で妥協するしかない。

 せめてもの気休めに、表側は自然な状態に見えるように偽装する。

 わずか数時間で横穴が完成。神粘土スキルと不思議に向上している身体能力のお陰で簡単に掘れた。

 内部の広さはカプセルホテル程度しかないけど、とりあえずのシェルターとして十分だ。

 昨夜からの寝不足に加えて精神的な疲労を感じる。

 できたばかりのシェルターで仮眠をとることにする。



――――――――――――



 数時間後目覚めた俺は、再び食料や素材となる植物などを求めて、周囲を探索しつつ小川へと戻る。

 サルナシもどきの実、大きな植物の葉や木の皮などを手に入れた。

 草や植物の葉からは、(ムシロ)藁縄(わらなわ)、紐などを作りたい。


 それと、お宝素材を見つけることができた。お宝の名、それは竹。竹は優秀なクラフト素材の一つだ。

 まっすぐな幹、中空な構造、長く軽く、加工しやすい、さらにはたけのこは食料ともなり、その成長は非常に早い。

 まさに万能素材と言えるだろう。

 現代では、その生命力の強さゆえに、非常に厄介な植物扱いされてるけどな。


 とってきた竹は縦に割いて竹ひごを作る。竹は断面にナイフの刃を立てて上からハンマーで叩いてやれば簡単に割くことができる。

 この竹ひごで、魚捕りの罠を作る。

 この魚の罠、最近では、よくペットボトルを利用して作られる。ペットボトルの上部を切り取って漏斗(ジョウゴ)のようにする。それを反対にひっくり返して下の部分に差し込めば、簡単に作れるからだ。

 漏斗(ジョウゴ)の大きい側の口から入った魚は、細い側の口からは脱出しにくい習性を利用する。

 似たようなものを竹ひごで作るわけだが、ここでも粘土化スキルは非常に有効だ。竹ひごを束ねて円筒に加工、漏斗状の部分の作成など、簡単に整形固定できる。

 さらに植物の葉からは荷物を持ち運ぶための麻袋のようなもの、いわゆるズダ袋を作りたい。同時にロープや紐も作る事にする。


 そうそう大事なものがある。水筒が欲しい。これも探索を進めるためにも絶対に必要なものだ。

 昨晩のツボはなんとか焼きあがっていたものの、やはり素焼きの土器なのでゆっくりと水が染みるようだ。

 釉薬がないと防水が不十分だな。重いし水筒にはならない。

 そこで木を木質粘土化して、ひょうたんの形に整形する。ひょうたんは昔から人類が水の容器として活用してきたんだ。

 現代人ならペットボトル型でもいいかもしれないが、精密なキャップ部分を作れないからな。

 木栓で蓋をするなら、ひょうたん型の方が風情があっていいじゃないか。

 魚の罠、ズダ袋、水筒、細い紐や太めのロープを作ったところで、重要な事に気づいた。


「そういや武器がいるよなぁ」


 不思議と昨日は遠くに見える鳥以外の野生生物に遭遇していない。だが、いないわけはないだろう。準備が必要だ。

 石のナイフ、斧、シャベルなどはあるが、どれもリーチがないのが不安だ。


「槍が欲しいな」


 長さは森での取り回しを考えると、身長より少し長いくらいでいいだろう。杖がわりにもなるので、穂先だけではなく石突部分も必要だ。

 粘土化スキルで石の穂先と石突を作成して、丈夫でしなりのある木の枝に固定する。

 ズダ袋に水筒、紐、ロープを放り込み、腰紐に石ナイフ、石斧をぶら下げ、石槍を持つ。


「うん、石器時代の狩人だな」


 日が暮れる前に、魚の罠を仕掛けておこう。今夜の分はガチンコ漁で捕るしかない。

 今日も、ガチンコ漁で十匹以上の魚を捕ることができた。

 罠は少し離れた所に仕掛けるのがいいだろう。


 俺は下流に向かい、流れの穏やかで深い場所に罠を沈める。餌には川の岩の裏にいる虫や昨日の魚の内臓などを使う。

 これで魚が取れてくれると、明日からは冷たい水に入らなくても済むな。

 とりあえず、サバイバル生活も安定してきている。

 これならなんとか生きていけると安堵する。


 そんな時、奴は現れた。


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