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2-12 再び村へ

 イノシシのおすそ分けや塩田棚の相談にコルニア村へいったん戻ろう。

 翌日の朝、メルに伝えると完全拒否された。


「やだ~、キュキュルといっしょにいる~」

「キュキュキュ~」

「そうは言ってもな。君たちだけで置いてくのはダメだろう」

「メルつよい~」

「キュッキュッキュウ」


 会話できてるの、君たち?


「でもキュキュルも食事とかで離れるだろうし、ずっとは居られないだろ」

「でも~」

「キュゥゥ~」


 保護者としての責任もあるので、ここに二人?で残ることは却下する。

 ただ妥協案として、途中まで一緒に行くのはどうかと提案した。


「川の途中、魚を捕った場所辺りまでなら、広さも深さも十分あるし、キュキュルでも付いてこられるだろ」

「うん。キュキュルいっしょにいこ~」

「キュキュ~」


 ようやく納得してくれたので、拠点に戻って準備をする。


 カマボコハウスの一角には鉄鉱石と針金や鉄片が作成中のままだったから、これを片付けて収納する。

 ここに居る間は寝る前に精神力(MP)に余裕があるときは、『精錬』スキルで鉄を抽出していたのだ。

 大量に精神力を消耗するので、余裕のあるときに作っておかないと、いざという時に使えないからな。


 外に干していた乾物や、大量に作った壷や樽なども収納する。

 茹でた後に燻製していたブラッドソーセージも取り出して、氷ブロックと一緒に収納する。


 たいした荷物はないメルもリュックを背負って準備完了だ。

 しかし身軽に越したことはないので、それも収納してやる。


 なぜなら村への帰り道には海路を使う予定だからだ。

 海に入ってクラフト倉庫からボートを取り出すとメルの眼が輝く。


「帰りはボートでの移動を試してみよう」

「さんせ~。やった~!」

「キュキュキュ~」


 とびあがって喜ぶメル。

 キュキュルも沖合いから喜びの声を上げている。


 さあ、コルニア村に向けて出航しよう!



────────────



 まずはキュキュルのいる深さのある沖合いまでボートを進める。

 キュキュルは喜んでジャンプしてるな。

 俺達が拠点に戻り準備している間に、沖で食事でもしてたのか。

 主食はなんだろう?

 アジやイワシのような小魚か、それともオキアミか。

 まさか、シャチのようにペンギンやアザラシとかなんだろうか。


 ボートと併走するキュキュルは泳ぐ早さが段違いなので、たまに沖に離れていくとジャンプしてる。

 ん、キュキュルがジャンプすると同時に周囲にキラキラ光るのは小魚か?

 なるほど、小魚の群れを追い込んで、下から一気に掬い上げてるのか。


「キュキュルすごい~」

「小魚が大漁だなぁ」


 何度か繰り返すと、キュキュルは満足したのか、再びボートに寄ってくる。

 そしてボートの縁に頭を乗せると、口を開いて大量の小魚を吐き出した。


「うわわわ」

「おさかな~いっぱい~」

「キュッキュ、キュキュキュ~」

「おさかな、わけてくれるって~」


 やっぱり君たち会話してるでしょ……。


 お魚を分けてくれたキュキュルは、さらにボートを押してくれる。

 ボートの遅さに業を煮やしたのかもしれないが正直助かる。

 キュキュルの押すボートは、快適な速度で海を疾走していく。


「わ~い、はやい、はや~い」

「キュキュキュ~」

「海風が気持ちいいなぁ」


 キュキュルに押されたボートは例の岩礁の沖を通り過ぎる。


「しかしキュキュルに傷をつけた生き物はなんだろうな」

「メルがやっつける~」

「キュウ! キュキュキュ~」

「こんどはまけないって~」


 ねえ、ほんとにそう言ってるの?



────────────



 やがてボートは下ってきた川の河口にたどり着いた。

 ここからは川を遡上していくわけだけど、キュキュルが泳げる水深か注意しながら行かないと。


 キュキュルに押されながら川を遡上していく。

 拠点からここまで徒歩の何倍もの速さで進んでこれている。

 ほんとキュキュルのおかげで助かっている。


 そういえば、ここはピラルクもどきを捕った辺りじゃないか?

 不意にキュキュルがボートから離れると水中に潜った。


 バシャーン、派手な水しぶきと共に大きな魚が水上に飛び上がる。

 いや、違うな。飛んだんじゃない、水ごと弾き飛ばされたんだ。


 その証拠に飛んだ魚は水面に魚体をしたたかに打ったようだ。

 やがて水上に頭を出したキュキュルがその魚を咥えると一口で食べてしまう。


「ふぉぉぉ! キュキュルすごい~」

「デカイ魚も食うんだなぁ。でも今のは水魔法じゃないか?」

「キュキュ~」

「そうだよ~だって」


 水中でも水魔法使えるのか。すごいな。



────────────



 川を進んでいく俺達だが、そろそろ水深が浅くなってきたようだ。


「そろそろキュキュルは進まないほうがいい」

「え~」

「キュゥゥ~」

「浅瀬で身動きとれなくなるから無理はダメ」

「ざんねん~」

「キュゥゥ」


 キュキュルには海まで戻るように伝える。

 なんか俺の言うことも分かってるようなんだよね。


 キュキュルに大きく手を振った俺達は、後ろ髪を引かれる想いで、この場所を離れる。

 さっさと離れないとキュキュルが動く気配がないんだよ。

 メルもそのことを理解してるのか振り返らずに歩いていく。


 しばらく歩いた俺達は来るときに採取をしていた場所に着いた。

 ここにはゴムや(うるし)に似た樹液をだす木があって、採集容器を取り付けていたんだった。


 数日経っているので当然ながら採取容器内の樹液は固まっていた。

 神粘土スキルがあるので、たぶん問題ないだろう。

 有用そうなので、同じ種類の複数の木に傷つけて採集容器をセットしておく。


 そして採集をしながらコルニア村に向かっていく。

 川の途中から森を抜けていくと、やがて見覚えのあるコルニア村の門が見えてくる。



────────────



「こんにちは」

「ただいま~」


 門番に立っていた青年に声をかける。


「こんにちは。先日はありがとうございました」


 ああ、この青年は騎士ヤーゴルの部下でゴブリンと戦っていた仲間の一人か。


「ちょっと相談したいことがあってね。村長さんやアーヤに会いたいんだけど」

「わかりました。村長とアヤナ"様"にお伝えしてきます」


 青年はそう答えると村内に走っていった。

 うーん、彼はアヤナ"様"と強調しているんだけど、どうすべきかな。

 俺は、彼女の立場について建前では知らないことにしてるので愛称で呼び捨てにしてるけど。


 村の人間に隠す様子が見られないのは、彼女への敬愛もあるのだろうけど同時にその地位を回復することを夢見ている気がする。

 彼らを追いやった帝国が鉱山都市を占拠した今、危ないことにならなければいいけどね。


「トーマさぁぁん」


 息を切らせながら、村の中からアーヤが駆けてくる。

 俺は片手を上げてアーヤに答える。

 おや、アーヤの後ろから歩いてくるのはノエルじゃないか。

 ノームの集落からここまでやってきたのか。


「メル~、君はどこまで勝手に出歩くつもりだい~」

「あたたた~、トーマ~たすけて~」


 メルはノエルに頭をコブシでぐりぐりされて悲鳴を上げている。

 手紙を書いたとはいえ、勝手に海まで付いてきたのはまずかったようだ。


「ノエル、メルにはずいぶん助けられたから、そのぐらいで勘弁してやってくれ」

「へぇ~、また何かあったのかい」

「ああ、メルがいなけりゃ、こいつはヤバかった」


 収納していたイノシシを出してやる。


「ほおお、大物の牙イノシシじゃないか。これをたった二人で?」

「あわわわ、トーマさん、すごいです」

「メルとトーマでやっつけた~」

「なんとか仕留めたんだけど大物過ぎてね」


 ノエルは感心してるし、アーヤも口元を押さえて驚いている。

 だが、これだけではないのだよ。


「そして本命のお土産はこっちだ」


 塩の入った壷をいくつも出してやる。合計で四十キロぐらいはある。


「これは塩かい。いったいどんな魔法で手に入れたんだい?」

「えぇぇぇ! 村を出てから十日もたってないのに」


 ノエルとアーヤの驚きの声で、村人達もイノシシと壷に気づいたみたいだ。なんかザワザワしてる。

 目立つのは問題だけど、解体とかする関係でクラフト倉庫の性能は隠せないからいいけどね。


「それと、これからも塩を手に入れる方法を用意したんだ」

「もうトーマさん、どこまで私を驚かすんですか……」


 アーヤは驚きすぎたのかな、少し涙目になっている。


「あ~、いい雰囲気に水を差すようですまないけど僕も伝えたいことがあるんだ」

「なんだい?」

「特にメルに関係あることなんだけど、鉱山都市に向かった仲間の何人かが戻ってきた」

「ほんと~! 父さまと母さまは~?」

「ごめん。無事らしいけど戻ってきた仲間の中にはいないんだ」

「……そう」


 なんかまた、一波乱ありそうな気配だ。

 でもメルの両親か……。

 俺はどうすべきだろう?


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