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2-09 太くて長い

 ここ数日、俺達は塩田棚で製塩作業を繰り返して大量の塩を作っていた。

 沢山あれば、コルニア村だけでなくノーム族のリルトコル村にも返すことが出来る。


 燻製小屋の魚と鳥の燻製も完成している。

 塩とスパイス控えめのマイルドタイプは先に出して味見してみたが、かなり上出来だった。

 いい具合に薫香がついていたし、塩加減も控えめだから料理にアレンジしやすい。

 その分、日持ちしないだろうから適度に消費していこう。


 そして塩とハバネロもどきを効かせたスパイシータイプは予想はしていたが、かなり強烈な味。

 いや不味くはないんだ。

 ただ燻製時間を長くした分、薫香は強いし、辛くてしょっぱい。

 ジャーキーのように酒のツマミや保存食にはいいだろう。


 どちらにせよ、大量のピラルクもどきの肉が保存加工できたのはありがたい。


 そして、せっかく海に来ているのだから海に出たい。

 塩作りの合間には作業がないので、その時間を利用してボートを作っている。


 ボートといっても、釣り用の三~四人乗りボートがせいぜいだ。

 そのくらいなら俺のクラフト倉庫にも入るし、材料も少なくて済む。


 最近はネット通販でも釣り用の小型ボートは売っていて、二分割して軽自動車に乗るものなんかもあった。

 ネット動画で見た形状を思い出しながら完成予定図を砂の上に描く。


「なにこれ~」

「これは小型の船だ。これで魚釣りをやってみよう」

「ふぉぉぉ! ふ~ね~! さかなつり~!」

「そこそこデカイからな。手伝ってくれよ」

「おてつだいする~」


 砂浜に棒切れで線を引き、仮想のボートを描いてみる。

 メルと二人でボートの絵の上に乗って、大体のサイズを決めるんだ。

 ボートの全長は三メートル、幅一メートル半、深さは五〇センチぐらいでいいだろうか?

 まったくの素人なので、とにかく試行錯誤するしかない。


 ボートの素材は定番の竹だ。というか他に適した素材はない。

 ボートの底などの平面は竹を板状に変形したものを繋げていけば済む。

 これは竹製の樽作りでさんざんやった作業だから慣れたものだ。


 さらに曲面の細かい部分は粘土化した竹で埋める。

 平面部分のパーツを接合しながら硬化していくが、なかなか難しい。

 しかし、メルが手伝ってくれるおかげで、俺は神粘土スキルの発動に集中できる。


 二人で協力した結果、数時間で試作ボートが完成した。

 もちろん、オールなども忘れずに作成する。これは万一の予備も作って収納しておく。


 さっそく、ボートを海に浮かべて乗ってみる。


「ふぉぉぉ! ういてる~」


 俺が押さえたボートに、まずメルが乗り込んでいく。


「よし、つぎは俺の番だ」


 メルが立った状態のボートは俺が乗ろうとすると、かなり傾く。


「うわわわ~ ゆれるよ~」

「そうか、あぶないな。メル、人が乗るときは座ってくれ」

「ほ~い」


 メルが座ったことで少し安定して、なんとか乗り込むことが出来た。


「わ~い。ふね、おもしろ~い」


 メルはボートの舳先に立って遠くを眺める。

 バランス感覚いいな。俺がやったら間違いなく海に落ちるわ。

 というか、今は俺が座っているから安定しているが、俺一人でボートに立ったら転覆しそうだ。

 船の左右にフロートを追加すれば、もっと安定するだろうか。


 よし、フロートは状況によって取り付けるオプション装備として用意しよう。

 バラせたほうが運ぶのに楽だからな。

 ボートにもフロートとのジョイント部分を追加する加工が必要だ。


 フロートは浮力の助けにもなるから完全密封した上で中空にする。

 上面だけは荷物を載せたりできると便利なので平面にしておこう。


 いくつかの試行錯誤の結果、ボートが完成した。

 フロートをつけたことで安定するようになり、大人四人ぐらい乗っても問題なさそうだ。


 そしてフロートは見た目がバナナボートやイルカボートに似たような形。

 フロート単品でもまたがって乗れば水遊びに使えるな。

 カヌーで使うようなパドルも作っておこう。


「あははは~、おもしろ~い」


 腰の高さの海にフロートを浮かべてやるとメルが大喜びで乗り込んできた。


「見よ! このパドルさばき」

「ふぉぉぉ! なにそれ~メルもやりた~い」


 俺ももう片方のフロートに乗り込んでパドルで漕いで見せるとメルもやりたがったので、もう一本を渡してやる。

 結果、二人で競争したりして遊ぶことになった。


 せっかくだから、フロート同士を平行に並べて固定する部品も作った。

 こうするとフロートにまたがらなくても乗れて、遊び方も増える。


「あははは~。た~の~し~」


 メルは並べたフロートの上に立ってサーフィンみたいなことやってるな。

 よし、明日はボートで沖に出てみよう。


 しかし、大量に竹を使ったことで在庫が心もとなくなってきた。

 そういえば竹林に罠も設置してあるので、そろそろ確認に行かねばならない。



────────────



 翌日、崖の上の竹林に来た俺とメルは早速、罠を見回りに行く。


「あな、こわれてるよ~」

「あちゃー失敗か」


 落とし穴は偽装の蓋部分が完全に崩れ落ちている。

 穴の周囲も何かが暴れたのかボロボロだ。

 穴の中も確認してみるが、穴の底に配置した竹槍は潰されていた。

 これ二メーター近い深さなんだが、一体どんな奴が壊したんだ。


 しかたない、罠はあきらめて竹の伐採をすることにする。

 竹の使い道は多いので前回よりずっと多く集めておく。

 もちろん新鮮な(たけのこ)も補充する。


「フゴーフゴー」


 夢中で(たけのこ)を採取している俺の背後で、なにか聞こえる。

 嫌な予感に振り返ると、そこには下顎から巨大な牙を生やしたイノシシの姿があった。


「フゴォォォ!」


 巨大な牙のイノシシは雄叫び(おたけび)をあげると、俺に向かって突っ込んでくる。


「うぉぉぉ!」


 慌てて真横に転がることでギリギリ突進を避ける。

 なんと、突進時に牙がかすめた竹がえぐれているじゃないか。


「うわわわ、あんなん俺の知ってるイノシシとちがう!」


 イノシシの体長は一メーター半は超えて、体重も大人三人分ぐらいありそう。

 特に異常なのは、下顎から斜め外側に飛び出した太くて長い牙。

 長さは数十センチはあり、先端は鋭く、俺が作った石槍より遥かに強そうだ。

 つまり、あの突進ならホブゴブリンでも殺れるんじゃないか。


 魔法で攻撃しようとして気づく。

 竹林の地面は土で周囲に大きな石がない。

 つまり石爆(ストーンブラスト)は使えない。

 イノシシの前で土を石化する暇もない。


 やばい、他の魔法は衝撃を与える力が弱くて、あの突進を止められない。

 つまり銃でいうところのマン・ストッピングパワーに欠ける。


 メルも今は弓と毒矢を持っていない。援護は期待できないか。

 せめて竹林でなければ木に登ってかわすんだが……。


 まてよ、石じゃなくても、足止めになれば。


土爆(マッドブラスト)!」


 地面の泥が派手に吹き上がり、イノシシの顔を直撃する。


「ブフォォ」


 イノシシが混乱する隙に、その場を逃げ出す。

 すでにメルはちゃっかりと逃げている。

 怒りに燃えたイノシシは追撃してくるが、竹を盾になんとかかわし続ける。


「トーマ、こっち~」


 回避を繰り返していると、メルが俺を呼ぶ。

 あそこは落とし穴を掘った際の残土を捨てた場所か。


 残土捨て場に走ると、そこには残土に混じって掘り出した岩がいくつも転がっている。


石爆(ストーンブラスト)~」


 俺を追ってきたイノシシにメルが土魔法を放つ。


「ブゴォッ!」


 イノシシは横っ面に岩の直撃を受けて転倒するが、すぐに立ち上がって逃げ出した。

 ただ転んだだけで、ダメージは少なそうだ。


「フッー、フッー、フッー!」


 メルの奇襲に一旦逃げ出したイノシシではあったが、怒りは収まらないらしく離れた場所から唸り声を上げ続けている。


「メル、その場所で時間を稼いでくれ!」

「ういうい~」


 メルの斜め背後の方向に向かって走り出す。

 この方向が一番近いはずだ。


 よし、この場所ならば!


 クラフト倉庫からゴブリン洞窟攻略時に使った竹束を全部出す。

 生えている竹の間をロープでつなぎ、竹束をロープに立てかけて並べる。

 そして別のロープを太そうな竹の根元に結び、反対の端を掴む。


「よし、メルもういいぞ」

「ほ~い」


 唸るイノシシを石爆(ストーンブラスト)で牽制していたメルに声を掛ける。


土爆(マッドブラスト)!」


 俺の土魔法で泥が広範囲に吹き上がりイノシシを巻き込む。


「ブフォォ!」


 メルを睨んでいたイノシシにダメージはないが、再び俺に怒りが向く。

 よーし、それでいい。

 俺はすばやく竹束の背後に逃げ込むと、再び魔法を放つ。


土爆(マッドブラスト)!」


 竹束の背後から姑息に地味な攻撃をする。


「フゴォォォ!」


 顔面に吹きつけられる泥に視界を奪われながらも怒りの雄叫び(おたけび)をあげるイノシシ。

 イノシシは俺の攻撃が大したことない事を理解したのか突撃してくる。

 それを見た俺は竹の根元に結んだロープを掴んだまま腕に巻く。


 ド、ド、ド、ド、ド……、ドガァッ!


 イノシシの突進を受けた竹束が吹っ飛ぶ。

 その激突の瞬間、俺は背後に飛んだ!


「ブイィィィィィ!」


 竹束を吹き飛ばしたイノシシは、その勢いのまま空中へと飛び出した。

 そう、竹束の背後は崖。防壁ではなく背後の崖を隠すための竹束。


 イノシシの悲鳴が尾を引いた直後、ドーンという衝撃音が聞こえてくる。


「これぞ背水(はいすい)の陣ならぬ背崖(はいがい)の陣? かな……」


 俺はロープに掴まって崖からぶら下がりながら呟いた。


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